『実装士3』
「ママー!! ママー!! 早くするテチュー!!」
「デス。急がなくても公園は逃げないデス」 「ははは、元気だなぁ。ミミの奴は」
週末の公園へ向かうのは、この家での慣例行事になっていた。 つい先日、生まれて初めてミミを公園に連れ出してからは、何につれても公園に連れて欲しいと 駄々をこねる毎日だった。
「ご主人タマも遅いテチィィィィーー!! 早くッ!! 早くするテチィィィィーーッ!!!」
道路の先でぴょんぴょんと跳ねている仔実装がミミであった。 後、数十メートル走ると見えてくる公園の入り口。 しかし振り向くと、まだ交差点をようやく折れるご主人様とママ。 ミミは目を真ん丸と、耳をピクピクさせながら、公園とご主人様たちを交互に見やっては、 「早くするテチィィィーー!!」と大声で叫ぶしかなかった。
「ははは、ミミ。今いくよ」 「ご免なさいデスゥ、ご主人様」 「いやいや。仔実装の頃はあれくらい元気な方がいい。メメ。おまえの時も大変だったぞ」 「デッ!? そんなことないデスゥ〜」
「何してるテチィーーーーッ!! 早く来るテチィィィーーーーッ!!」
「「あ、はいはい」デスゥ」
週末は公園で家族水入らずで過ごす。 美味しいステーキや寿司はなく、持ってきているのはバスケットに入れた手作りのお弁当。 飼い実装たち御用達の冷房の効いた実装ランドではなく、近所の小さな古びた公園。 綺麗なピンクのフリフリ実装服ではない。生まれ持った緑色の実装服。
そんな些細な日常。 ミミとミミの母親メメにとって、ステーキがなくとも、実装ランドでなくとも、ブランド物の実装服がなくとも 隣で優しく微笑むご主人様が居てくれれば、それはとてつもなく幸せなことだった。
「テキャァァァァァアーーーーッ!!!」
「ほぉら。ミミ。しっかり掴まっていろよ!!」
「チャァァァァァッッーーッ!!! テキャァァァァァアーーーーッ!!!」
さび付いたブランコの鎖に掴まりながら、目を閉じながら絶叫を繰り返す。
「テチャァッ!! テチァァァァーーッ!!」 「デスァ!! デスァァァァーーッ!!」
ミミとメメは、ご主人様の膝の上。 そのまま公園の古びたすべり台から滑走する。
「デェ!? デェェ!?」 「テェェェッーー!! テェェェッーー!!」
小さな小さなシーソー。上に下に。大きく揺れる度にメメの悲鳴とミミの嬌声が小さな公園に木霊する。
「さぁ、おまえ達。弁当だぞぉ」
「テチュゥゥゥーー!!」 「デス」
お昼は芝生の上に新聞紙を広げて、小さなバスケットでお食事。
「ご主人タマ!! ご主人タマ!!」 「どうした、ミミ?おまえの好きな甘い卵焼きは入れてるぞ」 「ここ、お花さんがあったテチュ!! ご主人タマ、踏んでいるテチィィィィーーー!!」
「え?」 「デ?」
ひいた新聞紙を退けてみれば、そこには倒れた一輪のタンポポがそこにあった。
「お花さん、大丈夫テチュゥゥーー!?」
ミミが近づくと自力で戻ったのか、タンポポが天に向かいゆっくりと起き上がる所であった。
「よかったテチィィ!! よかったテチィィ!!」
「デ。やさしい仔デスゥ」 「そうだな… この仔はきっとやさしい実装石に育つよ」
タンポポの花を優しく撫でるミミを見つめながら、メメとご主人様はそう思う。
「この仔は、きっと誰にも優しく、誰も傷つけない。そんな心優しい実装石に育つはずだ」 「私の自慢の仔デスゥ。きっと優しい仔に育つデスゥ」
「テチュゥゥーー!! テチュゥゥゥーー!!」
黄色いタンポポの花と同じぐらいの背丈のミミは、風に舞う花びらと同じように 頬を赤らめ、何時までも何時までも踊っていた。
◇
「朝飯だ!! 糞蟲ども起きろ!!」
朝は、飼育員の号令で目が覚める。 実装石たちが何匹も押し込まれた部屋は、窓も何もない閉鎖された空間。 剥き出しのコンクリートに、天井には吹き付けられたアスベスト。 実装石特有の糞の臭気と湿気に煽られた光一つない部屋の天井に、白色灯の人工光が灯される。
「デッ!? デデッ!!」 「デスァ!! デスァ!!」 「デスッ!! デスデェースッ!!」
殺風景なコンクリート部屋に無造作に置かれたケージが10いくつ。 それぞれが直径5m四方の大型動物などを入れる檻に近いケージに見て取れる。 その中に薄汚れた格好や明らかに飼い実装とも見て取れる小奇麗な格好の実装石たちが 多くてケージに40匹程度。少なくて10数匹が押し込められている。
天井に灯った人工灯に、まだ開かぬ寝ぼけた眼(まなこ)を瞬かせながら、 入り口から入った飼育員の男に向かい、口から黄色い犬歯を覗かせながら、 デスァ!! デスァ!!とケージの檻を両手で食い込まんばかりに掴み、唾をケージの外へ 飛ばしながら、必死に叫んでいる。
「ギャァースッ!! ギャァースッ!!」
ケージの所々で、実装石同士の喧嘩らしき唸り声も聞こえてくる。 ケージ内の実装石たちが殺気だっている理由は、飼育員が手に持つバケツにある。 バケツの中には、ひき肉のような色の緑かかった肉塊が詰め込まれている。 飼育員は、ケージの一つ一つの給餌口の扉を開け、手に持った柄杓でそれをこぞるように バケツの中から肉塊を取り分け、ケージ内へと放り投げる。
「デシャァァッ!!!」 「デスァ!! デスデェースッ!!」 「ングッ!! アグッ!! ジャァァァッッ!!」
飼育員が放り投げているのは、このケージ内に住まう実装石たちの餌であった。 先ほどまで熟睡していた実装石たちが、配給に群がる難民のように、競いその肉片に喰らいついて行く。
「デジャァァァッ!! デスデェーースッ!!」
奪い合いの末、相手の腕まで喰らいついている実装石。 取っ組み合いの殴り合いが始まるケージ。 その隙に、挙動不審な眼(まなこ)をギョロリギョロリさせながら、床に落ちる肉片を片っ端から 口に頬張っていく実装石。
飼育員は順番に10いくつあるケージに機械的に肉塊を放り込んでいく。 その足は、昨日、実装コロッセウムで死闘を繰り広げた実装石たちが住まう 「G」と書かれたケージまで辿り着いた。
そのケージは周囲のケージの中の実装石たちと明らかに違った。 与えられる肉塊が給餌口に入り終わるまで、誰も彼も手を出さす、ただじーとそれを見つめているのだ。 他の違うのは、その中の4匹の実装石。
「ムニャムニャ…」 「もう食べれないデスゥ… zzz…」 「ンゴー… ンゴー・・・」
3匹の実装石たちは、歯軋りや痙攣をしながら、まだ夢の中で現実逃避を続け、
「デプ〜♪ デプ〜♪」
もう1匹は、何時の間に起きたのか、早速お気に入りの車で遊んでいる。
その他、じーと給餌口を見つめる実装石たち。 その中に、赤い首輪をした実装石。胸元に擦れた字で「ミミ」と書かれたワッペンをつけた 実装石が居た。ミミである。
ミミも他の実装石たちと同様、静かに飼育員の動作を見つめていた。 バケツの中に柄杓を入れ、壁についた肉片を何度も何度もこぞり、それを振るようにして 給餌口に叩きつけるようにして落としていく。
「………………」
その飼育員の柄杓を、首を上下に振るようにして、目で追いつづけるケージ内の実装石たち。 しかし、その中でもミミの視線は、飼育員に向けられているわけでもなく、ただ宙の一点のみを見つめている。
「(またあの夢を見たデス…)」
ミミは心の中で、そう反芻していた。
このケージの実装石の数は、幸いというか昨日の試合のため、実装石の数が他のケージに比べて数は少ない。 他のケージのように、競い争わずとも全ての実装石に餌は行き渡った。
飼育員が餌をやり終えると、次いで隣のケージへと向かう。 それを十分に見届けてから、数匹の実装石が給餌口の肉塊に向かう。 しかし、ミミは給餌口に向かうともしない。
「(ご主人様、笑っていたデス…)」
どこか両目が潤んでいるミミは、遠く掻き消されそうな記憶を必死に繋げ止めんとするかのように、 必死に脳裏に夢の内容を焼き付けていた。
「(ママも笑っていたデス…)」
この夢を見た朝はいつもこうだ。 ミミは餌場に近寄りもせず、心の中の郷里に身を馳せ続けていた。
◇
双葉としあきが、この若さで非合法カジノ「実装コロッセウム」を所有するに到ったのは 天性の商才と運、そして実装石に対する病的な程の嫌悪感が相まった結果と言える。
双葉としあきは、虐待派である。 幼少の頃から、近所の河川敷の野良実装を虐殺する毎日であった。 高校を出てからは、近所のペットショップで働くが、商品である実装石を虐待し続け、職を辞める。 2度、3度、実装関連の職につくが、どれも長く続かなかった。 そんなとしあきが目をつけたのは、虐待派向けのビジネスであった。 としあきがついた職は、実装ショップや実装アパレル関連、どれもこれも愛護派向けの実装ビジネスであり 虐待派向けのビジネスはこの時代はまだ皆無だったと言えた。
としあきは独自の虐待派のネットワークを使い、虐待用の実装石を卸すビジネスを始める。 古くからは王道である「上げ落とし」という手法であるが、その「上げ」を処した状態で 虐待派の常連へと卸す。 このアイデアは当たり、売上は上々であった。
まとまった資金を得たとしあきは、その資金を元手に虐待用のムービーや虐待グッズなどを開発。 これがまたヒットし、会社まで企業するまでに到った。 としあきはそれにも止まらず、虐待派向けのありとあらゆるビジネスに手を染め、 最後に行き着いたのが、この会員制の秘密賭場「実装コロッセウム」であった。
タダに近い実装石を争わせる。 生き残った実装石にはさらなる試練を追わせ、その絶望の中で死ぬ様を、酒を煽りながら楽しむ場である。 嗜虐心というのは、どんな善人にも持ち合わせる人間の感情である。 それを解き放つことに魅力を感じる、この大都会の顧客は少なくない。 虐待派の中で、この賭場は口伝で広がり、今では毎日のように開催されるまでに到った。 無論、非合法。 この行為は法律違反である。 しかし、としあきにとってはそんなことはどうでも良かった。 目の前の殺戮で苦しむ実装石たちを見ながら、としあきは己の仕事に満足する日々を遅れるのだから。 そう。としあきは根っからの虐待派なのである。
◇
「デ!! 右手を上げたら、身を伏せるデス!!」
「何でそんなことしなきゃならないデス!! マチルダに命令するなデスゥ!!」
地下の殺風景なコンクリート剥き出しの空間。天井にはアスベスト。 その空間に無造作に10近くの直径20mほどのケージが並べられていた。 そのケージの入り口には、ひとつひとつ「A」から「M」までアルファベットが振られている。 その「G」と書かれたケージの中。 10匹近くの実装石に囲まれた3匹の実装石が、癇癪を起こしながら唾を飛ばしている。
「何度言ったらわかるデスゥ? 昨日のほかの奴らみたいに死にたいデスゥ?」
「こっちも何度言ったらわかるデスゥ!! あれは夢デスッ!! あんなのが現実にあってたまるかデスゥ!!!」 「デププ!! デププ!! 面白いデスゥ!! もっとやれデスゥ!!」 「デスン… デスン… ご主人様どこデスゥ〜」
ミミたちは、昨日初めて実装コロッセウムに出、そして生き残った「新人」たちに戦いのイロハを叩き込んでいた。
新人たちは、得てしてこうだ。 状況が理解できず、ひたすら自己防衛に走る者。現実逃避に走る者。飼い実装の場合はかつての 庇護者に助けを求めつづける者。 こういった者たちには、口で言ってもわからぬ現実がある。
「おまえら何者デスゥ!! わかったデスッ!! ミランダの家が狙いデスゥ!? おまえら飼い実装を狙ってるデ… ゲボォ!!!」
デデの膝が、ミランダと名乗った新人飼い実装の鳩尾(みぞおち)を貫いた。
「デゲェェェ!!! デフィ〜… デフィ〜…」
デデとは、この実装石たちの中でも長身の実装石だ。 右目に縦に切り傷が目立つ実装石であり、生傷の数よりミミよりも古参の実装石のように見える。
デデが蹲る新人実装石の前髪を掴み、起き上がらせる。
「デフェ!! ホゲェスッ!! ホゲェスッ!!」
うまく呼吸ができないらしい。残り2匹もパンコン状態で腰を抜かしデデの様子を伺っている。
「おまえ。言う事聞くデス。聞かないとおまえの家族、殺すデス!!」
「デフィ〜〜!! フィ〜〜ッ!!」
「ご主人様ァ!! ご主人様ァ!!」 「デギャァァーー!! デギャァァァーー!!」
3匹は錯乱状態に近い。言って聞かせてわからねば、体でこの状況下を理解させるしかない。 使えるようであれば、次回の戦いも生き延びることはできるだろう。 そうすれば、己が置かれた状況を嫌でも理解できるに違いはない。
「言う事聞けデス」
「フィ〜〜ッ!! フェックッ!! フェックッ!!」
「聞けデス!!」
「フェェェェ〜ン!! フェェェェェ〜ン!!」
「デスァ!! デスァ!!」 「ご主人様ァーー!! 私、ココにいるデスゥーー!!」
さらに拳を振り上げんとするデデを制したのは、赤い首輪をした実装石。ミミであった。
「デデ。あと2日あるデス。次までに間に合えばいいデス」
やり過ぎのためにストレスのために命を落とす種も何匹も見て来た。 偽石が割れずとも、ひたすら怯え、実戦に役に立たなくなる種もあった。 ミミは、あのフィールドで戦いを終えれば、少なくとも2日間はあのフィールドに 上がることはないことを経験で知っていた。 だから、この3匹はもう少し時間をかけて教育することにしたのだ。
その時だった。
「デ?」 「デデッ!!」
天井の白色灯が一斉に明るく輝いたかと思うと、ガラリと言う音と共に分厚い扉が開く音が部屋中に響いた。
人間が二人。 ガラガラと音のする滑車がついた荷台を押しながらやってくる。 あれがケージの前に止まると、実装石たちは強制的に移動用のケージに詰め込まれ、 あの地獄のようなフィールドに連れ出されるのだ。
「デギャァァ!! デギャァァァ!!」
意味がわかる実装石だけが、大声で叫び取り乱している。 つい最近連れられたばかりに新人は、?な顔でその人間の顔を伺ったりしている。
その荷台が、何と「G」のアルファベットがついたケージ。 つまり、ミミのいるケージの前で止まった。
「デ……」 「……デス」 「デー…」
意味もわからず何匹かの実装石が、呆けるようにケージの外に佇む人間の顔を覗いている。 カチャリカチャリと鍵を錠前に差込み、ケージの扉を開けている。
「デ… 何かの間違いデスゥ…」
ミミは、弱々しくそう呟いた。 自分達は昨日、あのフィールドで戦ったばかりではないか。 少なくとも、あと2日。戦いはないはずである。
「約束が違うデスッ!! 約束が違うデスッ!!」
ミミがケージ内に入り込む人間に駆け寄り、そう言い詰める。 無論、そんな約束はしていない。実装石側にしてみれば、ただの経験則以外の何物でもない。
「デッ!? デデッ!?」 「デスァ!? デスァ!?」
1匹。また1匹。ケージの中を逃げ惑う実装石たちを移動用のケージへと詰め込んでいく。
「約束違うデスッ!! 闘ったデスゥ!! 私たち、昨日闘って勝ち残ったデスゥ!!」
皮肉にもその勝利が、今日の連戦を生んだことをミミたちは理解していない。 移動用のケージに詰められた14匹の実装石は、ガラガラという滑車の音と共に静かな廊下を渡っていく。
「デ…!! デデ…!! どうするデス!! ママッ!! どうするデスッ!!」
それはこちらが聞きたかった。 ミミはその台詞をぐっと堪えて、瞳孔が開きかけた両目をギョロリギョロリと周囲に見渡す。
「帰れるデスゥ!! きっとご主人様の元へ帰れるデスゥ!!」
これは新人実装のミランダ。
「私達、戦うデス!? また戦うデス!?」 「ママ!! どうするデス!! ママッ!!」
「………大丈夫デス。いつもの通りやるデス。きっと勝てるデス!! 今日も生き残れるデス!!」
ミミは皆の目をしっかりと見つめながら、自分に言い聞かせるようにそう言った。
廊下を渡る度に、遠くから地鳴りのような歓声が聞こえてくる。
「……デッ!!」
地を這うような低い怒号のような歓声。
「……デス…」
いつ聞いても気持ちいいものではない。
「デスッ!? お家じゃないデスッ!? お家じゃないデスッ!?」 「これって、昨日の夢デス!? 夢の続きデス!?」 「デ… 犬、嫌デスゥ!! 犬、嫌デスゥ!!」
もう鼓膜が劈く(つんざく)ほどの歓声が、薄い木の壁を隔てた所から響いていた。 新人の3匹はその歓声で昨日の恐怖が蘇ったのか、狭いケージの中で既にパンコンしていた。
その騒ぐ新人の狼狽振り。そしてその糞臭。 ミミを始めとした歴戦の猛者とはいえ、その恐怖は伝染する。
「………デッ!! デデッ!!」 「………スァ!! ……デスァ!!」
ガチガチガチと歯を鳴らす者。じわりとお漏らしを始める者。 目の周囲にうっすらと、血涙に近い涙を浮かべ始める者。
「……デスッ!! ………デッ!!」
それはミミも同じであった。 膝は震え、歯は奥歯から鳴っている。 意識せずとも、瞳孔が完全に開ききった瞳は、自制できずにギョロリギョロリと周囲を見回っている。
「デプ〜♪ デプ〜♪」
1匹だけ大物。
そして、目の前の壁が左右にゆっくりと開き始める。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
眩しい光が壁の間から漏れ、そこには何時経っても慣れない砂地の円状のフィールドが ミミたちの視界に広がっていた。
「来たぞぉぉぉ!! 昨日の糞蟲どもだぜぇぇぇ!!」 「今日こそ死ねよぉ!! おまえ達の全滅に期待してるぜぇぇぇ!!」
鼓膜に叩き付けられる意味不明の言葉。 それが彼女らを歓迎している物ではないことだけは理解できる。 正確にそれが解せないのが、唯一の救いだったのかもしれない。
『先ほどご説明した通り、本日の実装石は昨日生き延びた、この14匹たちです』
歓声と喝采。 その洪水の中、フィールドに立たされた実装石たちは完全に浮き足だっていた。
「……ッ!! ……ッ!!」
その状況の中、ミミは必死に考える! この事態は、予想だにしていない展開である。 生き残った新人の教育も十分に出来ていない。 周りを見れば、どうやら今回は、ここにいる自分たちだけ。 昨日は少なくとも40匹近くいたはずの仲間も、これ以上追加される様子も何もない。
目の前に置かれた武器。 相変わらずの実装石用に加工された樫の細い木片が14本。
「……スッ!! ……スッ!!」
もう覚悟を決めるしか、残された道はなかった。 ミミもうっすらと血涙を浮かべながら、額には玉の汗。下着はすでにべっちょりと湿っている。
『それでは、本日の狩人たちです!!』
ミミたちの対角の壁の扉がゆっくりと開いた。
「……デ」 「………デスッ!! デスッ!!」
固唾を飲み込み身構えるミミたちの耳に、ある不快な金属音が聞こえ出した。 それは1つ2つではない。明らかに10以上の不快な金属音が、開いた壁の向こうから、 それも緑と赤の光を湛えながら、近づいてくるではないか!
「デデッ!! デギャァァァーーー!! デギャァァァァーーー!!」
腰を抜かし、逃げ出すミランダ。 と、同時にフィールドのギャラリーたちは喝采を上げて、本日のハンターたちを称え迎えた。
『本日の実装石を狩るべく現れたハンターは、実蒼石14匹です!!』
(つづく)