『飼い実装メイ』1
その実装石は、自らの待遇を恨んでいた。
「なぜデス。なぜ私がこのような目に合うのデスか。なぜなんデス」
この実装石は、飼い主にメイという名を与えられていた。
メイは、今の待遇を恨んでいる。不満だ。憤りを感じる。最悪だ。
「そうだ。あの女奴隷は何処デスか?」
周囲を見る。ゲージの外から覗く風景が、今までのそれと違った。
今までは、乙女チックなファンシーなカーテンレールや
ピンク色のクッション。そして、大小の色々なぬいぐるみ達が、
ゲージから見えたはずであった。
今では、それらがない。
殺風景な部屋。窓が一つ。そこにグレーのカーテンがかかっている。
家具と言える物は本棚と小さなカラーボックスぐらいである。
本棚には難しそうな小説が整然と並べられており、持ち主の性格が
伺えるようであるが、メイの知識では、そこまでは伺い取れない。
「とにかく、この場所はダメデス。元の奴隷の場所に行くデス。
 ここから出すデス。奴隷!いないのデスか!奴隷!」
デスデスと騒ぐメイを他所に、この殺風景な部屋の扉は開くことはない。
−1−
メイは、前に住んでいた女奴隷の部屋を思い出す。
メイは、ゲージから見る部屋の光景が好きであった。ピンク色の部屋の
彩色はメイの好みにあっていたし、ぬいぐるみを気に入っていた。
休みの日には、奴隷に命令してゲージから出して貰ったりもした。
開いた窓から流れる風で、ピンク色のカーテンが揺れている。
それを見つめる空間や瞬間が好きであった。
またメイは、ぬいぐるみを使った遊びも覚えた。
ぬいぐるみの腕を取り、腕を捻り上げる。
『痛いよ〜 痛いよ〜 メイ様っ やめてくださいっ』
「デス!許さないデス!おまえの毛の色が気に入らないデス!こうしてやるデス!」
メイはデスデスと、ぬいぐるみの台詞を代役しながら、ぬいぐるみに
虐待を加える。メイの虐待心や優越感を満たしてくれる最高の遊びだ。
『許してください メイ様 許してください メイ様』
「デス!許してやらないデス!足も折ってやるデス!」
『痛い痛い痛い痛い ギャァァァァァァァ!!!!僕の足がぁぁ!!』
「デププププ。いい気味デス。そこで、ずっとのた打ち回るデス」
一通りの虐待ごっこを済ませると、メイは眠りに落ちる。
ここの女奴隷は、融通が利かなくてダメデス。食事もまずいデス。
服も最悪デス。風呂もぬるいデス。寝床も固くてダメデス。
トレイも汚いデス。最悪デス。私はかわいそうデス。本当に不幸デス。
ここのでのメイの生活は、飼い実装石のレベルも高い方だと言えた。
高カロリーの高級実装フードを3食主食とし、毎日3時には金平糖のおやつ。
飽きがこないよう、プリンやチョコレートなども与えられる。
風呂も、3日に1度は入られ、服もピンクや白のフリルのついた実装石用の
服も与えられている。
しかし、メイはこの生活が退屈だった。
刺激がないのだ。こう身が際立つような刺激。
本能に訴える刺激。生甲斐。そう。そう呼べる物。
生物として本懐を得たならば、命を賭して、全うすべきもの。
それがないのだ。
メイは、その不満を、ぬいぐるみにぶつける。
『子供だけは・・子供だけは許してください メイ様ァ・・』
「デス!だったら自分の糞を食うデス!でないと、この子供は豚の餌デス!」
親子のアヒルのぬいぐるみの子供のアヒルを両手で掴んで、デスデスと叫ぶ。
『た・・食べます・・ぅ・・ぅげぇ・・ぅぐ・・げぇぇ
 はぁ・・・はぁ・・・メイ様・・食べました』
「デプププ。まるで糞蟲デス。無様デス。汚いデス。この子も糞蟲デス。デプププ」
ある日、事件が起こった。
ここ数日、どうも周りが騒がしい。女奴隷がメイの部屋に入ったり出たり。
部屋の荷物を運んだりしている。
「デス!ニンゲン!何をしてるデス!うるさいデス!早くおやつを持ってくるデス!」
いつもなら、3時に女奴隷が金平糖を給仕をしに来るはずだ。
女奴隷は、忙しく部屋には入ってくる。しかし、手にしているのは金平糖でなく
変な箱ばかりだ。
デスデデースッ!メイはゲージの中から、女奴隷に向けて罵詈雑言を吐く。
糞人間。売女。奴隷。早く甘い玉を持ってきやがれ。それがおまえの仕事だ。
何、私に断りもなく、労働を放棄しているのだ。万死に値する。
おまえの腕を捻ってやろうか。おまえの子供を豚の餌にしてやる。
それが嫌ならば、甘い玉を献上せよ。私を可愛がれ。糞!糞!糞!
女奴隷はメイの要求を無視し、なんとぬいぐるみを変な箱へ詰め始めた。
「何をするデス!それは私の奴隷達デス!勝手に触るなデス!デスデスデスッ!!」
メイの部屋は、徐々に解体されて行く。それは、メイの自尊心の解体にも似ていた。
4時になろうが5時になろうが、おやつも来ない。ぬいぐるみは、撤去される。
女奴隷は、メイの叫びに耳を傾けようとしない。そして、ピンクのカーテンが
撤去された時、メイの部屋は跡形もなく廃墟のようになっていた。
無造作につまれる箱の塔。メイがいつも見ていた部屋の風景ではない。
不意に悲しくなってきた。甘い玉も来ない。私の部屋が荒らされる。
無意識に涙が頬を伝う。股間辺りがムズ痒い。私は不幸デス。やっぱり不幸デス。
日頃から思っていたケド、やっぱり不幸デス。
メイを恐怖のどん底に追いやったのは次の瞬間であった。
女奴隷とは違うニンゲン。それも一体ではない。数体。
それが、メイの部屋に、メイの許しもなく、無断に入り込んで来たのである。
 ガチガチガチガチ・・・
メイの歯が鳴った。恐怖。
本能が訴える恐怖だ。生命の危機を訴える恐怖。
ぞくり。背筋から走る一匹の青い蛇。それが脳髄の中へ溜まって行く。
一匹・・そして、また一匹・・・ぞくり。
ガチガチガチガチ。歯を鳴らしながら、メイは両目のオッドアイでそれを見つめていた。
いや。見つめようとして見つめているわけでない。
目が離せないだ。恐怖のため、本能がそれを見ろと言っている。
生き延びるための情報を、少しでも多くの情報を捕らえろと、本能が言っている。
部屋に入り込んだ奴隷達は、部屋に積み上げられた箱を一様に運んでいく。
一つ、また一つ。それがメイの前で行われている。
あまりにも日常とかけ離れた光景。何が一体これから起こるのか。
メイには理解できない。理解できない故に、脳が恐怖を感じている。
恐怖はメイの体にも異常を訴えかける。筋肉の硬直。口の渇き。汗。涙。そして失禁。
メイは失禁をしている事すら気づいていない。
それほどの恐怖だ。そして、その恐怖にクライマックスが訪れた。
不意に現れた女奴隷がメイの服を掴むと、メイを暗闇の中へと誘った。
一瞬の出来事で、何が起こったかメイは理解できない。
ただ、暗闇の中で歯を鳴らしながら、小声でデスデスと呟くのみ。
体に感じる浮遊感と共に、メイはひたすら両目を見開き、暗闇の1点を見つめる。
無限に続くと思われる暗闇と時間。
メイは歯をガチガチ鳴らしながら恐怖に耐える。
震える手で暗闇の中で宙を掻く。少しでも恐怖心を抑えるために、
少しでも状況を把握すべしとの本能だ。
メイは、自分が小さな長方形の暗闇に閉じ込められた事を理解すると少し落ち着きを取り戻す。
次に気が付いたのは、この長方形の空間に広がる糞の匂いだ。
どこから臭うのか。メイがその匂いに耐え切れず、その狭い空間で手探りで探すうちに
自らのパンツから臭うことに気づく。
知らず知らずのうちに、恐怖で脱糞していたのだ。
おそらく、この暗闇に入れられた時であろう。
パンコンなど、女奴隷を従えてからした事はない。
平時ならは羞恥と屈辱で喚き散らす所だが、今は非常時だ。
メイは自らの糞の匂いに絶えながら、膝を抱え、鳴る歯を抑えながら、涙で一杯の目で
暗闇を凝視する。
たまに感じる浮遊感。そして人声。
自分は一体どうなるのか。すべては、あの女奴隷のせいだ。
見たことのない奴隷がたくさん自分の部屋に入って来た時に、身を呈して自分を守らなかったからだ。
いや、よく思い出してみると、この暗闇に閉じ込めた手は、あの女奴隷のものでなかったか。
恐怖が少し収まって来ると、次に沸々と湧き上がるのは怒りであった。
暗闇の中では、どくん、どくんと自らの動悸の音がよく聞こえる。
その動悸と共に溜まって行く粘質的な感情。
「許さないデス・・あの糞ニンゲン。何をしているデスか!早く私をあの部屋に戻すデス!」
暗闇の中で、大声で騒ぎ始めるメイ。
この声は女奴隷に届くであろうか。いや、きっと届くに決まっている。
そして、私を暖かい風呂に入れさせ、甘い玉を献上させるのだ。
だから早く来い!糞ニンゲン!
5分、10分、そして30分。力の限り叫んだ。
最後の方は、懇願に近かった。
「暗いデスゥゥゥ!! 狭いデスゥゥゥ!!! 臭いデスゥゥゥゥ!!!
 パンツを・・・換えて欲しいデスゥ・・・デ・・デ・・デエエエェェェェ!!」
ふと人声が止んだと思うと、メイは糞奴隷が自分の存在に気づいてくれたと理解した。
「わ、私はここデス! 糞ニンゲン! 早く助けるデス! ニンゲン・・ニンゲーンッ!」
次にメイが感じたのは加速感であった。そして騒音。
「デ・・デエャェェェッェェェッェーーーーーーー!!!」
今まで感じた事のない感覚。それが再びメイの恐怖心に火をつける。
ぶりぶりりぃ。メイのパンツがより一層盛り上がる。
「ディェェェ!! 怖いデスゥ〜 怖いデスゥ〜 」
加速感は収まると思うと、右へ。左へ。その度にメイは、パンツの中から糞を
狭い長方形の空間に撒き散らせながら、転げまわる。
糞が顔にかかる。デエエエエ!!不器用な手でそれを拭うが、余計顔に擦り付ける形となる。
加速感は、終わることはない。
メイは膝を両手で抱え込み、そこに顔をうずめ、歯を鳴らしている。
目から血の涙。鼻から鼻水。口からは吐瀉物。顔中は汗。パンツはこんもり。
目を見開けば暗闇。吐瀉物と排泄物が交じり合う匂い。
体に感じる今まで味わった事のない浮遊感と加速感。
その加速感に変化があった。
ある時点を越えると、その加速感が今まで感じた事のない以上に上がって来ているのだ。
それと共にやってくる振動。騒音。
それがMAXとなった時、メイが閉じ込められた空間は阿鼻叫喚の状態となる。
「デジャァァァッァァァッァーーーーーーーーーーーーッッ!!」
空間が跳ねる。吐瀉物がメイの服に容赦なく襲い掛かる。
メイの体も宙に放り出され、容赦なく地面に叩きつけられる。
叩きつけられると同時に、パンツに圧力が加えられる。
パンツの付け根からはみ出す排泄物。
絶えず繰り返す失禁・脱糞に、パンツの許容量が耐えられないのだ。
再び篭る新鮮な排泄物の濃厚な匂い。
それにつられて、メイは嘔吐を繰り返した。
叫ぶ。泣く。吠える。
でも、状況は改善しない。メイは、この地獄の状態で助けをひたすら求めた。
 ごめんなさいデス 助けて下さいデス 許して欲しいデス
 私が悪かったデス 家に帰りたいデス あの部屋に戻して欲しいデス
 ごめんなさいデス ごめんなさいデス ごめんなさいデス
メイは、デスデスと小声で呪詛のように繰り返した。
しかし、メイの懇願が聞き入られた様子もなく、加速感と振動と騒音は絶え間なく続く。
「デエェ・・デエェ・・」
荒い息を繰り返しながら、メイは、絶望と恐怖の中、ひたすら耐えつづけた。
無限にも続くだろう時間の中、メイは、加速感が徐々に落ちて来た事に気づいた。
状況が打破される期待。これ以上状況は悪くなることはあるまい。
そう思いメイは倒れた体を起こそうとする。
ネチャ・・ メイの服はメイのあらゆる体液を吸い、鎧のように重くなっていた。
口の中は胃液の味がする。鼻は鼻水が詰まってもう機能しない。口で息をするが
生ぬるい臭気が肺に入ってくるだけだ。
加速感が完全になくなり、微かな人声を聞いたメイは、力なくデーと鳴いた。
それに気がついたのか、女奴隷がメイが閉じ込められた空間を開けると軽く悲鳴をあげる。
メイは光を感じた後に、気を失った。
(続く)