仔実装ぱんつ
 
『仔実装ぱんつ3』
男は100円ショップで、ぱんつの躾のための道具を仕入れた。
丹念に道具を見定め、出来るだけぱんつに痛みを与えない物を選別した。
我侭ばかりを要求し続けるぱんつ。
飼い実装のためのルールを、一つも理解できないぱんつ。
男は散々ぱんつのために身を粉にし、口を酸っぱくしてぱんつのために叱り続けた。
しかし、結果は散々なものだった。
男が選んだ選択肢。
口で怒鳴っても理解できないのなら、体で覚え込ませるしかないのだ。
「テチュ〜♪ テチュ〜♪」
ぱんつが台所で踊っている。
かぼちゃパンツを広げて踊っている。
それは食事の時間。
ぱんつにとって、とても嬉しい時間だ。
男はそんな愛くるしいぱんつのために、実装フードを皿に盛り、ぱんつに給餌する。
分量は、ぱんつの体のサイズに合わせて小さじ3杯。水道水を100cc程混ぜ、少しふやけさせる。
「テチューー!!」
まだかまだかと小躍りするぱんつの前に、皿に盛った実装フードを置いてやる。
「テチュゥーー!! テチュー… テェ…?」
置かれた実装皿を、しばし見つめ、先ほどまでの嬌声はどこへやら。
実装フードの前で固まったぱんつは、クンクンと皿の上の何かの匂いを嗅ぎ始める。
「テェ… テー…」
ザッザッと、無意識のうちに土を掻く仕草を繰り返す。
まるで臭い物に蓋をせんかのような仕草だ。
そして、男の顔を覗き込み、テチィ〜?と小さく首を傾げた。
「ぱんつ… またか」
これが、いつもぱんつの食事風景だった。
食事前のぱんつは、プリンなどの甘い物を期待し、腰を振りながら愛嬌を巻く。
そして、いつも給仕された皿の中の実装フードを覗きこみ、?な顔をして、男の顔色を伺うのだ。
「テチューー!! テチューー!!」
始まった。
ぱんつの要求が始まった。
「テチュゥゥゥーーー!!」
何度躾けても、何度怒鳴っても、食事時にぱんつは甘い甘いプリンを要求する。
ぱんつを拾った当初、男も何度もぱんつを甘やかし、プリンを出してしまったことに非はある。
その経験とプリンの味の刷り込みにより、ぱんつは要求すれば甘いプリンが貰えるものと
思考がロックしてしまっているのだ。
味気のない草の匂いのする実装フードに比べれば、プリンの甘い味はまるで甘露の味。
「テチュゥゥゥーーー!! テチュゥゥゥーーー!!」
ぱんつの要求の声が次第に大きくなる。
男は無表情な眼で、ぱんつのその仕草を追っている。
声が大きくなる。次いで声が涙混じりになってくるのだ。ほら、涙混じりになった。
続いて、足で地団駄を踏む。今日は少しアクションが大きいな。
その内、実装フードを掴み、投げつけてくる。そら来た。
そんなに泣くなよ、ぱんつ。冷蔵庫をチラチラ見ても、ぷりんは出ないぞ。
飼い実装として生きるならば、栄養価のバランスの取れた実装フードが一番なんだ。
人間の濃い味付けの味に仔実装の頃から慣れてしまうと、取り返しのつかない事になるんだ。
嗚呼。ぱんつ。食べ物を粗末にするんじゃない。皿に乗るな。食べ物を踏むんじゃない。
男が冷静にぱんつの所作を眺めながら、100円ショップで買った道具を取るために、
手元のビニール袋に手を入れ、躾のための道具を選別し始めた。
「テェック… テェック… テチュッ!? テチュゥゥー♪ テチュゥゥー♪」
男が動作に反応し、プリンが貰えると勘違いしたぱんつが、腰を降り始める。
しかし、ビニール袋から取り出されたのは、無論プリンでなく、100円ショップで購った
裁縫道具であった。
「テチュゥゥー♪ テチュゥゥー♪」
男は裁縫道具からまち針を取り出し、両手を差し出すぱんつの右手を取った。
「ぱんつ。食べ物を粗末にしたら駄目だ」
「テチュゥゥー♪ テチュゥゥー♪」
「粗末にしたら、痛い目に会うんだぞ」
「テチュゥゥー♪ テェ……?」
男が手に持つまち針が、ゆっくりとぱんつの右手に近づいて行く。
「テチィィ〜〜?」
好奇心旺盛なぱんつは、何が起こるか興味深々で、かぼちゃパンツをさらに振り続けた。
まち針の先端が、ぱんつの右手の手の平に、ぷつりと刺さった。
「…………テ?」
ぱんつは呆然と自分の右手を見つめている。
「………テェェェェェェッ!!!」
最初は痛覚が鈍かったのだろう。
反射的に痛みで手を引いたぱんつは、残る左手で右手を押さえ、暴れるように台所を転げ回った。
「テェェェェェーーン!! テェェェッ!?  テェェェーーッ!?」
ぱんつは初めて受ける痛みに戸惑いながら、何が起こったか理解できない表情をしていた。
しかし感じる痛みはリアルだ。不条理に映る出来事でも、体は正直に反応する。
ぱんつの右手には、赤い朱の珠が、ぽつりと浮かび上がっていた。
「テェェェェェーーン!! テェェェェェーーン!!」
「痛いか、ぱんつ」
「テェック!! テェック!!」
「わかるか?ぱんつ。食べ物を粗末にすると、痛い目に合うんだ」
男は手に持ったまち針を床に置き、そっとぱんつを抱き上げる。
ぱんつは、右手に走る痛みの理由がわからず、抱き上げられた庇護者である男の指にしがみ付くしかない。
「テスン… テスン… チュー!! チュー!!」
「痛かったな。さぁ、ご飯にしよう」
男はまだしがみ付くぱんつを床に降ろし、実装フードが盛られた皿を、再びぱんつの前に置いた。
「テスン… テスン…」
痛みが引いたのか、ぱんつは涙を拭い男の顔を見上げ、ようやく泣き止んだ。
「さ、ぱんつ。食べなさい」
「テェ…」
痛みのひいた右手で、実装フードを摘まむが、すぐにそれを皿に戻してしまう。
「テチュゥ〜♪ テチュゥ〜♪」
ぱんつは、先ほどまで優しくあやしてくれた男に対し、再びかぼちゃパンツを振りながら、
顔を赤らめ始める。
「テチュゥゥゥーーー!!」
喉元過ぎれば何とやら。再びプリンの要求だ。
男も慣れたもので、1度の躾で聞き分けてくれると思ってはいない。
再びぱんつの右手を取り、床に置いたまち針で、ぱんつの右手に突き刺した。
「テェェェッ!? テェェェェェーーン!!」
再びぱんつがいきなり右手に走る激痛に耐えかね、泣き叫びながらもんどり打つ。
「テェェ!! テェェ!! テェェェェェーーン!!」
男は何度でも続けるつもりだった。
プリンを要求すると痛い目に合う。
そう体で理解するまで、男はこれを続けるつもりだった。
「テスンッ!! テスンッ!!」
ぱんつも馬鹿ではない。
2度、3度。いきなり右手に走る激痛が何故発生するのか。
それは男が手に持つあの細長い棒のためだ。
この痛みは、この男が棒を右手に近づける度に発生しているのだ。
この痛みを与えているのはこの男だ。この男が自分に与えているものなのだ。
「シャァァァァァァッ!! プルッシャァァァァァァァッッ!!!」
4度目の躾で、ぱんつは男に威嚇を始めた。
ルールを学ぶのではなく、痛みを与える男に対して防御することを本能的に実施したのだ。
「ジャァァァァァァァァッッ!!!」
「ぱんつ! 逆らうのか!」
飼い主と飼い実装。
「家族」として迎えるのは愛護派の口上とは言え、所詮は飼い主とペットだ。
飼い主に逆らうペットが、この後飼い実装として、円滑に暮らせるはずはない。
事ある毎に摩擦を抱え、不満を抱えた時に、反発していく飼い実装に育ってしまうだろう。
力関係。上下関係。主人とペット。
単なる庇護者でなく、この家では絶対的な君主。
そういった関係を、この仔実装時代に徹底的に叩き込まないといけない。
「シャァァァァァァァァッ!!!」
「ぱんつ!」
ぱんつは黄色い歯を剥き出しに、四つん這いで威嚇を続ける。
そして、右手を男に向って振るい、何度も宙を掻く仕草を続けている。
男はその宙を掻くぱんつの右手目掛け、針を突き刺していく。
「ヂュアアァァッ!!!」
宙を掻く拍子に、深くまち針が右手に突き刺さった。
「デヂヂィー!! デヂヂィー!!」
痛みのため、右手をぶんぶんと振る。
男はその拍子にまち針を手放してしまったが、その針はまだぱんつの右手に刺さったままである。
「テチッテッチィィィ!! テチッテッチィィィーーー!!」
振っても抜けない針に恐怖したのか、ぱんつはそのまま蹲り、床を転げるようにして暴れ始めた。
「デチャア!!! アッアッアッ〜〜〜!!」
転げ回る内に、ぱんつの声色が1オクターブ高くなる。
転がった時に、まち針の柄部分が床に押され、針はぱんつの右手を貫通してしまったからだ。
「ヂヂヂィーー!!」
「ぱ、ぱんつ! じっとしてろ」
男が暴れるぱんつを押さえつけようとすると、ぱんつの目がギョロリと男の顔を凝視する。
「テェッ!! テェェェェェ……ッ!!」(ガチッ! ガチガチガチガチ……)
歯をガチガチと鳴らしながら、瞳孔の開いた顔で、男の顔を凝視する。
ぱんつはお漏らしをしながら体を震わせ、この痛みを与えた張本人の人間の顔を、
恐怖の表情で喰い入るように見つめていた。
「テァ!! デヂュアアアアアア!!!!」
男が針の柄を持ち一気に引き抜くと、甲高い声が台所一杯に響き渡った。
「ピャァ… ピャァ………」
ぱんつは口から泡を吹き、目の焦点も虚ろで、男の手の中で細かい息を繰り返していた。
男は抱きかかえたぱんつを治療したい衝動に駆られるが、ここは歯を食い縛り、躾の続きを行う。
「ぱんつ! 俺に逆らうな!」
「テェエ…… テェェ……」
「そしてプリンは駄目だ! ご飯はこれだ!」
「テェェ……」
「これから金輪際、食事の時にプリンを要求してみろ」
「……テ」
「この針で容赦なく、おまえの手を突き刺すからな!」
「………テー」
虚ろな目で鳴くぱんつの右手は、赤緑に痛々しく血が鬱血していた。

その日は、ぱんつにはオヤツのプリンすら与えず、朝食の実装フードを食べ切るまで
次の食事を与える事もしなかった。
「テスン… テスン…」
ぱんつは台所の隅にある、「ぱんつの家」と書かれたダンボールハウスの中に閉じ篭り、
今朝方受けた衝撃的な出来事に、放心しながら、ただただ悲しくて泣き続けるしかなかった。
「テェェェッ!! テェェェェェーーン!!」
時折、右手が痛むのだろうか。
思い出したかのように甲高い声がダンボールハウスに響き渡る。
大声を出した時も躾をしないといけないのだが、ここで躾けるのは逆効果だと思い、
男は居間で静かにぱんつの回復を待つしかなかった。
昼が過ぎ、夕方近くになった。
流石に育ち盛りの仔実装である。
空腹に耐えかねたぱんつは、美味しくない実装フードでも、それを食べるしかない。
「………テェ!?」
そろりそろりとダンボールハウスから抜け出し、呆然と冷蔵庫を見上げるぱんつが、
居間から覗く男の視線に気がつく。
「テェェェェ……ッ!!」
急ぎ隠れるように、ダンボールハウスの中に閉じ篭るぱんつ。
目の前にある実装フードを食べればいいものを、あれだけ痛い目に会いながらも、
心はあの魅惑の甘い味に囚われているらしい。
「…………ェェッ!!」
ダンボールハウスに篭るぱんつ。
ダンボールハウスは、丁度ぱんつが入る事ができる大きさに入り口をくり抜かれ、
男からは、上から覗くことができないようにしてあり、一応ぱんつのプライベートは守られていた。
度重なる躾の中、安全地域を確保しないとストレスで自戒する恐れもある。
そういった男の気遣いでもあった。
男はダンボールハウス前に近づき、冷蔵庫脇にある実装フードが盛られている皿を見やる。
空腹であるはずのぱんつは、実装フードはまだ手をつけておらず、朝の状態と変わってはいなかった。
「ぱんつ。頑張れよ…」
恐怖のためダンボールハウスから出ないぱんつのために、男はそっと実装フードの皿を
ダンボールハウスの中に入れてやった。
その日の夜中、就寝していた男がふと目を覚ます。
尿意を催したのか、むくりと寝床から起き出し、トイレへと向う。
「………………」
眠気眼で頭を掻きながら、暗がりの台所のダンボールハウスを一瞥する。
その日はあの躾以降、ぱんつはハウスに篭りがちで、一向に外に出てこようとしなかった。
少しやりすぎたか…。
そう自省しながらも、これはぱんつのため、越えねばならぬハードルなのだと自分に言い聞かせる。
男がトイレに向おうとした、その時だった。
「………テェッ!!」
暗がりの中、仄かに赤緑に光る瞳が、小さな足音と悲鳴と共に、足元を駆けて行った。
ぱんつであった。
「………………」
無言の男の足元を駆けていき、急ぎダンボールハウスに篭る後姿が、トイレの灯りで見て取れた。
「(あいつもトイレか……)」
そう思いながら、自らも尿を足すべくトイレに入る。
(じゃばぁぁぁぁ〜〜〜)
用を足した男は、ついでにぱんつのトイレも片しておくかと洗面所に向った。
続いて台所の電気がつけられるのと、男の怒号が飛ぶのは、ほぼ同時であった。
「ぱんつ!! 出て来い!! ぱんつ!!」
バタバタと狭いダンボールハウス内を駆け回る音が聞こえてくる。
男は、ぱんつしか通れない小さな入り口に手を入れて、ハウス内を駆け回るぱんつの足を掴み、
ぱんつを無理やり引き出した。
「ぱんつ!! おまえ!!」
「テェェェェェェッッ!!!」
台所の煌々とついた灯りの元。
手で拭ったのだろうか。ぱんつの口元に緑色の線が走っていた。
「テチュー!! テチュー!!」
「まさか… おまえ喰ったのか…」
「喰ったのか!!」
「馬鹿野郎!! おまえ!! 飼い実装だろ!!」
「デチチー!! デチチー!!」
緑色に染まった犬歯を剥き出しに、ぱんつは男に向って牙を剥いた。
今朝与えた手付かずの実装フードが、コロリと台所の床に転がっていた。
(続く)