『お墓』
その男は身寄りがなかった。 身寄りのないその男の葬儀は、町外れの寺で、簡易的に行われた。
親もいない。兄弟もいない。 そんな仏は、寺の無縁仏の墓に入れられる。
雑草が多く茂った古びた墓石。 その前に、今日も萎びれた花を摘み、1匹の実装石が訪れる。
「デ……」
墓石の前に、花を置き、その実装石はじぃ…と墓石を見上げる。
最初、寺の住職は近所の野良実装だと思い、追い払ったりもしたが 何度追い払っても、その実装石は、その無縁仏の墓前に現れた。
何度かその実装石が訪れるのに、住職はその実装石は身寄りのない男が飼っていた実装石であった事に気がつく。
「デスゥ〜…」
雨足の強い日。 頭巾と実装服がびっしょりと塗れながらも、実装石は卵の殻などの生ゴミを墓前に置き、 デ…と墓石を見上げるのみであった。
実装石は、霊長類に次いで賢い種である。 仔が死ねば悲しみ、親が死ねば嘆く。死しし者を弔うという概念も備わっている。
「デ……」
その実装石は、何日も何日も、その墓前へと通った。
住職も、そんな主人思いの実装石を見て、目頭を熱くする。 最近は世相も乱れている。親が子を殺し、子が親を殺す。
そんな乱れた世の中、こんな実装石もいる。 この世も、まだまだ捨てたものじゃない。そう住職は思った。
そんなある日。 今日も、朝早くから、その実装石が墓前に立っていた。
いつもなら、庭の縁側から見える墓地に佇む実装石を見るだけだった。 住職はそんな実装石と話がしてみたくなった。
靴を履き、墓苑へと降りる。 そして、にこやかな笑みを湛えて、実装石の傍らへと立った。
「デ…」
住職は見た。
寺に隣接する看護婦の女子寮。 そのベランダに揺れる黒やピンクの華やかなランジェリー。
「デッ!! デッ!! デッ!!」(シュッ… シュッ… シュッ…)
呆然とする住職の隣では、実装服のポケットに手を入れ、股間をこする実装石が 息を荒く、食い入らんばかりに、風に揺れるランジェリーを凝視していた。
おはり。