『妊娠』
東急ハンズに実装石コーナーというのがある。 実用的なモノからパーティグッズ的なモノまで実装石コーナーには色々なモノが置いてある。
俺は飼い実装を飼っているため、ここで買った面白グッズで実装石と遊ぶのが大好きだった。
今日、俺が買って来た物。『偽造妊娠グッズ』というアイテムだ。
俺は意気揚々と包装紙を破り、中の取説を読む。 取説と一緒に入っているのは、緑のカラーコンタクトと腰巻きのような帯だ。
え〜と、何々。眠っている実装石の右目にカラーコンタクトを入れます。 次いで、腰にこの擬似妊娠ベルトを巻いて、上から実装服で見えないようにしてください。
なるほど。俺はペットのアリサを使い、この偽造妊娠グッズで、どっきりをしてやることにした。
「デプ〜… デピ〜…」
よしよし。アリサは恒例の昼寝の最中だ。 俺は素早くアリサのスカートをめくり、擬似妊娠ベルトを巻く。 スカートを降ろしてしまうと、まるで本当に妊娠しているように、お腹がぽっこりと膨れている。
そして、器用に右目の瞳をこじ開け、カラーコンタクトを挿入。 これで、準備は万全だ。
「デ…? デムニャ… デムニャ…」
30分後。アリサが昼寝から起床する。 大きく伸びをし、デスゥ〜♪ デスゥ〜♪と俺を見つけて、駆けようとする。
「デデッ!! デスゥ〜?」
大きくよろけて倒れそうになるアリサ。
「デ? デ?」
しきりにお腹の周りを気にして、不思議顔で、何か釈然としないご様子だ。 そんなアリサに俺はしたり顔で、わざとらしく鏡を持ち出し声をかける。
「アリサ! おまえ、妊娠してるんじゃないかっ!」
「デスゥ?」
何を言ってるの?そんな表情で俺を見返すアリサに、俺は鏡を見せてやる。
「デ…」
鏡に映ったアリサは、カラーコンタクトのお陰が、両目がものの見事に緑色になっていた。
「……デデッ!!」
ようやく事の真意に気付いたアリサが、鏡を両手で抱えて、大声で叫んでいた。
「よかったなぁ、アリサ。おまえ、子供が欲しかったのに、子供ができない体質だったもんな」
「デデデデッ!! デッスゥ〜ン♪ デッスゥ〜ン♪」
そうなのだ。アリサは元来、仔が出来にくい体質らしく、この悪戯もちょっとしたサプライズパーティ。 最近、仔も諦め、ふさぎがちだったアリサも、いきなりの神様のプレゼントに驚き、踊るように喜んでくれている。
「デッスゥ〜ン♪ デッスゥ…… デェ… デェェェッッ!! デェェエエエエエン!!」
次は感動のあまり泣き出してしまう始末。
「さ、アリサ。泣くと母体に影響する。泣き止みなさい」
「デェック!! デェック!! デスン… デスン…」
涙を拭いながら、桜色に紅潮させた頬で、愛しくお腹を撫で続けるアリサ。
「いいよ。アリサ。遠慮することはない」
「デ……」
「歌いなさい」
「デッスゥ〜ン♪ デッデロゲェ〜♪ デッデロゲェ〜ゥ♪」
その日、アリサの胎教の歌は、夜遅くまで歌われていた。
次の日からアリサは変わった。
「お。アリサ。何やってんだ」
「デッ! デッ! フッ〜 デッ! デッ! フッ〜 」
何処で仕入れてきたのか、仕切りにラマーズ法の呼吸方法を勉強し始めた。
「ングッ!! ングッ!! (ゴックン)デプゥ〜」
「よく喰うな、アリサ。おまえ」
食事の量は2匹分。そして何故か、レモンとか酸っぱいモノを要求してくる。
そして、仔実装の人形を与えると、真剣にオムツの交換練習を始めたりする。 夜鳴きの時の対策だろうか。夜中にいきなりゴソリと起き出し、実装人形を背に 月夜に向かって、ボエ〜♪ ボエ〜ゥ♪と澄んだ声で子守唄なども歌ったりする。
そんなある日、俺はビデオカメラ片手に、「どっきり」と書いたプレートに 律儀にも赤へルを被った姿で、アリサが昼寝をしている合間に、カラーコンタクトと腰ベルトを取り外した。
目覚めるアリサ。
「デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪」
起きると同時に、お腹に手を当てて、胎教の唄を歌い始める。
「デッデロゲ〜♪ デッデ…? デ… デスゥ〜?」
お腹周りを擦る手が、どうも頼りない。デッ? デッ?と、軽くぽふんぽふんとお腹周りを叩くアリサ。
「デスゥ〜?」
起き上がり、近くに立てかけていた鏡を覗き、「デ……」としばしアリサは絶句する。
そして、
「デギャァァアアアアア!! デギャァアアアアア!!」
デェック!! デェック!!と泣き腫らしながら、実装服を脱ぎ出し、下着を脱ぎ、 萎んでしまったお腹を、全身が映る鏡を再び見ては、デギャァアアアアと大絶叫を繰り返す。
隣の部屋で隠れながらビデオカメラを回す俺は、ガッツポーズをしながら、アリサのナイスリアクションに惚れ入っていた。
そして、アリサはデスン… デスン…と涙を拭いながら、全裸の姿で、棚の上の花瓶を倒し、 挿してあった造花の花を取り出し、総排泄口に入れて、またデェック!! デェック!!と泣き始めた。
そんなところへ俺、乱入。 手にもったプレートと、カラーコンタクトと腰ベルト。 そんなアイテムを見て、事の次第を全てを悟ったアリサ。
「デ………」
アリサは、喰い入るように回るカメラを睨みながら落ちをつけた。
「デ……デッフンダー」
おはり。