俺の飼っている実装石は多趣味だ。
そうとう頭のいい部類だと思っている。
この前は、ベルマークを集めると言い出し、器用にはさみで切り抜いては缶の中に集める。
「もう何点溜まったんだい?」
「デスゥ〜」(200点を超えたデスゥ〜)
最近の小学生でも、こんなことはしない。
缶にたまったベルマークを、耳元で揺らしながら音を楽しむ実装石。
ああ。本当に嬉しそうだ。彼女がベルマークを集めだしたきっかけはこうだ。
「デスデスデス〜」
「ん?何をしてるかって?ベルマークを切り取ってるんだよ」
地域の自治体で、小学校の備品のためにベルマークを集めようという取り組みがあった。
うざったくて嫌だったけど、近隣の皆様とトラブルを抱えるのは、もっと嫌なので、隣のオバサンには、笑顔で20点分集めると言ってしまった。
いざ集めると、最近の商品にはベルマークというものがついていないことに気づく。
俺が小学生の時には、あらゆる商品についていたんだけどなぁ。
ふと見て見ると、実装用高級金平糖の袋にベルマーク2点分がついていた。
「お。ラッキー。2点じゃん。あと9点だなぁ」
「デスゥ〜♪デスゥ〜♪」(2点デスゥ〜。2点デスゥ〜)
おいおい。意味がわかってるのか、こいつ。
あと10点。面倒臭いので、この金平糖を5つばかり買ってくるか。
1週間に1度しか貰えない高級金平糖を5つも買ってきたので、実装石は大喜び。
「よし。これでノルマ達成。こんな面倒臭いことは、これで終わり!」
この金平糖の箱には、1点が2枚ついていて、結局1点余ったことになる。
「デ〜?」(あれ?くれないんデスか?)
肝心の金平糖が貰えないことを残念がっている実装石。かわいい奴め。
「ほら、あげるよ」
俺は金平糖の一つを実装石に与える。
「デスゥ〜♪デスゥ〜♪」
「ほら、これもやるよ」
俺は1点をやった。
「デゥ?」(何デスか?これは?)
「ベルマーク、1点だよ」
 1点だよ・・・1点だよ・・・1点だよ・・・1点だよ・・・
プル・・・・プルルルッ・・・・
実装石が微かに震えていた。あれ?金平糖がそんなにうまかったのか。
しかし、実装石の視点は、俺がわたした1点のベルマークにロックされていた。
「おい・・実装・・」
「デデデデデススススススゥゥゥゥゥ!!!!!!!」
うわっ。吃驚した。
なんと、齧り掛けの金平糖をそのままに、彼女は両手で1点のベルマークを頭の上に掲げ、大声で叫びながら、部屋を走り回っている。
「お、おい・・」
「デスゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」(右から左へ)
「静かにしろってば。もう夜だし」
「デスゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」(左から右へ)
そして、隣のオバサンに五月蝿いと文句を言われて、二人で頭をさげた。
そんなに嬉しかったのか、おまえ。
「デスゥ・・」
そして、彼女のベルマーク収集が始まった。
「デスゥ!」
「え。これなのか。おまえ、これ嫌いだったんじゃないのか」
奴が指差したのは、青汁入り実装フード。ベルマーク3点分がついた大物である。
「デスデスデスゥ〜」
「ああ、わかったよ。あとで不味いって言って、食べなかったら駄目だぞ」
俺達は買い物に行くたびに、意識的にベルマークがついている商品を選択するようになった。
最初はすぐ飽きるだろうと思っていたが、100点を超え始めた頃から、奴の取り組みが本気であることに気がついたからだ。
俺もできるだけ、彼女の取り組みに強力してやるつもりだ。
1点でも渡した時の彼女の喜び。その嬉しそうな顔。上気した頬。
実装石を飼っているなら、その表情や仕草が見れるだけで、ベルマークなんて安いものだ。
「お。今日だけで10点か。すごいなぁ。おまえ」
「デフ〜」
自慢げな実装石。今では、器用に鋏を使い、自らベルマークを切り抜く技まで習得した。
「実と装」を見ても、こんな実装石は日本全国探しても、ウチにしかいまい。
そう、密かに我が子を心の中で自慢しながら、数ヶ月が過ぎた。
彼女が集めたベルマークは300点、400点、そして500点を超えようとしていた時、実装石が俺に話しかけてきた。
「デスゥ〜」(今日は何の日か、覚えてるデスか?)
?なんだろう。「実の装」の発売日・・・は、来週だ。俺の誕生日は・・先月終わった。ゴミの日か?
「デスデスデスゥ〜」(実は、今日は私とご主人様が出会った1年目の記念日デス)
がーん。なんと。暦という概念があるのか、うちの子は!
「デスデスデスデスゥ〜」(これ・・・ご主人様にあげるデス)
それは、缶に溜まった山盛りのベルマーク。
実装石が、嫌いな青汁実装フードまで食べて集めたベルマーク。
指を鋏で切りながら、血まみれで集めた血染めのベルマーク。
「実装!」
「デスゥ!」
俺は、隣のオバサンに全部あげた。



「全部、あげて来たよ。隣のオバサンに」
俺は戻ってくるなり、実装石にそう伝えた。
「・・・・・・・・」
「500点もあればさー。車椅子ぐらい貰えるんじゃないかな」
「・・・・・・・ス」
「すごいよな、おまえ。車椅子だぜ。車椅子。社会貢献だぜ、社会貢献」
「・・・・・・デス」
「・・・・どしたの?」
「デ・・・デギャァァァァァァァ!!!!」
糞をこんもりさせながら、うちの子は一晩中泣き続けた。
となりのオバサンも何事かと、怒鳴り込んでくる。ああああ・・・あれ?
俺は泣き止まぬ実装石と部屋に漂う糞の匂いと隣のオバサンの怒号に耐えながら考える。うちの子が賢いというのは撤回しよう。
俺の飼っている実装石は多趣味だ。
でも、頭のいい部類ではないと思っている。