「デスァ!! デスァ!!」
飼い実装の「ボルチモア」がテレビを指差して、大声で咆えている。 テレビでは火曜サスペンスドラマが流れていた。
「デッ!! デデェ!!!」
俺の袖を握り、しきりにテレビ画面を指差して、デスァ!! デスァ!!と叫んでいる。 場面に、市原悦子が出る度に、ボルチモアは大声を出す。
「なんだ、おまえ。家政婦が好きなのか」
「………デ」
今は市原悦子は出ていない。だから、ボルチモアは大人しい。 しかし、市原悦子が眉間に皺を寄せながらテレビ画面に現れると…
「デッ!! デスァ!! デスァ!!」
大興奮だ。市原悦子の独特の女優のオーラだろうか。 おそらく、その一流の只ならぬ気品に魅せられてだろう、ボルチモアは彼女に大興奮だった。
そんな市原悦子が、例のシーン。 そう。ドアの隙間から顔半分を出しながら、主人の秘密を盗み目する例のシーンが現れた。
「デェェエエエッ!!!」
そこでボルチモアは絶頂を迎えた。 部屋のあちこちを走り回り、台所に向かって走っては居間に戻り、また台所に向かって 奇声を発しながら走り去る。
「ははは」
そんなボルチモアが台所から顔を出した。
「……………」
「いや。真似せんでええから」
「………デー」
「いや。なんも秘密ないし」
この日からボルチモアに、『市原悦子ごっこ』という遊びが加わった。 やれやれ。
(完)