『捨てられた実装石』
「デェエエエエン!! デェエエエエン!!」
ピンクのポーチを肩から下げ、天を仰ぎ、泣き歩く実装石がいる。
「デェック!! デェック!! デェエエエエエンッ!!」
ポーチ。小奇麗な実装服。頭巾。実装靴。 どれをとっても、その実装石は、飼い実装石だと分かる。
右の胸元には、その実装石の名前だろうか。名札に「ヒカル」と書いてある。
ヒカルは捨てられた飼い実装石。 つい10時間前は、ご主人様の布団でぐっすり眠っているはずだったのだ。
ヒカルのご主人様は、引越しの都合で、ヒカルを捨てねばならず、涙を飲みながら、 眠ったままのヒカルをそっとダンボールへ入れ、わざわざ隣町の公園まで行き、その段ボールを捨ててきたのだ。
「デェエエエン!! デジャァアアアズッ!! ジャァアアアアッッ!!」
目覚めたヒカルがご主人様に捨てられたと気付くには、数時間の時間を要した。
見知らぬ風景。暖かいはずの布団が、隙間風吹く寒いダンボールに変わっている。
ダンボールから這い出て、見知らぬ公園をぐるりぐるりと彷徨う。
居ない。ご主人様がどこにも居ない。
「ジャックッ!! ジャックッ!! マアアア〜〜!! マアアア〜〜!!」
ヒカルはその場に座り込み、じょおおおお〜とお漏らしをする。
いつもなら、お漏らしした下着をご主人様が優しく変えてくれたはずだ。
「デェエエエエ〜〜!! デェエエエエ〜〜!!」
大声でご主人様を呼び、下着を変えて欲しいと訴えるヒカル。
その場で仰向けになり、足を大の字に広げ、塗れた下着を空向けて前回にする。
「デェエエ〜〜!! デェエエ〜〜!! デェエエエ〜〜!!」
口を◇の形にして、遠くへ響かすために、低い地声で泣き続ける。 しかし、一向にご主人様は現れない。ご主人様は既に遠い街へ旅立っているのだ。
「デェ〜ッ!! デェ〜ッ!!」
ご主人様が現れないと悟ると、ヒカルは塗れた下着を脱ぎ捨て、またデスンデスンと泣きじゃくり ながら、公園の中を大声で泣き叫び徘徊する。
「デェエエエ〜〜ッ!! デェエエエエ〜〜ッ!!」
自慢のポーチを落としたのも気付かず、ヒカルはご主人様の姿を探し続ける。
ヒカルも馬鹿ではなかった。 見知らぬ風景。ここはご主人様の住んでいる街ではない。 ご主人様の住んでいる街じゃないと、ご主人様に会えるはずはないではないか。
ヒカルはデスンデスンと涙を拭い、そう考えると、少し勇気が湧いてきた。
公園の出口に出る。 鼻をクンカクンカと風の中に漂わせる。
こっちだ。ご主人様の街の匂い。
「デェック… デェック…」
ヒカルは、泣きじゃくりながら、ご主人様の住んでいた街の反対方向へ歩き始めた。
おはり。