『DQNの実装石』5
■登場人物 利明 :実装ブリーダーを目指す男。 アリサ:利明の飼い実装。 仔実装:アリサの仔実装(雷電/ミスティーク/歌丸/セルシオ/ヒデキ) 早苗 :利明の妻。 輝虎 :利明の長男。小学5年生。金髪。 姫蘭 :利明の長女。小学3年生。茶髪。
■前回までのあらすじ 利明は普通の中流家庭で暮らす一家の家長だ。しかし、利明は一身上の都合で 以前から働いていた職場を退職してしまう。利明は愛する家族を養うために 次の職を転々と探していた。その中で出会った職業「実装ブリーダー」。 利明は失業手当を貰いながら、利明は次の職である実装ブリーダーを目指す べく、飼い実装のアリサに仔を産ませた。生まれた仔実装たちを躾ける利明。 この仔たちは案外賢い仔であった。利明はこの仔実装たちを売却することにした。 ==========================================================================
アリサはその日仔実装たちの鳴き声で目を覚ました。 いつものようにお腹を空かせて鳴いているのか。 そう思ったが、どうも鳴き声が違う。 まるで身の危険が訪れたような必死さを漂わせる鳴き方だった。
「デデッ!?」
アリサは毛布代わりにしていた便所マットを剥いでは起き上がる。
「おら。おまえら大人しくしろ」
見れば奴隷の利明が仔実装たちを連れて、家を出ようとしている。 その手に抗って、仔実装たちは鳴いているのだ。
「デデッ!!」(奴隷! 何してるデスッ! 子供を離すデスゥ!!)
アリサは短い足でテコテコと駆けては、利明の足をめがけてポカポカと叩き始めた。
利明は、仔実装たちを売り飛ばすつもりだった。 目を緑色にしたアリサは、暫くすればまた出産を迎えるだろう。 この狭いアパートだ。定期的に仔実装を「まびいて」しまわないと手狭になるのは 目に見えていた。
「テェェン!テェエエン!」(ママッ! 助けてテチ! ママッ!!) 「デチチー!チィー!」(離すテチ! 糞奴隷ッ! ママァ!! ママァ!!)
「デスデスッ!」(おまえ達。安心するデス! ママがおまえ達を守るデスッ!)
アリサが利明のズボンを掴んでは、デスデスと利明に向って必死に訴えた。
「あん。アリサ。遊んで欲しいのか。すまんな。これから俺はこいつらを今から 売りに行かないといけないんだ」
「売る」という単語を聞いて、アリサの顔が真っ青になる。 リンガルを通していないので、正確な意味はわからなかったが、どうにもいい雰囲気ではない。
「デッ! デデェー!」(奴隷ッ! この仔たちをどうするつもりデスゥ!!) 「テェエエエエエン!」(ママッ! ママッ! テェェェェェン!!)
アリサと仔実装の絶叫が、狭いアパートに一室に響き渡った。
泣き叫ぶ仔実装は利明の手の中で、必死に身を捩じらせては涙を床にボロボロと落としていた。 その涙が、足元で利明の足を必死でたたき続けるアリサの顔に降り注ぐ。 次第にアリサの緑色の両目にも涙がうっすらと滲み始めた。
「デェスァ!」(離すデスッ! 奴隷ッ! 命令に従うデスゥ!!) 「テッチー!テチテチー!」(ママァ!! 恐いテチィィ!! ママァ!! 抱っこしてテチィィ!)
「ま、売っちまえばこいつらの飯代も浮くしな。一石二鳥ってわけだ」
「テェ!」 「テェ?」 「テチー?」
「飯」という単語を聞いては、利明の手の中の仔実装たちは泣き叫ぶのをやめた。 そう。「飯」という単語で連想するものはただ一つ。
「テチィ♪」(ガストテチィ♪) 「テチュ〜♪」(ガスト行くテチ? ガスト行くテチ! ガスト行くテチ!) 「テチュテチュ♪」(ガストテチィ♪ テププ♪ 楽しみテチィ〜♪)
そして、一気に嬉々と鳴き声ではしゃぎ出した。
「デェェェェ!!」(おまえ達。騙されてはいけないデスッ!) 「デスデスッ!!」(嫌な予感がするデスゥ!!行ったらきっと悲しいことになるデスゥ!!) 「デギャァス!!」(きっと、ここに帰ってこれなくなるデスゥ!!)
「テチー?」(ママはガスト行けないテチィ?) 「テチュテチュ」(ママはお留守番テチィ♪ ワタチ達だけで楽しんで来るテチィ♪) 「テプププァ!!」(テププ。ママは僻んでいるテチ。テプププ♪)
「おう。じゃぁな、アリサ。次の仔をしっかり産んでくれよ」
利明は大きくなったアリサのお腹を見ては、にやけた笑みを浮かべて部屋を出た。
「デェェェ!!」(ま、待つデスッ! 何でもするデスッ!) 「デギャァァス!!」(子供たちだけは駄目デスッ! 私の全てデスゥ!!)
アリサは部屋を出た利明を追いかけ外に出た。 しかし、人間と実装石の足。 既に利明の姿はそこになかった。
「デェェェェ〜〜ッ!!! デェェェン!! デエェェェェン!!」
アリサは天に向って鳴いた。きっと今のが今生の別れ。 そう実装石の本能が、彼女に告げていた。
オロロロ〜ン!! オロロロ〜ン!!
口をへの字にして、必死に歯を食いしばって泣いた。 泣けば泣くほど脳裏に愛しい子供達の姿が浮かんでくる。 今はもう感じることのできない子供達の温もりを体が欲してくる。
デッスン… デッスン…
ひとりしき泣いた後、アリサは一人部屋に戻り、部屋の片隅にちょこんと座った。
呆けては自然と溢れる涙を拭っては、アリサは自然にお腹を擦り口ずさんでいた。
デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪
暗い部屋の中、アリサは涙声で唄うしかなかった。
ここは双葉市の市民ホール。 本日はこの地域での実装関連市場の商談が中心に行われていた。
その中の1ブース。 ここでは、主にペットショップ関連の卸業者と実装ブリーダーを中心とした 新規取引の引合いが行われている。
「弊社の実装ファクトリーでは、遺伝子配合により、品質のいい仔実装を 供給することができます」 「ほう。サンプル品を見せてもらえるかね」 「どうぞ。このケージに入れております」
黒縁眼鏡の背広服の男は足元のケージを机の上に置いては、中から仔実装を取り出す。
「24時間体制の徹底管理による躾・学習ともに習得済みです」 「どれ」
卸業者の男はリンガルを片手に品定めを始めた。
「君の名前は?」 『こんにちわテチュ。ニンゲンさん。私はまだ名前は戴いていないテチュ。 優しい飼い主さんに飼っていただき、その時に始めて名前を戴くテチュ。 その時が、とっても楽しみテチュ』
卸業者の男は、続いて簡単なパネルを使った算数・国語・社会の問題を出す。
『9×9の掛け算までは、大丈夫テチュ』 『平仮名までなら何とか読めるテチュ』 『道路は右側通行テチュ。青は進め。黄色は注意テチュ』
「ふむ。基準はクリアしてるね。で、月にどれくらい供給できるの?」 「ええ。弊社のプラントは大きく月産…」
どうやら新規商談がまとまるようだ。 そんなホールの中、どうも異なる雰囲気を漂わせた男がいた。
サングラスに金髪。アロハシャツに短パン。サンダル履きの男が手にコンビニ袋を 持っては、ガムを噛みながら大股で闊歩している。
コンビニ袋には、何かが入っているらしく、もぞもぞと動いていた。 テチュー!!テチュー!!という興奮した声が、コンビニ袋から漏れている。
利明だ。 今日は利明のダチの情報により、卸業者に直接仔実装を売りつけることができる 集まりがあると聞き、急遽仔実装を連れてきたのだ。 コンビニ袋の中には、糞まみれの仔実装たちが所狭しと蠢いていた。
丁度、新規契約が成立したようで、握手を交わして先ほどの背広の男が去っていく。 利明は、当たり前のように並ぶ列を割り込んで、その卸業者の前に立った。
「おう。頼むわ」 「商談の引合いですか?」
卸業者の男は、訝しそうな視線で、利明の格好をじろじろと眺めている。
「ん」
利明はコンビニ袋を机の上において、片手をポケットに突っ込み、もう一方の片手を 卸業者の前に差し出した。
「なんでしょう?」 「1匹10万でいいぜ。5匹で500万。はやく寄こせよ」 「あなた… 何を言ってるんですか?」
しまった。利明は思った。 1匹10万はふっかけ過ぎたか。 利明は悔やむ。ビジネスは第一心象が大事だ。しかし舐められてはいけない。 終始ペースをこちらでコントロールしないと足元を見られてしまう。
「1匹9万8千円だ。これ以上はまけられないな」
卸業者の男は目の前のコンビニ袋に目をやった。 ここから出せ!狭い!臭い!といった言葉が、絶えずリンガルに表示されている。
卸業者の男は、利明の顔を見上げて、おそらく仔実装を売りに来たのだと理解する。 ブリーダーという業種は、シェアの8割を大型企業などで喰い争っている。 残り2割。それは個人経営を中心とした個人ブリーダーの存在がある。
こういった場には、隠れた在野のブリーダーなどが訪れることがよくある。 1匹10万は相場では、破格の値段だが、マラの袋付や芸能石などの仔実装には 10万であっても払うに値する。
利明が持って来たのが、もしかしたら、そういった稀少な実装石なのかもしれないと 卸業者の男は認識した。
「見させて貰うよ」 「へへ。頼むわ」
卸業者の男は、慎重にコンビニ袋から1匹の仔実装を取り出しては、リンガルの表示を見る。
『テェ? ガストテチィ?』
卸業者は仔実装を手に掴んでは下着を降ろして、総排泄口を虫眼鏡で見る。
『テェァァァァァ!!! 糞ニンゲン!! 触るなテチ!! テチャァァァァァーーー!! 犯されるテチーーー!! 獣テチッッ!! お米屋さんテチィ!!』
特にマラはない。普通の雌だ。言動から見る限り、糞蟲の類である。 すると芸能石の類か。卸業者は、リンガルを通して、2・3の質問を繰り返した。
「お名前は?」 『テチ? ワタチの名前は、セルシオテチ!』
卸し用の仔実装に名を与えるとは、ブリーダーには有り得ない行為である。 この男、素人か。卸業者は利明を完全に看破した。
しかし、もしかしたら糞蟲とは言え知能は高いかもしれない。 卸業者の男は、仔実装に少し難しめの問題を与えた。
「このパネルの中の丸印の数を数えてごらん」 『テェ…? 数って何テチ?』 「……………」
決まりだ。ただの糞蟲だ。 卸業者は眩暈を感じながらも、手にした仔実装を机の上に降ろした。
仔実装は、解放された喜びで、まだコンビニ袋でテチー!!テチー!!と叫んでいる姉妹に対して テププーー! テププーー!と罵倒の限りを尽くしてからかっていた。
「あのぉ…大変申し訳ないのですが、うちでは引き取れませんね」 「……あん?」
「まず人間との上下関係を理解していないようですね。実装教育はどのカリキュラムで 行っていますか?見れば軽い感染症も起こしている。予防接種はどれくらい打たれて いますか?」
「ああン?訳わかんねーこと言ってんじゃねーよ」
利明は見抜いた。これは難癖をつけて、この仔実装の値を下げようという魂胆であると。
「ふぅ。どうやらお宅は素人のようですね。実装ブリーダーというのは、一見 簡単そうに見えて大変なんです。まずは血統書付の実装石を計画的に交配…うわぁ」
利明は卸業者の男の胸倉を掴んでは、サングラス越しに男の顔を睨んだ。
「何言ってたんだ、おめぇ。返せよ。俺の金、返せよ!!」
「君こそ何言ってるんだ。警備員を呼ぶぞ!」
「(チッ…)行くぞ、おめぇら」
仔実装は、机の上で朱肉のケースをペシンペシンと叩いて、
「テチャァァァァ!!!!」(ニンゲン、ステーキを持ってくるテチィ!!)
と叫んでいる。
利明は、その仔実装の頭巾を掴んでは、乱暴にコンビニ袋に入れた。
乱暴にコンビニ袋に入れられた仔実装は、チャァ!?と小さな悲鳴を上げるが さらに、大きな悲鳴がコンビニ袋から発せられた。
コンビニ袋の中では、先ほどからかわれた腹いせか、姉妹たちの殴る蹴る引っ張るの リンチが待っていた。
「テチャァァァァ!!!!」 「デヂヂー!! テッチッチーー!!!」
より一層激しくコンビニ袋の揺れが激しくなる。 古い時代劇の襖に血糊がつくような描写で、白いコンビニ袋の内側が 徐々に緑色の飛沫で染まっていく。
そんなことは無頓着に、コンビニ袋を肩に背負い、流行の曲を大声で口ずさみながら 別のカモを探すように、利明は大股で闊歩し始めた。
数時間が経過した。 その日、ブースを出している卸業者やペットショップに当たったが結果は同じだった。 利明も自分が温厚であり紳士的であると認識しているが、ここまで自分の仔実装を コケにされては黙ってはいられなかった。 その溜められた怒りは、最後にあたった業者の前で露になった。
「だからお宅の仔実装は糞蟲なの。そこいらの野良と変わらないよ」
商談用の机の上で、下着を降ろしては、赤ら顔で排便をする仔実装を見ては 冷たい口調で言い放つ実装卸業者の男。
「ああん!! 俺の実装石のどこが糞蟲なんだ?あん?」
胸倉を掴んでは、その鼻頭に思いっきり利明は頭突きをかました。
グチッという音と共に崩れ落ちる男。その拍子で手が机の仔実装に当たってしまい 仔実装は机からテピャァァァァ!!!と糞を撒き散らしながら、床に落ちる。
グチァという音と共に床の上で潰れる仔実装。 その姿を見て、利明はホールに響く大声で叫んだ。
「ああああああッ!!! てめぇぇぇぇぇ!!! 何しやがんだぁぁぁぁ!!」
手にしたコンビニ袋を放り投げては、利明は机またぎ、倒れた男に襲いかかった。 利明は男に馬乗りになっては、意味不明な言葉を吐きながら殴り続ける。
利明が放り投げたコンビニ袋は、テピャァァァァ!!!という儚い悲鳴と共に 放物線を描いては、ペシャ!!と儚い音を鳴らしては地面に落ちる。
この騒ぎで騒然となる会場。 警備員が入り口あたりから走っては来る。
無論、利明は警備員に取り押さえられるが、それでもなお顔を赤くして叫んでいた。
「〜〜ッッ!! 離せッ!! 10万ッ! 10万ッ!」
利明は警備員の手を振り解いては、机の床に落ちた仔実装に走り寄った。
「テェエ……テェェ」
仔実装はまだ息があった。 生命力の強い実装石。たかが机ぐらいの高さから落ちたぐらいでは死にはしない。 見た目は派手に体液を散らばしているが、偽石さえ損傷していなければ大した傷ではない。
「…テェァ!!」
利明は床におちた仔実装を乱暴に手でわし掴みにしては、首を左右に振ってある物を探した。 あった。白いコンビニ袋。
コンビニ袋の周りには、中の仔実装を気遣ってか、愛護派やブリーダーが集まっていた。
「どっ…どけっ! 俺の実装石を取るんじゃねぇぇぇぇ!!」
叫んでは、そのコンビニ袋を掴む利明。 しかし、そのコンビニ袋の中の手足の潰れた仔実装たちを見ては、利明は絶叫する。
「誰だぁァァァァ!!! 俺の仔実装をこんなにしやがった奴はぁぁぁぁぁ!!!」
再び会場に響き渡る利明の怒号。
「おまえかっ!」
「おまえかっ!」
「おまえかっ!」
一人一人サングラス越しに睨みつける利明。
「動くんじゃねぇ! 動いたら殺すぞ!!!」
駆けつけた警備員でさえ、利明の危険さに身を竦ませていた。
「テェ…テピ…」(痛いテチィ… テピ…) 「テチァ…」(ママァ… ママァ…) 「テェェン!テェエエン!」(テェェェン! 痛いテチィ!! おてて、痛いテチィィ!!)
コンビニ袋の仔実装たちの姿を見ては、呆然とする利明。 怒りで身を震わせる。眉間に皺を寄せ、顔には血管も浮き出ていた。 サングラスに隠された瞳には、怒りのため薄っすらと涙すら滲ませていた。
利明の左手。そこには先程机から落ちた仔実装が握られている。 怒りに満ちた利明は、知らず知らず手に掴んだそれを力の限りに握っている。
「テピィィィィィ……」
息が出来ずに口から舌を出し、目から赤い涙を出しては、手足を高速にバタつかせている。 蓋の開いたマヨネーズを握り潰すように、ボタボタと緑と赤の混じった糞が床に落ちる。 利明はそんなことにも気がつかず、周りのギャラリーの犯人探しに躍起だった。
「弁償してもらうからな。500万! きっかり払って貰うからなぁ!」
「テピャァァァァ……!!!!」
肺の中の空気を全て絞り出されてしまった仔実装。 息を吸いたくても吸いたくても、胴を締める圧力で肺が自力で空気を取り込む事ができない。 既に仔実装の下着からは、腸のような赤い何かが垂れている。
「あんた!あんた! 手ッ!手ッ!」
この会場には、実装産業に関わっている者たちばかりだ。 無論、実装石に愛着を持っている者も多い。 目の前で、無垢な仔実装が握り締められて叫んでいるのだ。 利明の睨みで固まっていたギャラリーだが、思わず口に出してそれを促した。
「あん?」
ギャラリーたちに言われて、自らの左手を見やる。 口からデロンと舌を出し、小刻みに震える仔実装の姿を認識した利明。
「あああああああッ!! 死んじまったじゃねぇかよぉぉぉぉぉ!!!」
叫んだ。
「おまえだぁ! 机から落としたおまえだ! 10万ッ!いや、500万ッ! 払え! 弁償しろ! 払え! 払えェェェェ!!」
その後、利明は応援に来た警備員に取り押さえられた。 しきりに「訴える」「弁護士を呼ぶ」という台詞を繰り返していた。
利明は警察に引き渡され、厳重注意の後、その夜釈放された。
手にはコンビニ袋。 握りつぶされた仔実装も一緒に、そのコンビニ袋に入れられていた。
持てばずっしりと重い。 少し傾けるとタプンッという音がする。
涙。小便。糞。血。5匹分のありとあらゆる体液がずっしりと重かった。 その液体の中、プカァ…と水死体のような仔実装たちが浮いている。
利明はその姿を見ては、怒りに身を震わせていた。 見返したい。あんな屑どもに俺の実装石の良さがわかってたまるか!
喧嘩では負けたことはない。負けても次の日にはダチを連れて夜道で襲った。 やられっぱなしは、利明の性に合わない。やられたらやり返す。 それは社会に出ても、どの職場の人間関係でも変わりない利明のポリシーだった。
利明は夜遅く家に戻った。 利明の帰りを待っていた目を真っ赤に腫らしたアリサが、デェ!!と小さな悲鳴をあげては玄関に駆け寄る。 アリサは利明が持つコンビニ袋に気がつき、デッス〜ン♪と歓喜の声を上げた。
子供達が帰って来た!もう会えないというのは杞憂だったのだ! 神様というのが存在するなら、ぜひお礼を言いたい! アリサはそんな気持ちで一杯だった。
アリサが走ってるくるのに気がついた利明は、
「おらよ」
と言ってコンビニ袋を渡した。
手渡されたコンビニ袋に向ってアリサは嬉々として語りかける。
『おまえ達!! 無事だったデスゥ! 会いたかったデス!』 『ママはここデスゥ♪ さぁ、皆でママ登りをして遊ぶデスゥ♪』 『デェ? どうしたデスゥ? みんなガストでお腹一杯デスゥ?』
コンビニ袋の中を覗いてみた。
「デェッッ!! デェェェェェ…!!!」
コンビニ袋を持った手が小刻みに震え、ついコンビニ袋を手放してしまう。 バランスを崩したコンビニ袋がゆっくりと横に倒れ、そこから 血まみれで白目を剥いた仔実装たちが、ボトリボトリとはみ出した。
「デギァァァァァァァ!!」 「デジャァァァ!! デギュオアァァァ!!」 「デェエエエン!! デェエエエン!!」
「お。さっそくママしてんな。アリサ」 「ほんとに。落ち着きが出てきたわねぇ」
アリサは血まみれの仔実装たちを腕に抱いては、デェェェン!!と泣き叫ぶ。 仔実装の口からは溺死死体のようにコプリと赤と緑の混ざった液体が、零れては アリサの白い涎掛けに降りかかった。
デギャァァァ!!! デギャァースッ!! デェデェエエエエッッ!!
ダンダンと床を手で叩き付けては、やり場の怒りを発散するアリサ。 ブリブリッ…とほのかな匂いもアリサの下着から匂わせている。
暴れる母親の動きに反応してか、アリサのお腹の仔も忙しなく動き出した。
デデッ!!
それに気がついては、歯を食いしばりながら涙目でデッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪と 歌いながらも、コンビニ袋から仔実装たちを出しては横にする。
デスッ… グズッ… デッデロ… グスンッ… ゲ〜♪
飼い実装のアリサにとって、自らの仔がこのような姿にされるのは始めて事である。 また初産の仔であることも相まって、その強い母性はひとしよである。 自然に涙が拭っても溢れ、拭っても溢れ、アリサは仔実装たちを介抱しながら 夜遅くまで泣き暮れた。
明け方まで、アリサの泣き叫ぶ変な歌声がアパートに響き渡った。
(続く)