『実装の星』
俺はチャキチャキの江戸ッ子。
野球は巨人。サッカーはベルディ。熱い湯しか絶対に入らない。
俺の飼っている実装も、主人に似てか、大の巨人ファンだ。
「ご主人さまー!今年も開幕戦行くデスー!」
「ジャイアンツ愛テチー!」
「今年はミセリが大魔神テチー!」
実装の仔たちも大の巨人ファンだ。
冬のストーブリーグは、ジャビット君のぬいぐるみを抱いて
宮崎までキャンプ周りに行ったものだ。
こいつらは緑の実装服でなく、巨人のユニフォームだ。
2匹の仔実装の背番号は、阿部と高橋。
親実装は、松井の背番号55。
俺は、今は亡き川相の背番号を背に、4・2東京ドームへ向った。
俺と実装は毎年開幕戦に観戦するのが、恒例行事になっている。
「今日は先発は上原テチー」
「お、そうだな。阪神打線なんて完封ものだぜ」
「はやく♪ はやく♪ 開幕しないテチー♪」
バックネット裏のボックス席の周りは、既にお菓子やジュースの喰いカスで
散らばっている。
時計は5時45分。
マウンドではセレモニーの始球式で、ハリウッド男優ポール牧が
始球式を行っている。
「ポポポポッ!!! ポールデスゥ!! ポールデスゥ!!」
ポール牧の大ファンの親実装石。
口に入れたチョコレートを吐き出しながら叫ぶ。
「ここデスゥ!!! ポール様ァァァァ!!!」
俺は親実装を微笑ましく見守る。さぁ、プレーボールだ。
1番 センター 赤星・・・
「チププププ。足の速いだけの木偶テチ」
俺の隣で罵倒の限りを発する仔実装たち。
親実装はそれを止めることもせず、一緒に煽りまくっている。
手には糞を掴んで投げようとしていたので、俺が辛うじて止める。
 上原、第1球… 投げたッ! 赤星ッ! セフティーバントだぁ!
「デプププ。ランナーいないのに送りバントとは間抜けデスゥ」
 おっと、サードのモッカダッシュが遅れたぁ! 一塁セーフッ!
沸く阪神応援団。親実装と仔実装は何が起こったがわからず呆然としている。
「ご、ご主人様! 何が起こったデスゥ! なんで赤い奴が一塁にいるデスゥ!?」
「ああ。セフティバントだよ。今年の赤星は要チェックだな。さすが5年連続盗塁王だ」
「き、汚いテチィ!! 汚いテチィ!!」
「お、落ち着くデスゥ。上原様の速球にきっと恐れをなしたデスゥ」
「テェ… そうテチ! 王子様の速球に恐れをなしたテチ!」
親実装に宥められる仔実装。微笑ましい光景だ。
 2番… セカンド 藤本…
「上原様ー! ぶつけるデスゥ!! 顔面骨折デスゥー!!」
「やるテチー!! ゲッツーテチー!! ゲッツーテチー!!」
 初球… 一塁ランナー赤星、走った… 阿部ッ送球できないッ!!
「テギャァァァァァ!!!!」
「何してるデスッ!! デギャァ!! デギャァ!! 阿部おまえファースト守ってろデスゥ!!」
エキサイトしている実装親子。
嗚呼。楽しそうだ。連れて来て本当によかった。
 藤本 打った!! ライト線 ギリギリ入ったァ!!
「デギャァァァ!!! 赤いの!! こけるデスゥ!! こけろデスゥ!!」
 赤星、先制のホームイン! タイガース、初回に1点の先取点です!
「テェェェェェェン!! テェェェェェェン!!」
ブリブリとパンツをコンモリさせる仔実装たち。
ほんわりと糞の匂いが周囲の席にも漂う。
明らかに怪訝な顔をして、俺達を睨みつけている。
続いて、金本、檜山、バースの連打で上原を0回0/0でノックダウンした。
「デギャァァ!! ありえないデスゥ!! いかさまデスゥ!!デズゥゥゥゥ!!!」
「テッスン… テッスン… 夢テチ!! 全部夢テチィ!!」
「やりなおすデスゥ!! やりなおすデスゥ!! デェェェェェン!!」
その後、阪神打線は初回に爆発し、1回に11点の猛攻をしかけた。
ああ。最高だ。連れて来てよかった。
実は、これ虐待の一種。巨人ファンの実装は大変だよね。まったく。
おはり。