『仔実装ぱんつ』4
男の家の台所に、1匹の仔実装が力なく座っていた。 仔実装の隣には椅子が置かれており、その足の一つに1本のビニール紐が結われていた。 そのビニール紐の反対の先端は、その仔実装の首元に結われている。 目的は、仔実装の行動の自由を奪うことであろう。
そして、その仔実装の目の前には皿に盛られた実装フード。 その隣には、ビニール袋の上に盛られた緑色の物体。 姿形そして臭いからして、実装石の排泄物のように見受けられた。
「テー…」
今まで呆けたようにしていた仔実装が、のそりのそりと動き出し、緑の排泄物の方へ 涎を垂らして這って行く。
その仔実装の頭目掛けて、頭上から突き刺さる1本のまち針。
「デヂュアアアアアア!!!!」
仔実装の頭巾は後に脱がされており、その剥き出しとなった頭皮には、今のまち針も含めて 総勢10本近くのまち針が、ヤマアラシの棘のように刺さっていた。
転げ回る仔実装の大きなパンツ。俗に言う「かぼちゃパンツ」だ。 その大きなかぼちゃパンツからして、その仔実装は「ぱんつ」に違いなかった。
翌朝にかけて、男は空腹を抱えたぱんつの首をビニール紐で結わえ、ぱんつの行動を制限した。 そして、皿に盛った実装フードとぱんつの糞を、空腹のぱんつの目の前に並べ、食糞の矯正を徹底的に行った。
実装石とは、元来「食糞」を当然のように行う種であり、それは本能に従った行為である。 野生の実装石などが、食糧事情の貧しい時に、自らの糞を喰うというのは至極当たり前の行為である。 反面、飼い実装においては、食料事情が恵まれていることもあり、食糞行動に走る飼い実装は、ほとんどいない。
しかし、ぱんつの場合、実装フードを意味なく拒絶し続けた結果の飢餓感ゆえ、 飼い実装でありながらも、生き延びるための食糞という本能的行動を取ってしまったのだ。
食糞は繰り返し癖になる。 発覚した時に厳しく矯正しないと、ぱんつは男に隠れて食糞を続ける事になるだろう。
「テェックッ!! テェックッ!!」
頭中に針を生やしたぱんつが、痛みと空腹と虚無感で、ただ只管さめざめと泣いている。 ぱんつの針の刺さった頭皮は、青く赤くまた緑に鬱血し、見ているだけでも痛々しかった。
「………………」
男は、無言でさめざめと泣くぱんつを見下ろしている。 男の顎には、うっすらと髭も生えている。 夜間、夜通しで行った食糞の矯正。既に夜は明けてしまっている。
「テー……」
泣き腫らした窪んだ瞳で、男の顔を見上げるぱんつ。 再び空腹を感じたのか、ぱんつは鼻をヒクヒクとさせて、再び糞の方へと歩み出す。
「テー……」
「………………」
「テチァァァァァッッ!!」
男が無言で針を刺す。何度でも、何度でも。 ぱんつが実装フードを選ぶまで、男はその躾は続けるつもりだった。
◇
男が日雇いの仕事に出かけても、ぱんつはぽつんと台所に佇んでいた。 ぱんつの前には、いまだ手付かずの実装フードと糞が並べて置いてある。 ぱんつは、首に繋がったビニール紐を恨めしそうに引きながら、ただ泣くしかなかった。
「テェェェェェーン!! テェェェェェーン!!」
ただ悲しくて、哀しくて、泣きに泣いた。
「テェックッ!! テェックッ!! テェェェェェーン!!」
ぱんつには、このような仕打ちを受ける理由がまったくわからなかった。 ぱんつにとっては、空腹を感じたからこそ、飢餓感を抑えるための食糞行動であった。 それは、生まれついての実装石としての本能に従っただけに過ぎない。
「テスン… テスン…」
ぱんつは思う。 お腹空いた。とてもとてもお腹空いた。
それもそうだ。ぱんつは昨日の朝より、まともな物は糞以外何も口にしていない。 目を腫らしながらも、ぱんつは呆然と右前方の盛られた糞を見つめる。 ぷぅ〜んとする鼻につく、糞独特の臭い。
あれを口に入れると、きっとお腹空いたがなくなるはずだ。 そう思い、ぱんつは再び針の刺さった重い頭を持ち上げながら、糞の方向へ歩き始める。
「テチュー!! テチュー!!」
盛られた糞しか目に入っていないぱんつは、男が出かける前に巻いた「画鋲」の事など、 視界には入っていない。
仕事で家を空ける男が仕方がなく取った仕掛けとして、100均で購った画鋲を糞を置いた ビニール袋の周辺に巻いたのだ。 男が居ない間でも、食糞を選択した場合には、痛みがそれを制してくれるだろう。
「テェッ!? デチャアアア!!!」
案の定ぶすりと右足で、画鋲を踏み抜いてしまうぱんつ。
「デヂヂーッ!!」
痛みのため、本能的に右足を引いてしまう。
「テェアッ!? ジャァァァァァァーーッ!!!」
次いでバランス崩してしまい、ぱんつは床の画鋲の海へ倒れこんでしまう。
「テェェェェッ!!? テェェェェーーッ!!」
体中に走る鋭い痛み。 それから逃れようと、無意識のうちに床の上で体をひねる度に、さらに痛みは体の至る処に走った。
「デビベデチベッ!! ピァァァァピァァァァ!!!」
頭には無数のまち針。体には至る処に画鋲。 ぱんつはひきつけを起こし口から泡を吹き気を失ってしまう。 しかしそれも実装石。ぱんつは、30分も経たずして蘇生してしまう。
「テェック… テェック… テェェェェーン!! テェェェェーン!!」
体中に受ける痛み。それは、まるで同じだ。 ぱんつは生まれながらにして、迫害を受けた記憶を思い出す。
このひらひらのパンツ。 これを見せるとママは鬼のように怒った。 姉も妹チャンも同じように自分を殴った。
痛い痛いのは嫌い。だから逃げ出した。 お腹空いた空いたも嫌い。だから逃げ出した。 ここも痛い。ここもお腹空いた。ここ嫌い。ここ嫌い。大嫌い。
「テェェェェーーン!! テェェェェーーン!!」
お腹が空いたからか。体が痛いからか。自らの境遇を嘆いたからか。 ぱんつはいつまでもいつまでも、大声で泣き続けた。 泣き疲れしばらく眠り、空腹と痛みで目が覚め、また泣き始める。
「………テー」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。 ぱんつは、今まで拒絶していた実装フードに近づき、数粒それを手で摘まんでいた。
カリ…コリ…カリ…
無機質な咀嚼音が、静かに台所に響いていた。
それ以降、食事時に関しては、ぱんつはプリンを要求しなくなった。
「さ、ぱんつ。朝ごはんだ」
「………テェ」
嬉しそうな所作を期待するのは贅沢かもしれないが、与えれた実装フードを文句言わず カリコリ…と口の中に入れて咀嚼をする。
今日は少し多めに、実装フード小さじ4杯。 ぱんつはそれを文句も言わず綺麗に平らげた。結局は、幼少の頃によくある喰わず嫌いも 手伝った事なのかもしれない。
しかし、これで躾が全て完了したかと言えばそうでもない。 男の目からしても、ぱんつはまだまだ飼い実装として躾けなければならない問題児であった。
◇
「テェェェェ…ッ!!!」
ぱんつがダンボールハウスから慌てて飛び出してくる。 両手はお尻に宛がわれており、その焦りようはトイレである事が窺い知れる。
「テェッ!! テェェェ……」
洗面所の砂場の容器をよじ登る手足が、我慢の限界なのか小刻みに震えている。
「テチュッ!! テチュッ!!」
そして自慢のかぼちゃパンツを下ろし、その場で屈み力み始める。
「テシュゥ〜!! テシュゥ〜!!」
鼻息荒くピスピスと言わせながら、頬を赤らめ排便をすることに躍起だ。
「テチュテチュテチュ」
排便後の表情は晴れ晴れとしている。 ウンコ出たテチ、とでも言っているのだろうか。
よほど快感だったのだろう。排便をした事に満足し、ほっと一息つくぱんつ。 ずらしていたかぼちゃパンツを元に戻し、砂場の容器に足をかけて器用に降り立ち、 そしてダンボールハウスに戻る。
「テチュ… テチュ…」
ぱんつが歩いた洗面所からダンボールハウスまで。 そこには、点々と緑の点が台所の床に記されていた。
「ぱんつっ!!」
「テェェェッ!! テェェェッ!!」
「何度言ったらわかる!! トイレの後始末はちゃんとやりなさい!!」
「テェェェェーーン!! テェェェェーーン!!」
台所の床に放り投げ、100均で購ったプラスチック製の定規で、ぺしんぺしんとぱんつを叩く。 頬を打つ度に、ぱんつの頬が赤く腫れて行く。
「ほら。自分で綺麗にしなさい!!」
ぱんつ用の雑巾をぱんつにぶつけ、掃除をするように促す。
「テスン… テスン…」
ぱんつは雑巾を使い床を不器用に掃除をするが、その度に汚れた下着からまた糞が垂れて行く。
「ぱんつ。先にパンツを脱ぎなさい」
「テェ?」
「ほら後。新しく汚れているだろ」
「テェ!? テェ!?」
ぱんつがクルクル廻るたびに、ぱんつを中心とした円状に、緑の点が広がって行く。
「脱ぎなさい!!」
男はむりやりパンツの下着に手をかけて、それを脱がそうとする。
「テェ!? テェェッ!!」
しかし、ぱんつにはその意図が分からず、雑巾を放り投げ、必死に取られまいとかぼちゃパンツを 掴んで離さない。
「ぱんつ!! 離しなさい!!」
「テェェェェッ!!! テェェェェッ!!!」
「取ったりしない!! 洗うだけだ!! このまま掃除したら、また汚れるだろ!!」
「テェェェェッ!!! テェェェェッ!!!」
大事な大事なぱんつのパンツ。 それを守ろうとするのは、実装石の本能に近い行動だった。
しかし、所詮人間と実装石の力。 ぱんつの下着は脱がされ、ぱんつは最後の力を振り絞り、両手で頭上高く取られるかぼちゃパンツに しがみ付くのが精一杯だった。
「ぱんつ!! 離しなさい!!」
「テェェェェーンッ!! テェェェェーンッ!!」(ブリッ!! ブリリリッ!!)
ノーパン状態で、新たに水状の糞を放物線に描く。
「ぱんつっ!!」
「テェェェェェッッ!!!」
怒号と共に定規で何度もお尻を叩かれ、ぱんつは下着どころではなくなった。
服も脱がされ、風呂場で冷水をかけらる。
「テェッ!! テェェェェェ…!!」(ガチガチ……)
そして髪も乾かされる事もなく再び台所に放置させられ、奥歯を鳴らしながら、 ひたすら台所の床の掃除を続けさせられた。
「テスン… テスン…」
痛みを通した躾に関しては、ある一定の効果が見受けられた。 現にこの躾以降、ぱんつは排泄の際には細心の注意を傾け、排泄口の汚れをティッシュで 何度も何度も拭くようになった。
しかし、痛みに対する躾の弊害というのが現れ始めたのだ。
◇
男が仕事から疲れて帰る。
「ただいまー」
今までであれば、無言で帰る帰宅であるが、今は家族と呼べる者が存在する。
「おーい。ぱんつ。帰ったぞぉーって……あれ?」
いつもなら、テチュー♪ テチュー♪と甘えたのぱんつなのに、その日に限って出迎えにも来ない。
「ぱんつ… どうした? 寝てるのか?」
男は鞄を置き、台所隅のダンボールハウスの様子を伺う。 ぱんつの体が丁度入る入り口を覗くと、暗がりの中の赤緑の瞳と目が合う。
「テェ!? テェェェェッ!!」
男と目があったぱんつは、小さな悲鳴をあげてダンボールハウスの奥へと篭り始めた。
一体、何がどうしたのか? 男もぱんつの様子がおかしいと思いながらも、思い当たる節が一つあった。
そう言えば、昨日はぱんつに相当きつい躾を施したのだ。 原因は、ぱんつが机の上に勝手に登り、コップを倒し割ってしまったためである。
まち針を頭に何本も刺した上に、定規できつくお灸を据えた。 最後は、ブリブリと下着を膨らました後に、逃げるようにしてダンボールハウスに逃げ隠れたのだ。
もしかしたら、その時のショックがまだぱんつに残っているのだろうか。
「ぱんつ。もう怒ってないぞ。出て来いよ」
「……テェッ!! ェェェェェェッ!!!」
男の声に反応してか、バタバタとダンボールハウス内を逃げ惑う音が聞こえてくる。
「テェッ!! ヂッ!!」(ダンッ!!)
ダンボールが軽く揺れる。 どうやら、暗がりの中で、思いっきり壁にぶつかったようだ。
「(まぁ今は、ほっとくか)」
所詮、時間が解決するだろう。 男もそう簡単に思っていたが、この根は以外に深いものであった。
◇
「ん…?」
「テェ!?」
居間でテレビを見ていると、ふと台所のぱんつと目が合った。
「テチュ〜ン♪」
右手を口元に添え、ぱんつは男に向って鳴いた。
いつものぱんつ。 男はそう思い、そう深く気に止めず、再びテレビを見続ける。
「さぁ、寝るか」
暫くして、男はテレビを消し、大きく伸びをして寝床の準備をし始める。
「おーい。ぱんつ。そろそろ電気を消すぞ」
「テェッ!?」
台所でテーと呆けていたぱんつに男がそう話かける。
「どうした?ぱんつ」
どうも、ぱんつの様子がおかしい。
「テチュ〜ンッ♪ テチュ〜ンッ♪」
甘い声を男にかけてきている。それは良くあることだ。 しかし、どうも仕草がぎこちない。 オーバーアクション気味に口に添える手が微かに震えているのだ。
「テチュゥ〜〜ンッッ♪」
自然体な甘えではなく、どこかに悲壮感が漂う甘い声。
「ぱんつ」
「テチュゥ〜〜ンッッ♪」
男がぱんつを抱き上げると、ぱんつは作った甘い顔が一瞬にして崩れ落ちる。
「テェェッ!! テェェェェェ〜ッ!!!」
必死に男の手から逃れようと、宙を掻き続け、逃れられぬと悟ると甘い声を繰り返す。
「…ェェッ!! テチュゥ〜ンッ♪ テチュゥ〜〜ンッ♪」
「おまえ… まさか媚びているのか?」
「テチュゥゥ〜〜ン♪」
ぱんつが男に対し、打算的に媚び始めた瞬間であった。
(続く)