『お化粧』
 
「ふぅ〜。今日も一日大変だったデスゥ」
親実装は疲れた表情でダンボールの中で一息ついた。
 テスー テスー
 スピー スピー
 レフー レフー
子育てはまるで戦争だ。
ダンボールの隅に敷かれた枯葉の上で、愛しい子供たちが寝息を立てている。
1匹の中実装に仔実装。そして蛆ちゃん。
何匹かは育児の間に、悲しい事をしてしまった。
この厳しい自然の中で生き抜くためには仕方の無かった事だった。
 スピァァァァ… 
そんな悲しい出来事も、今目の前にある天使のような寝顔を目にしては、報われたような気もしてくる。
苦しい食糧事情。
睡眠を削ってまで、この仔実装たちのために食料を集める毎日。
しかし、母はこの仔たちを一人前に育てるまでは負けることはできないのだ。
 ムニャ… ムニャ…
「あらあら風邪をひいてしまうデスゥ」
寝相の悪い仔実装は枯葉からお腹を出してしまう。
親実装は上から枯葉をかけてやり、その仔実装たちにキスをした。
「デプププ。かわいいデスゥ…」
さぁ、明日も早い。
明日は生ゴミの日だ。
この地域では、火曜日・金曜日は生ゴミの日。
明日を逃すと週末は餌なしで過ごす危険性があるからだ。
親実装も、頭巾を脱ぎ出し、自分も眠りに入ろうとする。
 ムニャ… ムニャ… ママ… ムニャ… ムニャ…
「あらあら、寝言デスゥ」
 ムニャ… ムニャ… ママ… 大好きテスー…
 テププ… キレイなママが大好きテチュ… テスー
 レフー… レフー…
「デププ。きっといい夢を見てるデスゥ」
親実装は、ダンボールの奥から割れた鏡の破片を取り出し、ダンボールの取っ手口から漏れる
月明かりで、自らの髪を手櫛で梳いて行く。
鏡に映る自分の顔を魅入りながら、ペットボトルに入ったボウフラの沸いた水道水を手にふり、
化粧水のように顔に叩いて馴染ませ行く。
「デ……最近、小皺が増えたデスゥ」
鏡をまじまじと見つめて嘆息する親実装。
親実装の平均睡眠時間は2時間にも満たない。
睡眠不足は美容の天敵だ。可愛い仔実装たちのために美しい母でなくてはならない。
「デス… さぁ、寝るデスゥ」
仕上げに親実装は寝入る蛆ちゃんを手に取り、手のひらにチューブのように糞を伸ばす。
両手で練り、顔の小皺近くに塗り、親実装は大きな息をついて横になった。
「さぁ… 明日も早いデスゥ」
親実装の子育てという戦場はまだまだ続くのだ。
 レフゥ〜?
おはり