仔実装ぱんつ
男はぱんつに家のルールを事ある毎に教え込んでいった。
「食事」は1日3回。
「おやつ」は1日1回。
「お風呂」は毎日入ること。
「トイレ」の場所は洗面所。
「絵本の日」は3日に1回。
「玩具の日」は1週間に1回。
家の中では、大声で泣いては駄目。寝る時は、毛布で一人で眠ること。その他etc。
説明しても人語を完全に理解できない実装石が、ルールという物が存在していることすら
理解することはできない。
そこは、躾を通じた「飴と鞭」の中で、自然に体自体に覚えこませるしかない。
男は「飴」として、ぱんつがルールを遵守した時は、手を打ってぱんつを可愛がった。
それは、もう天に上げるが如くの可愛がりようである。
その代わり「鞭」として、ルールを破った場合には、男は烈火の如く声を荒げてぱんつを叱った。
通常の躾の場合「痛み」を伴う躾を施すのが通例だが、それは男には出来なかった。
「痛み」を与えることが出来ない以上、男は眉間に皺を寄せ、声を荒げ、ぱんつに対して怒鳴るしかなかった。
「テチュー!! テチュー!!」
今日は週に1度の「玩具の日」。
ぱんつは、玩具箱の玩具を部屋に繰り広げ、興奮のあまり目を真ん丸にしながら遊んでいる。
「チュフ〜ン♪ チュッフ〜ン♪」
かぼちゃパンツをフリフリ振りながら、仔実装用の魔法スティックをガンガンと床に叩きつけて、
嬌声をあげるぱんつ。
その愛くるしい姿を見るだけで、男の心の中に暖かい物が満たされて行く感じがする。
「テチュゥゥゥゥゥーー♪」
続いて、スポンジボールを両手で持ち上げ、男に向って遊べとせがむ。
男も頬を緩ませ、右へ左へスポンジボールを跳ねさせながら、ぱんつとの時間を過ごしていった。
 ボ〜ン… ボ〜ン…
男の家の時計が時を刻む。
そう。玩具の時間の終わりを告げる時計の音である。
「テチュゥ〜〜ン♪」
ぱんつは続いて玩具箱から積木と取り出し、一つまた一つ、それを積み上げる事に躍起だった。
「ぱんつ。もう時間だぞ」
「テチュ?」
「時間だ。玩具の時間は終わり」
男が壁にかけている時計を指差し、「玩具の時間」の終了を告げる。
「テチュ〜?」
「片付けなさい」
「テ………」
男は「片付ける」という行為を教えるため、ぱんつが積み上げた積木をわざと崩し、それを玩具箱に入れて見せた。
「これが、片付ける。わかったか」
「………テェ」
折角積み上げた積木が男の手によってバラバラに崩されたのを、呆けるように固まり見つめるぱんつ。
「さぁ、ぱんつ。片付けなさい」
「……テェェェッ」
「片付けなさい」
「テェェェェェェッ!!」
「ぱんつ!」
「テェェェェェーンッ!!!」
ぱんつはその場でかぼちゃパンツの上で座り込み、大声を出して泣き始めてしまった。
「デヂヂーッ!! デヂヂーッ!!」
両手を両目に宛がい、足をバタつかせながら、声を荒げるぱんつ。
明らかに、男が崩した積木を非難している様相の泣き方である。
「ぱんつ!もう時間なんだ。玩具の時間は終わったんだ」
「テェェェェェェーン!! テェェェェェェーン!!」
男が大声を荒げてぱんつに指示をするも、ぱんつはテスン… テスン…と涙を拭いながら、
先ほど男が閉まった玩具箱の中の積木を漁り始め、再び積木を積もうとしている。
「ぽんつ!」
「テスン… テスン…」
「玩具の時間は終わったの!」
そう言って、男は再び積み上がった積木を、ぱんつの目の前で崩す。
「テェエエエッ!? テェェェェーーッ!!」
「泣くな!家の中では大声を出すな!」
「テェェェェェェーン!! テェェェェェェーン!!」
「ぱんつ!」(だん!)
男は、ぱんつのすぐ傍の床を、拳でだんと大きく叩く。
「テェェェェェェッッ!!!」
「ぱんつ! 早く片付けなさい!」
「テェック!! テェック!! テェェェェェェーン!!」
30分近く問答を繰り返しただろうか。
男は何とかぱんつを泣きじゃくりながらも、積木を一つ一つ玩具箱に仕舞わせることに成功した。
「テスン… テスン…」
最後の一つの玩具を、玩具箱に仕舞い終えたぱんつ。
「ぱんつ」
「テェ!? テェェェェェェ…!!」
男がかける声に、身を縮ませて強張るぱんつ。
しかし、男の声は先ほどの怒気とは打って変わり、優しさに満ちた暖かい声色だった。
「良くやったぞ。ぱんつ」
「テェ!?」
「やれば出来るじゃないか」
飴と鞭。
叱る時は叱り、ルールを遵守した時は、褒めてやる。
ぱんつにルールを理解せしめる、ぱんつのためのコミュニケーションである。
「それが片付けるだ。良くやったな」
頭巾の上から頭を指でなでてやる。
「テスン… テスン… テェチュ〜」
ぱんつも安心したのか、甘い声に変わっていた。
「テチュ〜ン♪ テチュ〜ン♪」
いつもの優しい男だ。
ぱんつはお決まりのかぼちゃパンツをスカートからチラリと見せ、腰を振りながら、男に甘え始める。
そして、テチュ〜ン♪と鳴きながら、玩具箱に駆け寄り、がさりがさりと玩具箱を漁り始める。
「テチュ〜ン♪」(ガサガサ…)
「…………」
「テチュ〜ン♪」(ガサガサ…)
「ぱんつ…? 何をやってるんだ」
「テチュゥゥ〜〜ン♪」(ガサガサ…)
男が眉間に皺を寄せているにも関わらず、ぱんつは積木を取り出し、再びそれを積み始めるだけだった。
結局、ぱんつは飼い実装としてのルールを、正確に理解することができていない。
オヤツを要求する時も、叱り続けると泣いて震えるだけ。
叱り終えても、30分も経てば、再びオヤツを要求してくる。
トイレの躾も、粗相をした場所で怒鳴っても、それ以上に糞をぶりぶりと漏らすだけ。
夜寝る時も、男の布団の中に潜り込み、泣いてそこから出ようとしない。
男は悩んでいた。
「叱る」という行為だけでは、限界があるのだ。
我侭を言うその場限りに置いては、ぱんつを自省せしめる効果はあるが、
ぱんつを根本的に教育するだけの効果に欠けているのだ。
男にも、それを打開する回答が存在していることには気付いてはいる。
それは「痛み」を伴う躾である。
生物として根本的に忌み嫌う「痛み」を伴う躾を施せば、ぱんつにとってより効果的になるだろう。
しかし、男の心の癒しを与えてくれるぱんつに、そのような仕打ちをする事自体が、
男に心労を重ねる結果となるには違いないのだ。
そのような葛藤の中、男はギリギリの選択をしながら、ぱんつの更正を祈るしかなかった。
「テチュゥーー!! デヂヂー!!」
今日も朝食から、ぱんつはプリンを要求して来た。
目の前の実装フードに見向きもせず、ガンガンと足蹴にしながら、男に向って不満を訴える。
「ぱんつ。我侭を言うんじゃない」
「テェェェェェーン!! テェェェェェーン!!」
両手を両目に宛がい、口を半開きにしながら、ぼろぼろと涙を落としながら泣き続けるぱんつ。
時節、チラリチラリとプリンが入っているだろう冷蔵庫を横目で伺いながら、また甲高く泣き続ける。
「ぱんつ… 我侭言う仔は、うちの仔じゃない」
「テェック… テェック… テェェェェェーン!!」
「ぱんつ。出て行きなさい」
「テェェェェェーン!! テェ?」
男はまるでゴミを掴むような仕草でぱんつの頭巾を指で掴み、そのまま玄関まで歩く。
「テェ!? テェ!?」
頭巾で吊らされた姿のまま、ぱんつは不思議そうに首を回し続ける。
「我侭言う仔は、うちにはいらない。出て行きなさい」
そう言って、男は玄関を開け、その場にちょこんとぱんつを下ろした。
「……テェ!? テェ!?」
「じゃぁな、ぱんつ」
バタンと扉を閉める男。何が何だかわからず周囲を見回すだけのぱんつ。
「テェ!? テェ!?」
しばらくぱんつは呆けるように周囲を見渡し、家の周囲の柵や面する道路のアスファルトなどを
ただ見つめるしかなかった。
「……テチュ?」
好奇心旺盛な仔実装だ。
ぱんつは家の景色と違う外の景色に興味を示し、先ほどの要求も既に忘れ切ってしまい、
数分後にはテチュ〜ン♪と揺れる草花を追いかけたり、かぼちゃパンツを振りながら、
道路の景色などを頬を赤らめて見つめていた。

「テェェェェェーン!! テェェェェェーン!!」
30分後には、ぺしんぺしんと玄関扉を叩き付けるぱんつの姿がそこにあった。
「テェック!! テェック!! テチュゥゥゥゥーー!! テチュゥゥゥゥーー!!」
時々走る道路の車に、デチャアアア!!!と大声を上げながら叫び続けるぱんつ。
「デッス〜ン♪」
「テェ!? テェェェェェェ……」
近所の飼い実装が散歩などに通ると、ぱんつはガタガタと歯を鳴らしながら、植木鉢などに頭を突っ込み、
かばちゃパンツに糞などを盛り上げさせる。
冷静に考えれば、幼少の頃虐待を受けたぱんつに取って、外は恐怖の対象でしかない。
「テェェェェェーン!! テェェェェェーン!!」(ぺしん ぺしん)
30分… 1時間…
男も部屋の中で苦痛に耐えながら、玄関を開けたい衝動に耐えながら、歯を食いしばる。
「テェェ……」
2時間後には、玄関を叩く音も、甲高く泣き叫ぶ声も無くなっていた。
男は頃合を計り、静かになった玄関に急ぎ向かい、玄関扉を開ける。
「テェ!!」
扉を開けると、庭で枯葉の中に身を潜めていたぱんつが、小さな悲鳴をあげて玄関に走り寄って来る。
「テェェェェェェ……ッ!!」
「……ぱんつ。反省したか?」
「テチュゥゥーー!! テチュゥゥーー!!」
目を赤く腫らしたぱんつが、男のズボンにしがみつき、離れようとしない。
「ぱんつ。これに懲りたら、我侭を言うんじゃないぞ」
「テチュゥゥーー!! テチュゥゥーー!!」
本当に効果があったのだろうか。
男は訝しながらも、甘えるぱんつを手にとって、ぱんつを家の中に入れてやった。
「テェェェェェ…!!」
男はこの躾に半信半疑であったが、この躾の効果はてき面であった。

「テチュー!! テチュー!!」
「ぱんつ。外に出すぞ!」
男がぱんつの頭巾を指で摘まみ、玄関に向う。
「テェェッ!! テチュゥゥゥゥーー!! テチュゥゥゥゥーー!!」
頭巾を指で摘まむだけで、ぱんつは歯をガチガチと鳴らしながら、震え始める。
床に降ろすと、ぱんつは先ほど読めとせがんでいた絵本を手に取り、本棚へ仕舞うために駆け出す。
「よしよし。偉いぞ。ぱんつ」
あれ以来、外に放置する躾を嫌がったぱんつには、この躾は効果てき面であった。
しかし、それ以上に困った事態も発生していた。
「テェ!? テェェェェェェ……!!」
男が絵本を仕舞ったぱんつを褒めようと手を上げると、それから逃れるように
ぱんつは部屋の片隅へと逃げてしまう。
そして、ぱんつはクッションの後に隠れ、かぼちゃパンツを小刻みに震わせて怯え続けているのだ。
「テチ!テチテチテチテチテチテチテチテチテチ…」
「大丈夫だぞ。ぱんつ。もう外には出さないから」
「テェ!? テェェェェェェーン!!」
男が指を差し出すと、ぱんつはその指に駆けるようにしがみ付き、頬擦りを始める。
「ぱんつ。安心しろ」
「テチュ〜〜ン♪」
ここまでならいい。飼い主に信頼を寄せる飼い実装の仕草だ。
「さ、ぱんつ。そろそろ離してくれ」
男が指を抜き台所に向おうとすると、ぱんつはテチュゥゥ〜〜♪と鳴きながら、何処までもついてくる。
「テチュゥゥゥ〜〜ン♪ テチュゥゥゥ〜〜ン♪」
狭い部屋ではあるが、男のいる場所、男のいる場所、ぱんつは何処までも男についてくるのだ。
そう。あの躾以来、ぱんつは極端に臆病で、かつ甘えっ仔になってしまったのだ。
「テェェェェェェーーンッ!! テェェェェェェーーンッ!!」
ぱんつが泣いている。部屋を幽鬼のように彷徨い男の居場所を求めて彷徨っている。
「テェェェェェェーーンッ!! テェェェェェェーーンッ!!」
男はトイレの中で、用を足しながら、呆れたような顔でぱんつの仕草を見つめている。
「テチュゥゥゥーー!! テチュゥゥゥーー!!」
ぱんつが脱衣所のまわりとくるくると徘徊して泣き叫んでいる。
溜まらず浴室の扉を開けてやると、ぱんつは服を着たまま浴室へと乱入する。
「テチュゥ〜〜ン♪ テチュゥ〜〜ン♪」
男は、べちょべちょになったぱんつの濡れ姿を、男は湯船の中で呆然と見つめている。
仕事で部屋を開ける時など、毎日が修羅場だ。
「テェェェェェェーーンッ!! テェェェェェェーーンッ!!」
「ぱんつ。仕事なんだ。泣き止んでくれ」
「テェェェェェェーーンッ!!」
泣き叫ぶぱんつに、ほとほと頭を抱え込む男。
「泣き止むんだ、ぱんつ! 外に出すぞ!」
指でぱんつの頭巾を掴み、もう一つの片手で玄関扉を開けてみる。
「テェ!? テチャァァァ!!! ヂヂヂーッ!!!」(ぶり!ぶりりぶ!)
開けた玄関から外の景色が目に映ったのだろう。
宙に吊られたまま、そのままぶぼっ!!と盛大に糞を漏らすぱんつ。
「ヂャアアアアアア!! デヂヂー!!!」
糞の重みで、かぼちゃパンツがずるりと脱げ落ちる。
そのぱんつを床に下ろし、鼻につく糞の匂いを嗅ぎながら、呆然と俯く男。
「テチ!テチテチテチテチテチテチテチテチテチ…」
ままならない。このままではままらない。
ぱんつの今の姿は、模範的な飼い実装には程遠いのだ。
模範的な飼い実装として、ぱんつを育てるためには、ぱんつが幼少の頃に躾を施さねばならない。
「テェェェェン!テェェェエエーン!」
仔実装としてのぱんつに残された時間は、そう長くない。
キチンと躾けるなら、今のうちなのだ。
男は俯きながら、「痛み」を伴う躾をする事を静かに決意をしていた。
(続く)