『ウンコ』
「ママッ!! ママッ!!」
俺の飼っている実装石の名はアリサ。 とても愛らしい彼女は、俺の自慢の飼い実装。
俺の事を「ママ」と呼び、事あるごとに、俺の周りをついて離れない。 そんな可愛いアリサだが、実装石特有の馬鹿さ加減についていけない事も多々ある。
「ママ〜〜ッ!! ママ〜〜ッ!!」
階下で2階の仕事部屋にいる俺に対して、大声でアリサが叫ぶ。
「ママ〜〜ッ!! ウンコ出たデスゥ!! ウンコ出たデスゥ!!」
何時からだっただろう。 アリサは排便の度に、俺に排便の報告を欠かさないようになっていた。
(ドタッ!! ドタッ!!)
成体実装石の体格を利用し、階段を駆け上る音がする。
「ママッ!! ママッ!! 出たデスッ!! 出たデスッ!!」
仕事部屋の扉の前で、ぺしんぺしんと叩く音がする。 仔実装や中実装の頃は、そんな報告が愛らしく、その都度、頭を撫でてやったりもした。 しかし、その慣例は成体実装石になっても続き、俺を悩ます一つの種となっている。
「デェッッ!! ママッ!! ママッ!!」
声がだんだん涙声になってくる。
「デスンッ!! 出たデスッ!! ウンコォ!! ウンコォ!! デェェェェンッ!!」
俺は頭を掻きながら、書きかけのレポートをそのままに、仕事場の扉を開ける。
「デェックッ!! デェックッ!! ……ママッ!!」
俺の顔を見て、ぱぁっと顔が明るくなるアリサ。
「ママッ!! ウンコ出たデスゥ!! 見に来て欲しいデスゥ!!」
「……アリサ、何度言ったらわかる。わざわざ報告してこなくてもいい」
「………デェ」
俺が冷たくあしらうと、アリサは肩を落とし、トボトボと階下に降りた。
少し、言い過ぎたか。アリサの背中を見つめながら、俺は再びレポートに戻る。
実装石というのは、排泄物には特別な意味があるという。 広くは食糞や、糞投。身近な庇護者には「パンコン」という行動で感情を表現し、 排泄でストレスを解消させることも、動物学的にわかって来ているらしい。
そして、仔実装は親に排泄後の喜びを伝え、親は仔実装の排泄物を見て、仔の健康状態を知ることも出来るらしい。
実装石同士が、排泄物を見せあうというのは、より親密なスキンシップであるという学説もあるとは聞くが 飼い実装のアリサに、そんな行動を取られるのも少し困るというものだ。
そんな事を考えながら、俺はレポートを切り上げて、大きく伸びをする。 あと一息だ。その前に、珈琲でも飲んでくるか。
俺は、珈琲を飲むために階下に降り、台所に向う途中、アリサの様子を伺った。
居間からビデオの音がする。 どうやら、大人しくテレビでも見てるようだ。
俺は台所で珈琲を飲み、トイレに行ってから、再び2階へ上がることにした。
トイレに入る。 ズボンを下ろし、洋式のトレイに座り、ぼんやりとカレンダーの絵柄などを見つめていると、 ドタドタという足音が聞こえてくる。
「ママッ!! ママッ!!」
声がする。アリサだ。
「ママッ!! ママッ!! ウンコ出たデスゥ!? ウンコ出たデスゥ!?」
トイレの前で、ぺしんぺしんと扉を叩く音がする。
「見せて欲しいデスッ!! ママのウンコッ!! 見せて欲しいデス〜〜ッ!!」
これが、もう一つの悩みの種。 先ほど説明したとおり、互いの排泄物を見せ合う、親密なスキンシップが実装石にはあるらしい。
1度、そのアリサの訴えを無視し、大を流してしまったら、アリサに大泣きをされてしまったことがある。
不本意だが、それ以来、出来るだけアリサの我侭を聞いてあげるようにしているのだが…。
「デェ!! (クンッ!! クンクンクンッ!!)」
俺が用を足した後、ズボンを履いて、トイレのドアを開けてやると、アリサが赤ら顔でトイレに雪崩れ込んでくる。
そして、洋式トイレに爪先立ちをして、必死に洋式トイレの中を覗こうと必死だった。
「デプッ!! 可愛いデスゥ〜♪ ママのウンコ。可愛いデスゥ〜♪」
俺は軽い立ちくらみを感じながら、アリサをそのままに2階の仕事場へと逃げるように閉じ篭った。
おはり。