『ビデオ』
「テチュ〜ン♪ チュワ〜ン♪」
仔実装が甘い声を上げながら、腰を振っている。 仔実装が見つめているのは、液晶プロジェクターで映されたスクリーンの映像だった。
うちは高層マンションで仔実装を飼っているため、外に自由に出すことができない。 いわば、箱飼いの仔実装である。
犬と違い、毎日散歩に連れ出す必要はないのだが、彼女らにも自然の渇望というのがあるらしい。
自然と触れ合う接点がないため、俺は公園で撮影した映像をプロジェクターに移して 仔実装に見せることにした。
「テチィ!? テチチッ!!」
公園の風に揺れる蒲公英や、緑に凪ぐ芝生。 青い空に囀る鳥の声。
仔実装は、プロジェクターに映される映像に魅入り、腰を降り始めた。
『デスゥ〜♪ デスゥ〜ン♪』
「テェ!? テチィ!! テチテチィッ!!」
カメラに映る近所の野良実装の姿。 初めて見る同属の姿に、いささか興奮気味のようだ。
数分見ると仔実装も慣れた様子で、テチィィィ〜〜!! と叫んで、狭いAVルームを左右に駆け始め、 まるで春のうららかな公園の午後を楽しむように、寛ぎ始めた。
うん。いい感じだ。こうやって仔実装は感受性を高めて行くんだな。
映像は、次いで散歩中の実装親子に向けられる。
『デ? デスゥ?』
カメラを始めて見るのか、カメラのレンズに顔を近づけ、度アップで鼻息荒く、首をかしげる親実装。
『テチィ? テチィ? テチィ?』
好奇心旺盛な仔実装たちは、カメラに群がるようにテチテチと煩い。
「テェェェェェッッ……!!!」
103インチのプロジェクターに魚眼レンズのように映し出される実装親子に恐怖する仔実装。
(じょぉぉぉぉ……)
お漏らしまでして、ガチガチと歯を鳴らしながら、恐怖のため視線をスクリーンから外すことができないらしい。
『デスゥ?(ぺしんぺしん)』 『テチィィ〜?』 『デデ? ゲプゥ』
「テェェッッッ!!!!!(パキン…)」
仔実装の偽石は、恐怖のあまり割れてしまった。 感受性の高すぎる仔は考え物だと、仔実装の冷たくなった死体を抱きながら、俺は天に向って吼えた。
おはり