『絵本』
仔実装の情操教育には、想像力を沸き立たせる絵本などを読ませるのがいいらしい。
「へぇ〜。最近は色々な絵本があるんだなぁ」
昔よくあった飛び出す仕掛け絵本や、こすると匂いの出る絵本など、色々だ。 よし。ここは仔実装のために、奮発してこれらの絵本を買ってやることにした。
「おーい。仔実装。お土産だぞぉ」
「テチィ?」
居間で積み木で遊んでいた仔実装が首を傾げて、俺が買って来た絵本をぺしんぺしんと叩いている。
「違う違う。こうだよ」
俺は仔実装を膝の上に置き、絵本を開いて、見せてあげた。
「テェェェェッ!! テェッ!! テェッ!!」
目の前に広がる絵本の美しい絵柄に目を潤ませ、仕切りに俺の顔を見上げて伺う。
「ははは。気に入ったかい」
実装用の絵本とは言え、文字が読める実装石はそういない。 だから、飼い主である俺が読んであげるしかない。
「おーシンデレラ。舞踏会には、この服でお行き…」
「テェェ……ッ!!!」
耳をピクピク、鼻をピスピス、体をウズウズさせながら、仔実装は目の前の絵本の世界に首ったけだ。
「…シンデレラは幸せになりました。めでたし、めでたし」
「テェッ!! テェェ…ッ!! テェェェェェェーーンッ!!!」
「うわっ。吃驚した。どうしたんだ、おまえ」
なんと感極まり、うちの仔実装は泣き始めてしまった。
「テェックッ!! テェックッ!! テェェェェェェーーンッ!!!」
なんて感受性の豊かな仔なんだろう。俺は金平糖を与えて、頭をなでながら、この絵本教育が功を奏していることに自信を持った。
すると泣き止んだ仔実装。仕切りに次の絵本を読んでくれと忙しない。
「よし。次は、これだ。感動物は泣かれて困るので… これだ。ジャックと豆の木」
「テェッ!! テェッ!!(ワクワク…)」
仔実装は俺の膝に乗り、すでにスタンバイ状態だ。
「ある所に、大きな樹の豆の樹がありました」
「チャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!???」
仕掛け絵本で、頁をめくると、飛び出す大きな樹に、絶叫と失禁で答える仔実装。
「うわっ! 汚ねっ!」
反省。新しい下着に替え、気を取り直し、次は少し大人しめの絵本にすることにした。
「ヘンゼルとグレーテル」これは、匂いの出る仕掛け絵本で、お菓子の家の匂いなどを再現しているらしい。
俺は仔実装を再び膝の上に乗せ、絵本を読んでやる。
「うわぁ。お菓子の家だぁぞぉ」
「テェ…!? (クンッ!! クンクンッ!!)」
さっそく匂いに反応したのか、絵本を指差しながら、チュワッ!! チュワワワッ!!と俺の顔を伺う。
「ははは。不思議だろう。ん?これはチョコレートの匂いか」
「テェッ? テェッ?」
絵のくせに匂いがするので、不思議顔を続ける仔実装。 手で器用に絵を掴むような仕草をして、何もない手を口に入れて、もぐもぐと口を動かす。
「ははは。絵だから食べれないぞっておい!」
「テェッ!! テェッ!! テチュゥ〜ン♪ チュフゥ〜ン♪」
なんと匂いが発する部分を、仔実装はベロベロと舐め始めた。
「おいっ。よせってば。おいって!」
結局、絵本は涎でぼろぼろ。仔実装は、反省したのかテー…と何とも萎れて可哀想である。
ここは、元気の出る絵本。そうだなぁ。冒険活劇物なんかがいい。 俺は次に取り出したのは、最近の実装文学で話題の『楽園崩壊』を取り出した。
気を取り直し、俺の膝の上で、ワクワクしながら絵本を待つ仔実装。 これで、少しは元気になってくれればな。
「楽園が崩壊するデスゥ!! 社長さんにはサハクがついているデスゥ!!」 「社長さんを守るデスゥ!! タロウ、ジロウ!! 300の実装石を連れて、国会議事堂を攻めるデスゥ!!」
何だか熱い絵本だなぁ。読んでる俺も手に汗を握る内容だ。 仔実装も固唾を呑んで、絵本の進展を見守っている。
「全国の実装石に指令デスゥ!! ひとまるまるまる時に、社長さん救出のために集まるデスゥ!!」
「集合デスゥ!! 決起デスゥ!!」
「ジャァアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
うわ。吃驚したぁ!! 今まで大人しく絵本に酔いしれていた仔実装が、いきなり立ち上がり叫んだかと思うと、 居間の窓に駆け寄り、ぺしんぺしんと叩き始めるではないか。
「え? え? どうした? 外に出たいのか?」
「チュワアアアアッッ!! デヂヂーッッ!! チュワアアアアッッ!!」
俺は仔実装の鬼気迫る雰囲気に圧倒され、思わず窓を開けてしまう。
「テェッ!! チュワアアアアッッ!!! テチチィィィィィーーーッッ!!!」
そして、外に向い駆けて行く仔実装。 俺は呆気に取られ、仔実装の背が見えなくなるまで、その背中を追っていた。
おはり。