『バス旅行』
町内の自治会の催しで、今年は飼い実装たちのバス旅行というのが企画された。
この町内には、愛護派たちが多く、日頃飼い実装たちの世話で大変手を焼いていると言う。
そんな愛護派たちも、1日ぐらいは飼い実装たちから離れ、のんびりしたい、という理由で、 このような企画が持ち上がった。
その当日―――
1台のバスがチャーターされ、公民館の前に飼い実装たちが飼い主たちに連れられ、 三々五々集まってくる。
「エリサベスちゃん。楽しんでくるザマスよ」
「デフー」
「じゃぁな、アリサ。オヤツを入れているから、計画的に食べろよ」
「デスゥ〜ン」
リュックサックを背負った飼い実装石たちが、バスへと乗り込んでいく。
「デプゥ〜ン♪ ング… ング… ゴクン」
乗り込んだ実装石の数匹が、さっそく弁当を広げ出し、自分の座席で食べ始めている。
「デプッ!! デプププッ!!」
窓際の飼い実装石は、手を降る飼い主に向い、窓から侮蔑の笑みを漏らし悦に入る。
総勢40匹。 中型のマイクロバスの座席は、すべてこの町内の飼い実装石たちで埋まった。
可愛い仔には旅をさせろ。 飼い実装石たちの社会勉強。たまには飼い主から離れ、自立を覚えなければならない。 裏の事情も先ほど説明したように、愛護派もたまには飼い実装石から解放されたい。
そんな建前と本音の理由から、このバス旅行には飼い主たちは同伴はしないのだ。
「ブッブ〜♪ ブッブ〜♪」
運転席では、ミニカーで遊んでいる成体実装石がいる。 彼女が今回の運転手である。運転以外の時も、車に親しもうとする態度には、プロとしての気概が滲み出していると言えよう。
「楽しんでくるザマスよ〜」 「頑張って来いよ〜 アリサ〜」
飼い主たちが手を振る中、マイクロバスが出発する。
「デ? デデ?」
運転実装石は、華麗なテクニックで、巧みにバスを操り始めた。 パッコンパッコンとワイパーが動き出しては、デデ?と首を傾げたりするのはご愛嬌だ。
「デスゥ〜ン♪ デスゥ〜ン♪」 「デプププ!! デププププ!!」
流れる窓の風景に嬌声をあげる者。小さくなる飼い主に笑みを浮かべる者、様々だ。
マイクロバスは、目的地である隣町のテーマパーク実装ランドとは、逆方向に向い出発した。
「ボエ〜♪ ボエ〜♪」
悦に入り、唄を歌い出す者。
「ング!! ング!! ムシャ!! ムシャ!!」
昨日、飼い主と一緒に300円以内で買ったオヤツを、包装紙のまま貪り食べる者。
「デゲェエエエエッ!! デゲェエエエエッ!!」
乗り物に弱い実装石は、座席前のビニール袋など使わず、床にそのまま胃の物をぶちまける。
「デスゥ〜? デデ?」
出発してから、数十分。運転手はひたすら?マークを連続させていた。 見慣れぬ風景。そう。運転手は実は、道に迷っていたのだ。
訳も分からずウインカーを出し、大通りに出る。
「デスゥゥ!! デスデェーーース!!」
華やかな大通りに興奮した実装石たちが、バスの中で騒ぎ始める。
「デスゥ?」
運転実装石は、?な顔でウインカーを出し、マイクロバスを巧みに駆って行く。 幾つかのカーブを曲がり、いつの間にか、マイクロバスは安定し出した。
「デデッ!? デスゥゥ〜ン♪ デスゥゥゥ〜ン♪」 「デッス〜ン♪ デッス〜ン♪」
バスの速度が徐々に加速される。加速するにつれて、ますます実装石たちはスピードに酔いしれ、囃し立てる。
「デッス〜♪ デッスデェ〜スッッ!!」
運転実装石も上機嫌だ。
飼い実装たちを乗せたマイクロバスは、いつの間にか高速道路に乗り、 次々と同一車線の車を追い越しながら、猛スピードで長野方面へと走り去った。
おはり。