サクラの実装石

 

 

 

 『サクラの実装石』3

 

その日から2週間ほど、男とサクラの別居生活が続いた。
 ・朝は、男が起きる前に目を覚ます。
 ・サクラは自ら実装フードを取り出し、男が朝食を始めるまで、ちょこんと座ってそれを待つ。
 ・食べ終わった後は、食器は浴室で簡単に水洗いし、片付ける。
 ・昼間でに、昨日の分の服と下着の洗濯をする。
 ・トイレは、用を足した後、自らの手で便をコンビニ袋にわける。
 ・昼時には、また昼食の準備を自ら行い、食べ始める。
 ・食べ終わった後は、食器は浴室で簡単に水洗いし、片付ける。
 ・昼以降は、一人で玩具で遊ぶ。遊びの時間が終えると、玩具を片付け始める。
 ・夕飯時には、また自ら食事の準備をして、男を待つ。
 ・食べ終わった後は、食器は浴室で簡単に水洗いし、片付ける。
 ・入浴は、男が入った後、一人で入る。
 ・髪を自らの手で洗う。櫛で髪を梳くのも、乾かすのも自分で行う。
 ・就寝は、居間で毛布に包まり、一人で寝る。
サクラは自立することを覚えた。
無論、男と会話を交わすときは、甘える。
しかし、今までのような妄信的な甘えではない。
適度をわきまえた甘え。
その中には、飼い主に対する「尊敬」という感覚も理解し始めて来ている。
男とサクラは色々な試練を乗り越えて行った。
サクラが男の庭に現れてから2ヶ月。サクラは立派な成体の姿となっていた。
「デスー」
声も立派な成体の低い声に変わり、大きさも当初ここにきた15cmぐらいの身長から
50cmぐらいまで成長していた。
『ママ。今日の帰りは何時くらいデスか』
「ああ。仕事の打合せだから、4時ぐらいには帰るよ。それまで留守番頼むよ」
『わかったデス。いってらっしゃいデス』
2ヶ月。長いようで短い時間だった。男にとっては、大変な道のりだったが、
充実に満ちた2ヶ月だった。
成体に成長したサクラは、男の手を煩わすこともなく、自らのことを自らの手で行う。
男にとっては、ペットというよりも、パートナーのような存在である。
そんなある日、珍しくサクラが男にお願いをしてきたのである。
『ママ。お願いがあるのデス』
「お願いって?」
『私も・・そのぉ・・・ママになりたいんデスゥ』
「え?ママって」
『子供を作りたいんデスゥ』
「・・・・」
『私はママに愛を受けて育てて貰ったデス。
 私もママになって、同じ愛を子供たちに与えて行きたいのデス』
生物学上、子孫を残したいという欲求は、本能的なものだ。
サクラが子供を欲するという弁はわかる。
しかし、サクラはつい1ヶ月前は、まだまだ子供だったはずだ。
しかし、野生の実装石の例で見れば、サクラは子を儲ける適正年齢であった。
男は、サクラのかわいい子供時代を思い出すと、サクラの子供たちの姿を想像しては、
頬が緩んだりした。
そうだ。男は、「実装石の飼い方」を取り出し、頁をめくった。
第4章.実装石の殖やし方
 ▼実装石の繁殖
  実装石は適齢期を迎えると発情期に入ります。
  実装石の発情期は季節的な物は存在せず、1年中発情している事が多いようです。
  ですが野生の実装石は、冬を乗り越えるために、春先に交尾を行うことが多いようです。
  妊娠の仕方として、大きく3種類の方法があります。
  @マラ実装石との交尾
   野生の実装石で群れで行動しているコミュニティでは、一番多く見られるのは
   このパターンです。これは、比較的冬が厳しくない地方で見られる現象です。
   マラ実装は、ほぼ1年中発情しているため、群れの雌実装石に対して、
   所かまわずSEXを行います。
   しかし、この交尾は激しさを増すため、雌の成体は命を落とす事も多々あります。
   よって飼い実装石に対して、このパターンの繁殖はお奨めできません。
  A花粉による受粉
   冬が厳しい地方で、単独で行動をする山実装石に多く見られる繁殖方法です。
   実装石の総排泄口は、下着によって守られているため、通常受粉することは
   ありませんが、排泄などで下着を下ろすタイミングで、ほぼ100%の実装石は
   受粉を行い、妊娠をします。
   花粉が多く飛び交う春先に、妊娠をする事が多いため、自然と冬篭りは、親と子
   のペアとなることが多いようです。
   この方法は、飼い実装石にとって、一番自然な繁殖の方法です。
   受粉する種の植物は選びませんが、スギ、ヒノキ、サクラなどの花粉が一般的です。
  B強制妊娠
   実装石の分娩のシグナルは、オッドアイである両目が赤色になる状況で分かります。
   その性質を利用し、実装石の右目に赤色の物質を混入させることにより、成体の
   実装石に対して、強制的に出産をさせることが可能です。
   ですが、この方法は母体に悪影響を与えること、出産後の仔実装が蛆や親指を
   中心とした未熟児が多いこと、などがあるため、飼い実装にはお奨めできません。
『子供が欲しいのデス』
そう言うサクラは、「デー」と呟きながら、玩具の車で遊んでいる。
男は、「実装石の飼い方」の本を閉じ、居間から庭を見た。
季節は春。サクラの樹が丁度満開を迎えていた。
男はサクラを呼び、サクラを抱き上げ、庭に出る。
「この樹はサクラって言うんだよ」
「デ?」
「サクラと同じ名前の樹なんだよ」
「デス!デスデスデスゥ!!」
サクラは両手をバタつかせながら、喜んでいるようだ。
届きもしない手をサクラの花びらの方へ向けては、宙を掻いていた。
「サクラ。このサクラの樹で子供を作ろうか」
そう言って、サクラを地面に下ろし、一本適当な枝を折ってはサクラに渡した。
「受粉しなさい」
「デ?」
受粉の意味を理解したサクラは、感動のため体を震わして、涙を滲ませた。
「デッス〜ン♪」
実装リンガルはその場にはなかったが、サクラが叫ぶ内容は男にはわかった。
「デスデスデスゥー!」
ママ!私はママに負けない素晴らしいママになるデス!
そう叫んでいるに違いなかった。
サクラはその晩、妊娠し、両目が緑色に変わった。
1週間後、サクラは風呂場の洗面器の中で出産を行った。
手伝おうか、との男の言葉を制し、一人で出産を行った。
まず1匹目が総排泄口が蛆状態で、洗面器の中に落ちる。
「レフー!」
この世に生を受けた喜びを産声としてあげる蛆状態の仔実装。
サクラは、蛆状態の粘液をやさしく舐め取ってあげる。
それは、男から教えられた行為でもなく、実装石が持つ本能故の行為である。
粘膜が取れた仔実装は、初めてみる親の姿に、早くも「テチュー!テチュー!」と甘えてくる。
『おとなしくするデス。残りの妹が生まれるデス』
サクラは、甘える仔実装を制して、4匹の仔実装を生んだ。
そう。サクラはママになったのである。
男は、4匹の仔実装に名前を与えることにした。
サクラに決めさようと提案したが、サクラは頭を悩ますばかりで決まらない。
『ママに決めてほしいデス』
サクラがそう言うので、仕方がなく、男がその4匹に名前を与えた。
 長女:スモモ
 次女:イチゴ
 三女:メロン
 四女:バナナ
「デスゥー!デスゥー!」
サクラは、男が命名した子供たちの名前に、歓喜の声をあげる。
『おまえは、今日から「スモモ」デス。スモモ、よろしくデス』
「テチー?」
『おまえの名前は「イチゴ」デス。イチゴ、立派な大人になるデスよ』
「チチチー!」
『メロン。ママのママに迷惑をかけないようにするデスよ』
「テチィ♪」
『おまえは「バナナ」デス。元気な子に育つデスよ』
「テチュテチュ」
その光景を見つめながら、男は2ヶ月前にサクラに実施してきた躾を
この子達にも施す必要があると思っていた。
前は始めての躾だったが、今回は2度目だ。
次はもっと効率的に出来るだろう。
その事をサクラに告げると、サクラは男に言った。
『ママ、大丈夫デス。この子達の躾は、私がしっかりとするデス』
「え・・・大丈夫なのか」
『大丈夫デス。この子達は、私が責任を持って育てるデス!』
そしてサクラは、躾の厳しいママになった。
まずは、排便の躾。子供たちは、便意を感じると、所構わず排便を行う。
それを見つける度にサクラは、針を取り出し、子供達手足を突き刺した。
「テチァァァァァ!!」
『泣いたって許さないデス!今度、洗面所以外でウンコしたら、こうデス!』
「デチャアアア!!!」
サクラは躾に対しては、容赦はなかった。
その姿を見ては、残りの3匹も震え上がっている。
『スモモもイチゴもバナナも、わかったデスね!』
「「「テチテチテチテチテチテチテチテチ…」」」
子供たちの食事の準備はサクラが行うようになった。
朝、誰よりも一番早く起きる。
毛布の中の子供達を起こさないように、そぉっと洗面所へ向かう。
顔を洗い、子供達の食事の準備を始める。
昨晩、つけておいた食器を、タオルで器用にふき取り、お膳を並べ、
子供達の手の届かない棚の上から、実装フードの入った缶を取り出す。
均等に実装フードを分けて、それから子供達を起こしにかかる。
子供達を起こすのは、一苦労だ。
『テチュー まだ眠いテチュー』
『ママァ… 抱っこして欲しいテチュ』
『起きるデス!起きないとお仕置きデスよ』
サクラは、ポケットから針を取り出し、子供達の臀部へ容赦なく突き刺す。
「テェ!?」「テァ!!」「デチャア!」「テチャアアア!?」
メロンが余りの痛みに泣き出した。
「テェェン!テェエエン!」
サクラは容赦なく、右手でメロンを思いっきりぶん殴る。
実装石の力とは言え、成体の力だ。
殴られると、仔実装も体1つ分ぐらいは、容赦なく吹き飛ぶ。
メロンは口から血を流しながら、もっと大声で叫ぶ。
『黙るデス!ママが目を覚ましてしまうデスゥ!』
サクラはメロンの髪の毛を掴み上げ、そして持ち上げ、顔を近づける。
『黙れデス』
「テェェ……」
メロンは糞を漏らしていた。
『ウンコは洗面所以外のところでしろと言ったはずデス』
ガチガチガチガチと歯を鳴らし涙を流しながら、必死に悲鳴を止めるメロン。
『今日の朝食は抜きデス。早く洗面所に行ってパンツを脱いでくるデス』
「テッスン…テッスン…」
洗面所に向かうメロン。
『床にウンコを落とさないように歩くデスッ!』
厳しいサクラの怒号が飛んだ。
サクラの仕事は、たくさんある。
子供達が食事を終えるとその食器の後片付け。
そして、服や下着の洗濯。
まだ排便の処理がうまくいかない子供達の後始末。
粗相をした子の躾。
昼食後、ようやく手が開いた時に、子供達を膝に乗せ、玩具で遊んであげる。
遊び疲れた子供達に「デエ〜♪デエ〜♪」と子守唄を聞かせる。
そして、子供達が寝付いた後に、ようやくサクラはママに甘えるのだ。
甘えると言っても、べったりと擦り寄る甘えではない。
『メロンは、まだまだ行儀が悪い子デス』
「おまえの時もそうだったぞ」
『そんなことないデス。ママったら意地悪デスッ!』
頬を赤らめ男と談笑するサクラ。
そう。成体になっての甘え方も存在するのだ。
サクラは、男から色々とアドバイスを貰った。
躾をする時はタイミングが大事。
同じ事を繰り返す子には、もう少し痛い躾をする必要がある。
髪や服には手は出さないこと。
すべて「実装石の飼い方」に書かれていた事だが、
サクラにとってはとても勉強になることばかりであった。
サクラは、男のアドバイスを受けて、長女のスモモを重点的に躾けることにした。
人間社会では、姉妹の中で年長の者が年下の者の世話をする事が多い。
実装石にそういった習慣があるかどうかは、男は知らないが、サクラの仕事を
軽減させるには、そういった教育を小さい頃から行う必要があったと思っての
アドバイスだった。
『デス。スモモ。おまえはお姉ちゃんデス。
 お姉ちゃんは、他の子の面倒を見ないといけないデス』
『ハイテチ!』
スモモは聞き分けの良い子であった。
糞蟲であるサクラにしては、賢い子であったと言えよう。
『バナナ! ご飯を食い荒らしてはいけないテチ!』
食事中にも、サクラが躾ようとすると、先にスモモが注意をする事もある。
『ママ! 余所見をしてご飯を食べちゃいけないテチ!』
『あ、ごめんなさいデス』
逆に注意されることもあった。
「ははは。お母さんも形無しだなぁ」
「デスッデスッ」
サクラは顔を赤らめて頭を掻く。そんな子供達の成長が嬉しい。
子供を生んでよかった。もっと、子供達を愛そう。そして楽しい思い出を一杯作るのだ。
そう思うサクラであった。
男はサクラが子供達の世話で忙しく働いている時、子供達の相手をしてやる事が多かった。
車の玩具。
サクラが子供の頃好んだその玩具は、今、メロンとバナナのお気に入りだ。
スモモとイチゴは、スケッチブックにクレオンで絵を描いている。
男が仔実装にでも持ちやすいように削って作ってあげた特性のクレオンだ。
「テチューテチュー♪」
スケッチブックにミミズのような絵を描いていくイチゴ。
それに意見を言うようにテチテチ話しかけているのがスモモだ。
バナナは車の玩具に跨り、メロンがそれを押している。
しかし、仔実装の力では、そう動くものでもなく、男がそれを押してやる。
「テ…テチァ!!テチァ!!テチァーーーーッ!!」
バナナは嬉しそうに叫びながら、男の顔を見ては、車に夢中になる。
サクラもこんな感じだったよな。わずか数ヶ月前の記憶だ。
今では、サクラの子達が、同じようにして遊んでいる。
『バナナッ! 次はワタチテチ! 次はワタチテチ!』
「ははは、順番だよ、メロン。お姉ちゃんに譲ってあげなさい」
「テチー」
そんな団欒の場にサクラが洗濯物を終えてやってきた。
『みんな、楽しくやっているデスか?』
メロンが車に跨り、ニコニコした顔で男に言った。
『ニンゲンッ! 早く押すテチ! バナナよりも速く押すテチ!』
男の顔色が変わると同時に、サクラが駆けていた。
サクラは、メロンに掴みかかり、頬を殴りつけた。
『なんでそういう事を言うデスか!
 何度も何度も教えたデスッ!私のママの事は『ご主人様』と呼ぶデスッ!』
「デェ…… デェエエエエエーーーン!デェエエエエエーーーン!」
泣き喚くメロン。泣き喚くメロンに容赦なく殴りつけるサクラ。
他の子供達は、体を震わせながら、その場でパンコン状態になっている。
「デスッ!デスッ!デスッ!」(ぺしん、ぺしん、ぺしん)
「ヂュアア! ヂュアア! ヂュアア! 」
メロンも糞を漏らして、下着をこんもりさせながら、サクラの折檻に恐怖している。
『デフー…デフー… 今日という今日は許さないデス・・』
サクラは、メロンの右手を取り、捻りを加える。
メロンの右手が、本来向く事のない方向へ曲げられた時、コツンと小さな音がした。
その音と共にメロンの大絶叫が、居間に響き渡った。
「デヂュアアアアアア!!!!」
『次、私のママにニンゲンなんて言葉を吐いてみるがいいデス。
 今度は、左手を折るデス。その次は足デス。いいデスね、メロン』
『ごめんなさいテチ! ごめんなさいテチ! もう二度と言わないテチ!』
男は敢えて口を挟まなかった。
これはサクラの教育方針だ。つまり、自分が今までサクラに躾けてきた方針そのものだ。
あの時も、男は心で泣きながら、涙を浮かべて、サクラに躾をしてきたのだ。
今のサクラも、両目から涙が流れている。
自分の子供だ。
辛いに決まっている。
サクラは立派な母親になった。
男は、自分の躾が間違っていなかったことを誇りに思っていた。
仔実装達が生まれてから2週間経過した頃だった。
子供達は、躾のおかげで大部分の事が出来るようになってきた。ある1匹を除いては。
メロンだけが、どうも排便行為を至る所でするのだ。
便通が来ると、すべての思考が便意に集中してしまうのだ。
至る所で排便をするメロンに対して、サクラは自分の母としての力の無さを痛感していた。
また焦っていた。
このままでは、ママの手を煩わせてしまうことになるデス。それだけは嫌デス。
私は立派なママになるのデス!
そして、事件は起きた。
『ウンコ出るテチュ』
その日、いつもの通り便意を訴え、もじもじし始めたメロンにサクラは気付く。
『メロン。トイレへ行くデス』
必死にトイレに行くことを促すサクラ。
『ウンコー! ウンコー! トイレー! トイレー!』
しかしメロンは両手でお尻を押さえ、同じところをくるくると回るのみ。
『メロン!トイレはそっちじゃないデス!』
『ウンコーッ! ウンコーッ! ウンコーッ!…トイレ? ココデチュ』
『違うデスッ!そこは台所デスゥ!』
『(ブリリリッ…) ママ ウンコ出たデチ ママ! ウンコッ! ウンコッ!』
排便をした喜びなのか、自分が出した糞を母に自慢するメロン。
『そこはトレイじゃないデスゥ!』
サクラは、メロンの胸倉を掴み、デスデスと洗面所に備え付けているトイレへ向かう。
今日と言う今日は許さないつもりだった。徹底的に躾けるつもりだった。
『ここがトイレデスッ!ここでウンコをするデスッ!』
そう叫び、メロンの顔をトイレの砂の中に押し付ける。
「ヂュアア!」
『わかったデスか!』
『テチュ… ココ トイレ』
『ここでトイレをしないと、こうデス!』
サクラは、縫い針を持ち出しては、メロンの臀部に突き刺しては抜き、突き刺しては抜く。
「デチャアアア!!!」
『ウンコを違うところですると痛いんデスゥ!悲しいんデスゥ!痛いんデスゥ!』
「テチァァァァァ!! テチァァァァァ!!」
『まだわかってないデス!浴室へ入るデスゥ!』
サクラは洗面所に面している浴室へメロンを放り投げる。
サクラは背伸びをしては、シャワーを掴み、器用に蛇口を捻った。
温度設定を50℃にする。そして容赦なく、その熱湯を服を着たままのメロンに向けた。
「デヂュアアアアアア!!!!」
『熱いデスか!ウンコをトイレ以外のところでしたら、熱い目に会うデス!』
「デチャアアア!!!」
メロンは転げ周り、シャワーのお湯を避けようとする。
しかし、シャワーのお湯を避けても、メロンの服は熱湯を吸い、熱は容赦なく
メロンを襲う。
『トイレエエエ!!! ココォォォーーー!!! トイレエエエ!!! ココォォォーーー!!!』
『わかってないデス!』
そう言って、サクラはシャワーをメロンに向かって、容赦なく浴びせまくる。
『デヂュアアアアアア!!!! ウンコォォォォ!!! トイレエエエ!!! ココォォォーーー!!! ウンコォォォォ!!! トイレエエエ!!! ココォォォーーー!!!』
『デエ・・デエ・・・わかったデスか・・ウンコはトイレでするデス。
 それが、この家のルールです』
「テェェ……」
メロンは真っ赤に茹でられた蛸のように、ピンク色の顔をしたまま舌を出して白目を向いていた。
サクラがメロンの服を脱がし、居間のソファーの上に寝かした後、サクラは時計を見て
食事の準備へ向かった。
食事の準備をしていると、男がサクラに向かって真剣な顔をしてやってくる。
「サクラ。メロンの・・・メロンの様子がおかしいんだ」
「デェ?」
サクラが居間にやってくると、「テェエ……テェェ……」とメロンがうなされている。
メロンの周りには、スモモ達が心配そうに覗き込んでいる。
「すごい熱なんだ。サクラ。おまえ、メロンに何かしたか?」
「デェ?」
一瞬ドキっとするサクラ。そして、その後両目から大粒の涙を流して、
「デデェェェェェ!」
と泣き始めた。
『メロン!しっかりするデス!ごめんなさいデス!ママが、ママが悪かったデスゥ!』
サクラは泣きながら、先ほどメロンに施した躾の内容を話した。
どうしてもメロンにトイレを覚えて貰いたかった事。
立派な飼い実装として、家族元気でなかよく暮らしたかった事。
メロンは人一倍物覚えが悪かったけど、サクラにとって、一番かわいい子供だった事。
「デッスン・・・デッスン」
涙を流してしゃくり泣くサクラ。それに釣られて仔実装達も泣き始める。
「テェエエエエエン!テェエエエエエン!」
「おいおい。まだメロンは死んだわけじゃ・・」
しかし、メロンの息は荒かった。額からは大量の汗。目はしっかりと見開かれており、
両目からは血の涙が止め処もなく流れている。
実装石の病気などに精通していない男でも、この状況は危ないと思った。
サクラは、手がふやけるまで、タオルを絞り、メロンの額に載せては、それを繰り返す。
食事も取らず、睡眠も取らず、食事も取らず、睡眠を取らず。
「サクラ。少し寝ろよ。俺が変わるよ」
男はそう言って、サクラを少し休ませた。
『わかったデス。ママ。何かあったら直に起こして欲しいデス』
そう言って、サクラは眠った。緊張の糸が切れたのか、サクラはすぐ寝息を立てて眠ってしまった。
男は濡れたタオルを取り替えながら、細い息を繰り返すメロンを見て、今夜が峠だろうと思った。
男はいつの間にか眠ってしまったらしい。
そうだ。メロンは。
男は、ソファーで眠っているメロンに目をやると、なんとメロンがいない。
まさか・・・
男は居間、台所、洗面所、などを見て回るが、他の仔実装達が部屋の隅で
寝ているだけでメロンの姿はどこにも見えなかった。
男はふと、居間から臨む庭に目をやる。
そこには、春の月光を浴びたサクラがメロンを背に抱き、振り散るサクラの花びらの中
ボエ〜♪ボエ〜♪と子守唄を歌いながら、背中の子供をあやしていたのだ。
背に抱いたメロンは白目を向いた青い顔のまま、背を海老反りのようにさせ、
手はぶらんと宙に漂わせていた。
メロンは死んでいた。
ボエ〜♪ボエ〜♪ボエ〜♪
サクラの子守唄は続く。
男が居間の扉を開け、庭へ降りると、サクラも男の姿に気付いた。
そして、男の顔を、ママの顔を見た途端
『オロロ〜ン オロロ〜ン』
と、大声で泣いた。
『私は駄目なママだったデス・・私はメロンを殺してしまったデス
 私はママ失格デス デスデスデスゥ・・・』
翌日サクラと男は、メロンを庭のサクラの樹の下に埋めてあげる事にした。
『メロン寝てるテチか』
『起きないテチね』
『お姉ちゃん 起きるテチ!』
「死」という概念を理解できていない仔実装たち。
男はスコップで、仔実装が1体入るぐらいの穴をサクラの樹の根元に彫った。
そこにサクラがメロンを入れる。
『? 何をするテチか』
男がスコップでその上に土をかぶせる。
『ッ!! やめるテチ! メロンが苦しがるテチ!』
『デス。いいのデス。イチゴ。メロンはもう苦しまないデス』
仔実装達は、土をかぶせる男に対して「デチチー!チィー!」と怒りの感情を露にする。
そして、メロンが完全に土の中に隠れた時、仔実装達は泣き始めた。
サクラも泣いた。
男はサクラの樹を見上げた。サクラの花びらはすっかり散り終わっていた。
それからというもの、サクラは躾をほとんどしなくなった。
たまにスモモ達が粗相をしても、『デス』と口で叱るだけになった。
家事を終えた時間は、ほとんど居間の窓から、庭のサクラの樹を見るばかり。
スモモ達も心配そうに、サクラの周りでテチーテチーと元気つけようとしている。
スモモ達も、もう既に中実装の大きさになり、自分の事は自分でするようになってきた。
その分、サクラの家事の量も断然減ってきているのだが、その開いた時間はすべて
居間から庭のサクラの樹を見る毎日である。
男は心配だった。
サクラの食事量が、どうみても減っている。
次第に顔もやつれて、体重も減ってきているように思える。
本人は『大丈夫デス』と気丈にも言ってはいるが、歩く足並みも
心なしかよろけているように見えるのだ。
男が仔実装達と遊んでいる時も、サクラは庭を見ていた。
雨の日も風の日も、サクラは暇さえあれば庭を見ていた。
サクラは何を待っているかのように、毎日、庭のサクラの樹を見続けた。
そして、その日がやってきた。
「デスデスゥデスデスゥ!!!!」
サクラがいきなり叫び始めた。窓をぺしんぺしんと割らんばかりに叩き始めている。
何事だと、男は窓の鍵を開けてやると、サクラはサクラの樹の方へ
一目散に走っていく。そう。メロンが埋まっているサクラの樹へ。
「デッスゥ〜!デッスゥ〜!」
サクラは、サクラの樹の下で、痩せた体でぴょんぴょんと跳ねていた。
男は遅れてサクラの後へとついて行く。そして、男は見た。
「なんて事だ」
それは、遅咲きのサクラ。
サクラの樹自体は、すでに新緑茂る葉を並々と茂らせているのだが、その1部。
ほんの一枝だけに、サクラの花が咲き誇っているのだった。
「デスデース!」
サクラは、すごい形相で男に言い寄った。
男はリンガルを使わずにも、サクラの言葉がわかったような気がした。
だから、やさしくサクラの頭を撫で、こう言った。
「いいよ。受粉しなさい」