『実装石マルチ3』
マルチの虐待を始めて1週間が経過した。
虐待の導入部としては、至極、良好であると言えた。
偽石を崩壊させることもなく、悪戯に体を欠損させたりもしていない。
服の一部は焦げてはいるが、髪も損傷もなく、ふさふさと保たれている。
虐待に使用しているのは、実装叩き1本。
その実装叩きを大げさにマルチに見せびらかせ、仰々しく物音を立てて地下室に入るだけで、
マルチは何とも言えぬ悲鳴を、このコンクリート張りの地下室に響かせる。
「デフィィ!!?? デフィァッ〜〜〜ッッ!」
今日でマルチの虐待を始めてから、丁度7日目が経過した。
ほんの朝の挨拶代わりに、朝食前に部屋を覗いただけで、この悲鳴だ。
黴た毛布の中で包まっていたマルチが、隈(くま)で窪んだ瞳孔の開いた両目を見開き、
俺の顔とその右手の実装叩きを見つめながら、歯並びの悪い上下の歯を剥き出しにし、
コンクリート張りの地下室に轟く甲高い悲鳴を、力一杯響き渡らせた。
この1週間。
続けた虐待は、とてもシンプルだ。
怯えるマルチの顔を睨みつけ、大声で怒鳴り、実装叩きでマルチを打ち据える。
ただ、それだけだ。
おかげで、マルチは俺の顔と、俺が手に持つ実装叩きを見るだけで、
糞を漏らしながら、腰を抜かして逃げる程、過剰に反応するまでになった。
俺が虐待を極めた末に辿り着いた「飼い」に至らしめる「虐待飼い」への
初期段階としては、まずますの反応だ。
「虐待飼い」に到らすためには、ステップを踏んだ「虐待」が必要となる。
この1週間、ひたすらシンプルな虐待を強いたのも、Step1「役割を理解せしめる」
を、徹底するためである。
「よぉ、今日の調子はどうだ?」
俺が顔を近づけて、笑みを浮かべてやると、マルチは過呼吸になったように、
ヒャァッ!! ヒャヒィッ!!と、呼吸音のみで鳴こうと必死だ。
そのマルチの視界にわざと入るように立ち位置を変えて、実装叩きを振り上げる。
「デデッ!? デスデスデスデス………」
実装叩きを見るや、このように両手で頭を抱えて、小刻みに震え始める。
俺が痛みを与える者であることを認識し、かつ、この手にする実装叩きが
マルチに痛みを与えている物だと認識している証拠だ。
俺は、そのマルチの背を実装叩きで打ち据えながら、
次のステップへと進むべく頭の中で思案を繰り返していた。
「虐待飼い」に到るステップ論で言えば、4〜5通りのパターンが考えられる。
このまま、さらに苦痛を伴う虐待に入るのもあるが、マルチのこの怯えを鑑みれば、
搦め手から攻めた方が上策か・・・。
「デェックッ!! デェックッ!!」
ブリブリと下着をパンコンさせながら、泣きじゃくるマルチ。
俺が痛みを与える「者」、そして、手に持つ実装叩きが痛みを与えている「物」を理解し
この場において、確実に自らが痛みを受ける「者」と理解している。
ここまではいい。実装石がお頭(おつむ)が弱いとは言え、この程度は理解できるだろう。
しかし、この極端な怯え方を見るに、
マルチの目に映る「者」「物」は、全て恐怖の対象に映ってしまっている感が否めない。
そうなってしまっては、ステップ1も片手落ちに近い状況になってしまう。
この虐待の中で、マルチに一定のルールがある事を段階的に理解させる必要がある。
漠然と痛みを与えるだけでは、マルチは何も悟ることもなく、確実に偽石にストレスを
抱えて崩壊することになる。
そうなれば、俺が目標とする「虐待飼い」に達する虐待には到達しない。
「ふむ。あれで行くか」
俺はマルチを叩く腕を一旦止め、次のステップに進むべく部屋を後にした。
こればかりは、マルチにリンガルを通し諭しても、それはまったく意味がない。
これは、マルチ自身が自ら発見し、その上で理解する必要がある。
この悪戯に無限に続くであろう虐待の中にも、一定のルールが存在するのだ。
◇ Step2『ルールを悟らしめる』
1日6時間の虐待時間を、45時間ずつのタームに分割する。
間に15分の休憩を挟み、1時間のセットを計6回。虐待を与える期間を区切る。
これは虐待の中に変化を与え、マルチにルールを気づかせるための工夫だった。
まず最初の1時間目。
俺はいつものように地下室に入り、マルチに目を合わせる。
「デェッ!? デギャァァ!? デギャァァァァーーッ!?」
いつものように、いや、いつも以上に毛を逆立てて怯え始めるマルチ。
それもそのはずだ。
俺は虐待の中に変化を加えるべく「福助」のマスクを被って、部屋の中に入っているのだ。
手にはゴボウ。見た目は実装叩きぐらいの長さであるが、ゴボウはゴボウ。
「デギャァァァァッ!! デギャァァァァァッ!!」
不気味な笑みを浮かべる青々と頭を剃った福助のマスクを恐怖の眼差しで凝視しながら、
地下室の中を所狭しと逃げ惑うマルチ。
そんなマルチを他所に、俺は壁の前にちょこんと体操座りをして、マルチに対して無視を決め込んだ。
「デギャァァァッ!! デギャァァァァッ!!」
恐怖に慄くマルチは、部屋の隅と隅を交互に渡り移りながら、身を縮めて下着を膨らませた。
時節、チラリチラリ俺の方を覗いながら、また甲高い悲鳴を小さく上げる。
そんなマルチに興味も示さず、福助である俺は、体操座りで虚空の一点を見続けた。

45分の時は過ぎた。
俺が部屋を出て、15分のインターバルを置き、2時間目。
(ダァンッ!!)
荒々しく扉を蹴破り、踊りこむ。
「デェッ!? デェェェェェーーーッ!!」
恐怖に狂ったマルチが大声で天を向いて叫び出す。
そんなマルチを俺は睨みつけて、手に持つ実装叩きで思いっきりコンクリートの床を穿つ。
2時間目は、福助のマスクも被っていない。素の顔の俺である。
手には、マルチの恐怖の対象である実装叩き。
「デェェェェーーンッ!! デェェェェーーンッ!!」
まだ何もしていない内から、パンコン状態で逃げ惑うマルチ。
口を細めて天井に向け、地面に引き摺るパンコンが緑の不気味な文字を描いていく。
そんなマルチを、容赦なく実装叩きで45分間、延々と叩き続ける。
「デピァァァッ!! デフィィィィッ!!」
マルチは両手で頭を抱え、足を畳み、まるで亀のように丸くなる。
そして、マルチは匍匐全身のように、剥き出しのコンクリートの上を這いながら、
必死に実装叩きから逃れんと這いつづける。
その這うスピードに対し、俺は悠然とゆっくりと歩を詰めながら、
マルチの後頭部に、背に、腰に、実装叩きを容赦なく叩きつけ続けた。
「デェェェ〜〜ン!! デェェェェ〜〜ン!!」
マルチの泣き声が、ふと甘い鳴き声のトーンに変わる。
どうしようもない時。絶望に苛まれた時。
かつて、マルチに愛情を注いだはずの飼い主を求めてか、
はたまた、幼い時に里子に出された時、瞼の裏に焼きついている母親か。
「デェックッ!! デェックッ!! デッスゥ〜〜〜ン!!」
その絶対的な庇護者に対して、助けを求めて泣き叫ぶ、マルチの甘い声。
「マルチッ!! 違うだろっ!!」
「デェ!? デェェェッ!! デェェェ〜〜ン!! デェェェェ〜〜ン!!」
助けを求めて泣くマルチに、容赦なく実装叩きを叩きつける。
甘い声を出した時には、さらに苛烈に容赦なく実装叩きを叩きつける。
「デェッ!! デァッ!! ダッ!! アッアッ〜〜ッ!!」
特に急所。
鼻頭。鳩尾。股間。そこを執拗に叩きつける。
痛みを鋭利に感じさせるために、捻りを加え、こぞるように、抉るように、執拗に叩きつける。
「デフィィ〜〜ピュッ!! デビィッ!! デッフィーーッ!!!」
堪らずマルチが片手で宙を掻くような仕草を見せる。
絶対的な力の差は歴然であるが、時折見せる無駄な抵抗。
手で急所をかばいながら、余った手で宙を掻き、俺の攻撃を抗おうとする。
そんな抵抗を見せた時は、今まで叩き付けていた実装叩きの手を緩める。
「ヂェックッ!! ヂェックッ!!」
鼻が折れ曲がったのか、壊れた楽器のような音をなびかせながら、俺から必死に逃げようとする。
「デフィィ〜〜ッ!! デフィィィ〜〜ッ!!」
マルチはボロリボロリと涙を零しながら、コンクリートの上に置いてある黴た毛布の中へ
もぞもぞと頭だけ潜り込み、緑に膨れ上がった下着を露わにさせながら、ガタガタと震え続けていた。
丁度、時計を見ると、45分が経過していた。
「デズゥ〜… デズゥ〜…」
布団の中でうめくマルチを他所に、俺は地下室を後にした。
15分のインターバル後、再び、俺が地下室へと入る。
「デデッ!?」
毛布の中から光る赤緑の目と共に、くぐもった悲鳴がこもる。
3時間目。
再び、俺は「福助」のマスクを被り、地下室へと入った。
「デズァ!? デズァァッ!!」
毛布を払い除け、痛いはずの四肢を蠢かせながら、必死に逃げ惑うマルチ。
俺は案の定、マルチに無視を決め込め、入り口近くの壁に凭れて、体操座りをする。
「デフィィ〜〜!! デフィィィ〜〜!!」
地下室の隅で、再び壁を掻き始めるマルチ。
ぴょこんぴょこんと飛び跳ね、デスゥゥゥゥ〜〜〜ン♪ デスゥゥゥゥ〜〜〜ン♪と
口を尖らせて、地下室の天井の隅の染みに向って鳴き続けている。
そんなマルチに対して、俺は体操座りで無視。
このStep2「ルールを理解せしめる」のポイントは、
今まで虐待に変化を加えることにより、「役割」に次いで「ルール」がある事を
マルチ自身が「発見」し、「理解」させることを目的としている。
「デスゥゥ〜〜〜〜♪ デスゥゥゥ〜〜〜〜ン♪」
まず1点目。
危惧していた通り、自らが「虐待される側」であることは理解していたが、
その理不尽かつ抗い切れぬ絶対的な暴力の前に、マルチは目に映る全ての事象に慄き、
そして、怖れていたのである。
「虐待する側」を正確に理解せしめるために、この「福助」のマスクを被り、俺は座っている。
素の顔である俺が、「虐待する側」。
福助のマスクを被った俺は、まったくの部外者。
身近にニンゲンと接し、「飼い実装」として育てられていたマルチであれば、
ニンゲンという個を、顔で識別することはできるはずだ。
「俺」と「福助」を交互に見させることにより、この虐待の生活の中に変化がある事に気づかせる。
そして、2点目。
4時間目───
「デェックッ!! デェックッ!!」
「マルチ。逃げるんじゃない」
福助のマスクを脱いだ俺は、実装叩きを執拗にマルチに見せ付けながら、マルチを壁の隅へと追いやった。
「デッ!! デデデデデッ!!」
ガチガチと歯を鳴らしながら、俺の顔と俺の手に持つ実装叩きを見上げるマルチ。
頬は赤く腫れ、泣き腫らした目の瞼が、目の玉を覆わんばかりに痛々しく垂れ下がっている。
しゃぁぁぁ……と、今日4度目のお漏らしをしながら、マルチはガタガタと震える右手を口元に添える。
「デ… デスゥ〜〜ン♪」
媚びた瞬間、マルチを思いっきり蹴り上げる。
このように、マルチが媚びたり、甘い声を出し庇護者を求めた時には、容赦なく虐待を加えた。
これも、この虐待の中にルールがあることを気づかせるためである。
「デェェッ!! デェェッ!!」
その反面、マルチが少しでも、俺が加える虐待に抵抗するならば、
敢えてその虐待の手を緩めていった。
媚びれば痛みを与え、
助けを求めれば痛みを与え続け、
少しでも、その痛みに抗うようであれば、その手を緩めた。
5時間目───
福助。
6時間目───
俺。
そして、その日の虐待は終了させる。
そして次の日も、次の日も、同様の変化を加えた虐待を続けた。
Step2の目的は、マルチにとって理由なき理不尽な暴力の恐怖の中、
ある一定のルールが存在することを、自らの体験で理解させることである。
恐怖の対象である「俺」
その手から繰り広げられる「実装叩き」
寂寥感に募り、かつての飼い主や庇護者を求めると加えられる圧力。
実装石の本能である「媚び」を繰り返すと、さらに加わる追い討ち。
そんな中、マルチは気づく。
無駄と分かりながらも、力なき抗いの末に、体に与えられる痛みがふと止む瞬間に。
そして、定期的に現れる別の人間「福助」
彼は何もせず、マルチに興味がないように、ただその場所に座っているだけであった。
最初は「俺」と同じように、ただ恐怖の対象でしかなかったが、
日が経つことに、「福助」はマルチに何も危害を加えない存在であるとマルチは気づく。
「デ〜…」
少し勇気を出して近づいて鳴いてみても、福助はその福々しい笑みを浮かべて、
静かにマルチを見つめ、そして頷くだけであった。
ある日以降、福助が部屋に入っただけでは、マルチは飛んで逃げるような事はなくなった。
毛布越しに猜疑心の篭った目を向ける事が止む事はないが、どうやらマルチは福助が自らに
危害を加える存在ではないことに気が付き始めた。
「痛みを与える俺」と「痛みを与えない福助」
「媚や懇願の末の痛み」と「苦し紛れの抵抗の末の解放」
そんな特異な虐待をさらに1週間積み重ねる中、マルチにある変化がおき始める。
「……ァァァッ!!」
いつものように実装叩きで打ち据えていたのだが、マルチの喉の奥から唸るような声が聞える。
「シャァァァァァァッ!!!」
ただただ恐怖の対象であった「俺」に向かい、
追い詰められたマルチは、喉の奥から唸るような声を出し、威嚇を始めたのだ。
両手両足を犬のように地につけ、兎口をこれでもかと上下に広げて、
黄色い犬歯を露わにしながら、俺の顔を睨みつけた、マルチは叫んでいた。
「デジャァァァッッーーーッ!!」
その威嚇音を聞いた途端、俺はさっと実装叩きを床に下ろす。
「デスァァァァッ!! デスアアアーーーッ!!!」
相変わらず四肢は恐怖で小刻みに震えていたが、
その恐怖に震える瞳には、俺を敵として認める確固たる意思に満ちていた。
そうだ、マルチ。
その怒りこそが、おまえの心を支える動力となるんだ。
憎め。そうだ、俺をもっと憎め。
俺は、マルチが更なる虐待に耐えれる素地を作りつつある事を確信を持ちながら、
はやる心を抑えながら、細笑み続けていた。
(続く)