サクラの実装石

 

 

 

 『サクラの実装石』5

 

■登場人物
 男  :仔実装のサクラを拾い育てる。サクラ親子の飼い主。
 サクラ:男に拾われた実装石。厳しく躾けられ、一人前の飼い実装となる。
 スモモ:サクラの長女。
 イチゴ:サクラの次女。
 メロン:サクラの三女。サクラの折檻で死亡。
 バナナ:サクラの四女。
■前回までのあらすじ
 「実装石の飼い方」
 書店で手に入れたその本で、初めて実装石の飼育に挑戦する男。そして、その
 仔実装の「サクラ」。男はサクラに適切な躾を施し、サクラは仔まで産む。
 サクラは、自らの仔を躾けて行くが、厳しい躾の末、三女「メロン」を殺して
 しまう。メロンを根元に埋めたサクラの樹が、サクラの花をつけ、サクラはその
 サクラで再び妊娠をする。しかし、サクラは躾をすることを恐れてしまう。
 躾が止まったために、増長する他の仔実装達。仔実装達は、男に糞を投げつけ
 飼い実装としての禁忌を犯してしまう。身重のサクラは、仔実装達の躾を行う
 ため、男にある計画を打ち明けた。それは、仔実装達に、男の庇護のある生活
 との差を実感させるために、仔実装達と共に自ら公園の野良生活に身を落とす
 ことであった。
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朝、子供達が目覚めて初めて感じたのは、固い冷たいダンボールの床の感触だった。
「テチィ?」
いつも見ている高い天井とは違う風景。
目に入ったのは、すぐ目の前に見える低い天井。
光が漏れる暗くて狭い空間。
そして、体の痛み。
いつもの柔らかいソファーは?
すっかり冷えている体。
暖かい毛布はどこ?
そんな感想を抱きながら、仔実装達はテチュテチュと見慣れぬ風景に気付き、起き始める。
薄暗い空間には、姉妹の姿は見えるが、肝心のママがいない。
仔実装はチィーと鳴いてみたが、返事はない。
そのうち、他の仔実装達も起き始めた。
仔実装達は、見慣れぬ薄暗い空間に戸惑い、テチーテチーと必死に母親を呼び始めた。
 ここはどこテチ?暗いテチ。狭いテチ。
 ママ?ママがいないテチ。ママ!ワタチはここテチ!
 ママ!ドコテチ!ママァ!!ママァ!!!
『起きたデスか』
明るい日差しが、その暗い空間へと差し込む。
その光の逆光の中、ダンボールハウスに顔を入れたのは、他ならぬサクラであった。
テチーテチーと鳴いていた仔実装達は鳴きやみ、サクラの胸元に飛び込み、顔を埋める。
『ママァ! ママァッ!!』
『ママがいなくなって吃驚したテチ!』
『ママの匂いテチッー! いい匂いテチッー! 柔らかいテチィー♪』
サクラは仔実装を抱きながら、そのまま外へと連れ出した。
「テチッ?」「テッチィィ」「テチー?」
仔実装達は、一様に?な顔をしながら、サクラの顔とダンボールハウスの風景を交互に見る。
仔実装達は、外に広がる風景を目の前に、驚きの声をあげる。
「チィー!」
そこに広がる風景。眼前に広がる広大な緑。小鳥の囀り(さえずり)。
雲の合間から漏れる朝日に照らしだされた木々。
仔実装達が見る初めての公園の風景だった。
イチゴとバナナは、赤と緑の目をまん丸に見開いて、
男の庭より広い、今まで見たことのない目の前に広がる自然に興奮していた。
『テチュ〜ン♪ 緑が一杯テチ! 広くて気持ちいいテチ!』
『ママッ! 遊ぶッ! お外ォ! 遊ぶッ! お外ォ!』
長女のスモモは、今の状況に疑問を持ち、?な顔をしてサクラに問いかける。
『ママ! ここは何処テチ?』
サクラは、まず子供達に今の状況を説明することにした。
『私達は、ここで暮らすことになったデス』
『私達は、ご主人様に捨てられたデス』
『私達は、これからここでずっと暮らすことになるデス』
「テチィ?」
スモモは、サクラが言ってる意味がわからなかった。
母親のサクラの顔を見て、再びダンボールハウスに目を向ける。
 どういうことテチ。いつも家はどこにいったテチ?
 ソファーは?毛布は?・・・そうテチ。ニンゲンもいないテチ。
 ・・・! テププププ。出て行けと言ったから、出て行ったテチ。
 そうテチ!そうに決まっているテチ。これからは、ママと一緒に幸せな生活テチ〜♪
スモモは一人納得顔で、自分が追い出したニンゲンの事を思うとテププと笑った。
残りの2匹は、能天気に宙を舞う蝶を追いかけながら、テチテチと走っている。
『さぁ、おまえ達。詳しい話は後デス。早く家に戻るデス』
イチゴがサクラの元に駆けて来ては、ダンボールハウスを一瞥して言う。
『テププ あんなみすぼらしい箱、家じゃないテチ テププ…』
『仕方ないデス 雨風が凌げるだけ私達は幸せデス』
そう言って、サクラは子供達を無理やりダンボールハウスの中へ入れた。
『いいデスね。私は今から朝食を取ってくるデス。それまで大人しく
 この家の中にいるデスよ。外は危険デス。決して出てはいけないデス』
入れられたダンボールハウスの中は、狭くて暗かった。
今までいた男の家とは大違いだ。
こんな所で、ママと離れてじっとしているなんて、仔実装達には耐えれなかった。
『テチューン! イヤテチ! ママと離れたくないテチー!!!』
『ここは狭くて暗いテチ! ママァ! 行かないで欲しいテチ!!!』
『テェエエエエエン! ママッ!! 行っちゃ駄目テチ! 行っちゃ駄目テチ!』
テチーテチーと騒ぐ仔実装達を何とか説得し、外へ出ようとするサクラ。
末の妹のバナナが、サクラが外に出るたびに、大声で泣き叫びながら
ダンボールハウスからは外に抜け出し、サクラのスカートにしがみ付く。
『行っちゃ駄目テチー!!! 行っちゃ駄目テチー!! テェェン!テェエエン!』
サクラは、泣き叫ぶバナナを抱っこしては、頬をすり付けダンボールハウスに戻す。
再び、外に出ようとするが、今度はイチゴとバナナの2匹が泣き叫びながら外へ出る。
『行っちゃ駄目テチー!!! 行っちゃ駄目テチー!! ママァァァァッ!!! ママァァァァッ!!!』
『ママが居ないと怖いテチィ!! 一緒に居てテチッ!!! ずっと一緒に居てテチィィィ!!!』
サクラは困り顔で二人を抱き上げ、二人に頬にキスをして、再びダンボールハウスへと戻す。
それを数回繰り返し、ようやく長女のスモモが2匹をなだめたのか、サクラはようやく
外に出ることができた。
遠くでテェエエエエエン!テェエエエエエン!と泣き叫ぶ子供達の声を聞きながら、サクラは公園の中央へと歩みを進める。
この公園での生活。
男の庇護のない生活を経験させるための生活。
それは躾の一環のつもりであるが、できれば子供達にはひもじい思いだけはさせたくなかった。
サクラは、愛する子供達のために、食料を手に入れる必要がある。
それは、サクラにとって初めての経験だった。
まだ男の家に拾われる前に、サクラの本当のママの下、何度か餌のとり方を見ては記憶は微かにある。
それをまさか自分がすることになるとは、今日まで夢とも思わなかった。
「デス!」
サクラは眼前に広がる朝日が差している公園を目にし、気を引き締める。
広い。
とてつもなく広い。
右を見れば、新緑茂る森が広がっている。ママの家の庭の比ではない。
左を見れば、大きな広場。ママの家の居間の広さどころじゃない。
中央には噴水。
公園の離れには、確か池もあったはず。
目を凝らして見れば、デスデスと野良実装が朝食を集めようと、
至るところを漁っている姿が見える。
サクラは飼い実装として育てられた。
野良としての知識や技術は何も持ち合わせては居ない。
しかも身重だ。
野良実装と力で争うことは無論避けねばならないし、彼らのテリトリを犯す事も避けるべきだ。
その事を頭に叩き込み、サクラは生唾を飲み込み公園の広場へと向かった。

残された仔実装達は、狭いダンボールハウスの中で、サクラの帰りを待っている。
サクラと別れた後、テッスン…テッスン…と泣いていた仔実装達だが、この狭い空間にも
慣れてきたようである。そうなれば実装石だ。次の欲望が身をもたげて来る。
バナナがそのうち耐え切れなくなり、スモモ達姉へと訴える。
『姉チャッ! お外ォ! 遊ぶゥ! 遊ぶゥ! 遊ぶゥ?』
『駄目テチ! バナナ、ママがココに居ろと言ったテチ!』
長女であるスモモが、バナナに言いつける。
『でも、お姉ちゃん。お外はとても気持ちいいテチ。そうテチ! あの窓みたいなところから
 お外を見るぐらいなら、ママの言いつけを破った事にならないテチ!』
そう言うのはイチゴ。
「テチ…」
妹たちの言い分に言いくるめられるスモモ。
仔実装達は、つま先立ちになり、ダンボールハウスに備え付けられている窓を開け、外の風景を見た。
男の家から見る庭の風景は、まったく違う異質の風景。
無限まで広がるだろうその風景の先には、魅力溢れる冒険の世界が待っているように仔実装達には思えた。
今まで限定された男の家の中の生活。
朝起き食事を取り、限られた空間の中で遊び、そして寝る。その繰り返し。
退屈な生活だ。
しかし、ここにはその枠を取り払った世界が広がっている。
つま先立ちで窓を臨む仔実装達のお尻は、無意識のうちに左右に振れていた。
 ワクワク… ドキドキ… ワクワク… キュンキュン♪ テチュー!!!
数分後には、スモモも含め仔実装達は、外に出ていた。

サクラは途方に暮れている。
餌の取り方がわからないのだ。
一体、どこで餌を取ることができるのだろうか。
地面を見る。
実装フードが落ちていないか、必死に探して見る。
落ちているはずがない。
樹を見上げる。
もしかしたら、実装フードが成っているかもしれない。
首が痛いぐらい上を見上げて、必死に探す。
成っているわけもない。
「デスゥ…」
かれこれ1時間近く探しているだろうか。
サクラ自身も空腹のため、腹を鳴らしている。
身重の体は、多くの栄養を要求してくる。
サクラは焦っていた。
もしも、このまま餌が手に入らなかったらどうしよう。
ママに電話しようか。
下着のゴムの部分に挟んでいる『実装フォン(PHS)』を服の上から触る。
駄目だ。今、ママに電話をして実装フードを貰う事は簡単だ。
しかし、それではママの家に居た頃と何も変わらない。
ママの家を離れた意味がまったくないではないか。
「デス!」
サクラは目の前を歩く実装石の姿に気がつく。
そうだ。彼女に聞いて見よう。餌の取り方。洗濯をする場所。
オヤツはどこで取るのか。トイレの場所などは、この公園ではどこなのか。
サクラは意を決して、目の前を歩く実装石に声をかけた。

仔実装達は、ダンボールハウスの周りで花を摘んだり、蝶を追いかけたりして
遊んでいた。
楽しい一時。空腹だが、もう少し立てば、ママが実装フードを運んでくる。
それまでは、遊んで待っていればいいのだ。
スモモもダンボールハウスから離れなければいいと思って、妹達を監視しながら
花の輪などを作りながら、遊んでいる。
その時、バナナとイチゴが姉であるスモモに異常を訴えてきた。
『姉チャッ! トイレッ! ウンコォ! トイレッ! ウンコォ!』
『ワタチモ ウンコテチ! ウンコ 漏れそうテチ!』
「テェ!?」
バナナは既に限界なのか、顔には汗の粒を浮かべて震えている。
イチゴは両手でお尻の部分を押さえながら、同じ場所をくるくる回っている。
『せ、洗面所は何処テチ!』
スモモ達は、飼い実装石として、排便行為を特定の場所ですることを
厳しく躾けられた飼い実装石である。野外でどこで排便をすればいいのか知る由もない。
ウンコはトイレでするものだ。
生まれてから、そう厳しく躾けられてきた飼い実装石なのだ。
ウンコはトイレ以外のところですると、サクラの恐怖の躾が待っている。
パンコンなどは、問題外だ。それは決してしていはいけない行為。
スモモ達は、前の家の記憶を確かに、トイレがあった洗面所を必死に探すしかなかった。
スモモは周囲を急いで見回す。
しかし、周りには見覚えのある洗面所などはどこにもない!
「テチィッッ!!!」「テッチー!テチテチー!」
妹達は訴える。スモモはうろたえる。
ウンコウンコと訴えられると、スモモ自身も便意を感じ始めていた。
『トイレェ!! 姉チャッ! トイレェ!! ドコォォォォ!!!!』
『ウンコ 出ちゃうテチ! ウンコ 出ちゃうテチ!』
『ワ…ワタチもしたくなって来たテチ…』
そうだ。前の家では、洗面所は家の中にあった。
ママは、あのダンボールハウスを「家」と呼んだ。
今日目覚めてからは、まだあの家の中をよく調べていない。
そうだ。洗面所は、あの家の中にあるに違いない。
『オマエタチ! 家に戻るテチ! トイレは家の中にあるテチ!』
スモモはお尻を両手で押さえる妹達の手を引き、ダンボールハウスの中に戻る。
「テチュ!」
暗い家の中。窓から幾分の光は差し込んでいるが、どう見ても狭い空間。
『ドコテチカ! 洗面所! トイレ!』
スモモは妹達を中に入れ、必死に壁をぺしんぺしんと叩き始めた。
『オマエタチも探すテチ! どこかに洗面所があるハズテチ!』
『トイレッ! ドコテチッ! トイレ! ドコテチッ!』
『洗面所 ドコテチ! きっと扉があるはずテチ!』
必死にダンボールハウスの壁を叩きながら、必死に洗面所を探すスモモとイチゴ。
『ウンコォ! ウンコォ! 漏れるのぉッ! 漏れるのぉッ!』
姉の後ろでは、バナナが両手でお尻を押さえ、内股で片足を『く』の字にしながら震えている。
そして、涙と汗の粒をダンボールハウスの床に落としながら『ウンコォ・・・』と呟く。
『漏れそうテチィッ!! 漏れそうテチィッ!!』
『トイレ以外の所でウンコしたら、怒られるテチィ!!』
『洗面所はドコテチィ!!! トイレはドコテチィ!!!』
そのうち、仔実装達は泣き始めた。
ウンコをトイレ以外の所でする粗相。
その粗相の後に来るであろう厳しい躾に恐怖しながら
涙を流し、鼻からも液体を流し、必死の「家」の中のトイレを探し、壁を掻き始める。
10分近くの仔実装達の必死の捜査も虚しく、そろそろ限界が近づいてくる。
顔には脂汗が浮かび、両目から涙を流しながら、振るえながら叫ぶ仔実装達。
『洗面所ォォ!!! ドコテチッ!!! 洗面所ォォ!!! ドコテチッ!!!』
足元にあるダンボールハウスの固定されていない短いフタを、ぱっこんぱっこん開けながら、叫ぶスモモ。
『ウンコォォォォ!!! 出ちゃうのォォォォ!!! ウンコォォォォ!!! 出ちゃうのォォォォ!!!』
ダンボールハウスのガムテープで張られた隙間を、必死に両手でこじ開けようとするイチゴ。
『ウンコォォォォ!!! トイレエエエエ!!! ドコォォォーーー!!! ウンコォォォォ!!! トイレエエエエ!!! ドコォォォーーー!!!』
四つん這いで尻を高く上げ、四肢を震わせながら、天に向って叫ぶバナナ。
そして、糞の濃厚な匂いがダンボールハウスの中に漂い始めた。
まず、糞を漏らしたのはバナナだった。
顔をダンボールハウスの床につけ、お尻を高く上げた状態で、パンコンした。
トイレ以外で排泄をする以上に、禁忌として躾けられているパンコン。
針。ビンタ。蝿叩き。どんな恐ろしい躾が待っているのだろうか。
それを考えると、バナナは恐怖し、まだ肛門の奥に残っている残糞を再び噴出す。
「テェエエエエエン!」
バナナはその場で座り込み、両手を目に当てて、大声で泣き始めた。
パンコン状態で座ったため、パンツの裾から、ぶじょっ!ぷじょじょっ!と音を立て
糞がせり出し、そしてバナナのスカートと床を汚していく。
『ウンコォォォォォ!!!! ダメェェェェェェ!!!! ウンコォォォォォ!!!! ダメェェェェェェ!!!!』
我慢の限界に達したイチゴは、下着をその場に下ろし
「ぶりりりぃ!!!」とダンボールハウス内で排便を行う。
「デヂュアアアアアア!!!!」
その横でバナナは、これからあるであろうママの折檻を想像しては恐怖し
自虐的に糞を手に掴んでは自分の顔に塗りたくる。
「テェエ……テェェ……」
そんな妹たちの姿を見て、スモモは排便をすまいと体を震わせながら、排便行為をひたすら耐えていた。

『トイレの場所?お前、どこの飼い実装デスか。デププププ』
サクラが声をかけた実装石は、言葉の使い方は荒かったが、親切にサクラに色々な事を教えてくれた。
野良実装には、排便を決まった場所でするという習慣はないという。
少し離れた草むらですればよいと教わった。
『実装フード?そんなものあるわけないデス。白痴が・・デププププ』
そう言いながらも、食事はゴミ箱やコンビニの周りを探すと手に入る事があることを教わる。
そして野良実装は、両目が緑のサクラを見ては、
『売女が・・・』
と言っては、出産は西のトイレでする事を教えてくれた。
『デププププ。間抜けな奴デス。飼い主に捨てられて、ざまぁ見ろデス』
そう言って野良実装石は、その他色々なアドバイスを与えて、その場を後にした。
『ゴミ箱・・デスか』
サクラは、公園に点在するゴミ箱を中心に餌を探す。
既に他の実装石に荒らされてた後なので、もう食べれるものなどあるはずもない。
しかし、サクラは仔実装たちのために必死に探した。
「デスゥ・・・」
何とか食べれそうな物を見繕って、とりあえずサクラはダンボールハウスへ戻った。

サクラはダンボールハウスに戻った時に、家の中に広がる凄惨な光景に眩暈を感じた。
「デェェェェェェ」
糞溜まりの中、両目から涙を流し、歯をカチカチと鳴らせながら、両手で頭をかかえるバナナ。
「テェエ……テェェ…」
排便を我慢し過ぎて、お尻を押さえながら泡を吐き、白目で小刻みに震えるスモモ。
「テッチー!テチテチー!」
一人無事なのはイチゴ。しかし、彼女が居た場所には、排泄物がこんもりと積んである。
サクラは、この新しい生活の中で、トイレの場所を定めていなかった事を悔やんだ。
サクラはトイレの場所を、ダンボールハウスから少し離れた茂みと定める事にした。
「どこでも排泄をしてもよい」という概念は、今までの教育と反してしまう。
ならば、ここに住む間でも、一定の場所で排泄をさせるよう仕向ける必要がある。
そう教えると、スモモは両手でお尻を押さえ、震えながらその茂みへと向かう。
サクラは怯えるバナナをダンボールハウスから出し、服と下着を脱がせた。
バナナは恐ろしい折檻が待っていると思い、恐怖のあまり裸のままでも、股間から
ぶにょっ・・ぶちょちょ・・と、しきりなしに糞をもらして、涙を流していた。
 こ、怖いテチ!怖いテチ!
 ごめんさないテチ!二度としないテチ!許してテチ!許してテチ!
涙ながらに鼻と涎を垂らしながら、赤と緑の両目を大きく見開いて
歯をカタカタと鳴らしているバナナに対して、サクラはやさして「デェ」と鳴いて
その頭を撫でてやった。
『次からは、あそこでウンコをするテチ。イチゴ。あなたもデスよ』
バナナの隣で、直立で固まっていたイチゴも、サクラのやさしい態度に吃驚した。
 ウンコをトイレ以外の所でしても、ママは怒らなかったテチ!
 今日のママはやさしいテチ!やさしいテチッ!テチュ〜ン♪ 
2匹は、サクラの胸に飛び込んで、頭をすりすりしながら、甘えた。
指定されたトイレでは、スモモが排便を終え、しばらく考えて挙句
自らのスカートで股間を拭いていた。

サクラと3匹の仔実装は、葉っぱを使って、ダンボールハウスの糞を綺麗にした。
まだ糞の匂いが漂うダンボールハウスの中、親子はこの生活初めての食事を取った。
先ほどの惨事も食事と聞いて、仔実装達はすっかり忘れてしまっている。
『ママァ! お腹が減ったテチ! ご飯テチ! ご飯テチ!』
『テチュ〜ン♪ 食事テチィー! 食事テチィー!』
『テチテチィー! きっと金平糖テチィー! プリンティー!』
『すまないデス。こんなものしか取れなかったデス』
サクラは、床にそれらを置いた。
 ・アイスの棒
 ・噛み終ったガム
 ・コオロギの死体
『?』
『テチィ?』
『何テチィ? コレ?』
仔実装達が無邪気に問うた。
『すまないデス。こんなものしか取れなかったデス』
もう一度、サクラが答える。
『テチィ?』
仔実装達は、これがサクラが取って来た「食事」という事が理解できていなかった。
新しい玩具だろうか。玩具にしては、変な形だ。
今日は玩具の日だけど、今は食事だ。
ママ、ご飯まだ?そう、仔実装達はサクラに問いかける。
『すまないデス。これが今日の朝ご飯デス』
何度かの説明で、初めて仔実装達は、サクラが本気でこれが食事であると
言っている事を理解した。
『…ママ、冗談はヨステチ いつもの丸いヤツでいいテチよ』
実装フードの事を言っているらしい。
『冗談じゃないデス こんなものしか取れなかったデス』
『……………』
『……………』
『……………』
沈黙が走る。
『あの家に居た時、あの丸いのは、どこで取ってきたのテチか?』
『アレはご主人様が私達に与えてくれた食べ物デス 私が取って来たものではないデス!』
『……テチィ?』
仔実装達は、サクラが何を言っているか分からなかった。
 あの追い出したニンゲンが、食べ物をくれたテチ?
 違うテチ!ご飯はいつもママが用意してたテチ。
 あの丸いのも、いい加減飽きたテチ。
 今日は庭が広いから、お外で食事テチ。
 だから、甘いのがいいテチ。プリンがいいテチ!
『ママッ! プリンッ! ママァ! プリンッ!』
『ママァ! お外でプリン食べるテチー!』
テチーテチーとサクラに甘えだす仔実装達。
この仔実装達は何もわかっていなかった。
ニンゲンが美味しいご飯など用意するはずもない。
ニンゲンなんて居なくても、ママが居れば大丈夫。
仔実装達はサクラのスカートの上に乗ったり、肩に抱きついたりして甘える。
 最近のママは痛いことをしないテチ。
 ちょっと我侭言っても、怒らないテチ!
 今のママが大好きテチ!ママ!大好きテチ!
仔実装達はサクラにじゃれ、サクラに甘え、サクラを溺愛する。
サクラもまんざらではなく、昔の小さい仔実装だった頃のような甘え方をする
スモモ達に頬を赤らめて困ったりしていた。
『ママァ…お腹空いたテチ ご飯はまだテチか?』
テチーと仔実装達が鳴いた。
『ご、ごめんなさいデス。すぐに用意するデス。もう少し待っているデス』
そう言ってサクラは、ダンボールハウスに置いたアイスの棒などを急ぎ懐に回収し、
ダンボールハウスを出る。
ダンボールハウスを出ようとすると、バナナがサクラのスカートを掴んでは、
『行っちゃ駄目テチー!!! 行っちゃ駄目テチー!! テェェン!テェエエン!』
と泣いて、サクラを引き止める。
『困った仔達デス・・・』
昔のサクラなら、ここで仔実装達にキツイ躾を施すことだろう。
生きるためのルール。それもこの場で躾けることが必要なのだ。
サクラはできるだけ暴力は振るわず、叱り付けるような大きな声でバナナ達を叱った。
思いもかけないサクラの怒号を聞き、仔実装達は
「テェエエエエエン!」
と泣きながら、大人しくダンボールハウスへと戻る。
まだ1日目は、始まったばかりである。
サクラは重い気持ちを抱きながらも、仔実装達のために公園内を彷徨うのだった。

仔実装達には、始めての感覚が襲っていた。
飢餓感。
食欲旺盛な仔実装達は、男の家にいた頃は、食事以外の時に食事を要求すると
容赦なく躾けられた。
無論、その時も、悲しいまでの飢餓感を味わっていた。
しかし、定期的に給餌される食事のおかげで、それもすぐに解消された。
今感じる飢餓感も、いつもと一緒だ。
すぐに解消されるに違いない。
この家には、くるくる回る針が壁にはないが、もう食事の時間は回っているはず。
だから、食事を要求しても、ママは痛いことをしないはずだ。
だから、仔実装達は、容赦なく食事を要求する。
『オナカ減ったテチィ!!!』
『ゴハンッ!! ゴハンッ!!』
『ママァ!! ドコテチィ!!! ママァ!!』
しかし、この狭いダンボールハウスの中、いくら叫ぼうが母親の姿はない。
母親から放置されている寂寥感。脳に訴える我慢できないほどの飢餓感。
仔実装達は定期的に、テチーテチーと衝動的に食事の要求のため鳴いたりしたする。
しかしその要求の叫びも、この状況を打破することができない事を仔実装達は知る。
仔実装達は、ダンボールハウスの外へ出た。
動けるうちに動くべきだ。
それは、本能としての衝動。
生き残るための本能的な行動であった。
ただじっと蹲るより体を動かした方が、空腹感を誤魔化す事もできた。
ダンボールハウスから外に出る。
日は既に、頭上まで昇っている。
何時もなら、昼食を取っている頃だ。
しかし、このダンボールハウスの生活をしてから、朝から何も口にできていない。
ひもじい。空腹だ。
仔実装達は、ふらふらとサクラが出て行った方向とは、逆の方向へ歩いていく。
特に当てもない。ただの出鱈目だ。
しかし、仔実装の1匹。バナナの視線が、1匹の実装石の姿を捉えた。
『ママァ! ママッ! ママテチッ!』
バナナが指差す方向に、1匹の成体実装石の姿があった。
寂寥感と飢餓感に苛まれていた仔実装達は、一目散に両手をバタつかせながら、
その実装石に向って、テチーテチーと泣き叫びながら走り、その実装石のスカート目掛けて
飛びついた。
『テチュ〜ン♪ ドコに行ってたテチ? 寂しかったテチィ〜♪』
『ママァ! オナカが空いたテチィ!』
『ゴハンッ! ゴハンッ!』
「デェ!?」
驚きの声をあげたのは、仔実装に飛びつかれた実装石であった。
身の丈は、既に成体のそれ。
しかし、発した声がサクラのそれと明らかに違った。
まず長女のスモモが違和感を感じる。
抱きついた感触が、いつものママと違った。
いつも、柔らかく暖かいそれが、突き出たアバラのような骨の硬さを服越しに感じる。
そして、服の質。
いつものママの服は、繊維の1本1本が際立った、優しい肌触り。
しかし、今のそれは、ざらついた布地に、べっとりと湿った感覚。
ママの匂いは、石鹸の匂い。
しかし今、鼻腔で嗅いでいる臭いは、糞の臭い。
仔実装達が抱きついた実装石は、サクラとは、まったく別の野良実装石だったのだ。
仔実装達にしてみれば、サクラと間違えたのは無理のない事である。
仔実装達は、サクラ以外の実装石を見たことがない。
この広い世界に、実装石という種は、母親であるサクラと姉妹だけであると信じ込んできた世界観。
それが、この公園の中で、一気に崩れ去った瞬間。
自分の家族以外に、緑の服と頭巾をかぶり、オッドアイをした同属。
それが、「デェ!?」という悲鳴に近い声をあげて、上から仔実装達を?な顔で見下ろしているのだった。
それは、恐怖以外の何物でもない。
「テチァァァァァ!!」
スモモは両目から涙を流して震えきった。
イチゴもバナナも、抱きついた実装石がサクラでないと知るや同様に叫んだ。
ガタガタガタガガタ… 震える足。 カタカタカタカタカタ… 鳴り響く歯。シャァァァァァァァァ… 足を伝う尿。
そんな3匹の仔実装を、この野良実装は、?な顔で見続ける。
右に頭を捻って、スモモの頬をつねって見る。
左に頭を捻っては、イチゴを持ち上げて、顔を近づけては、臭いを嗅ぐ。
野良実装は、大声で「デェェェェェ…!!」と、後ろの茂みに向って鳴いた。
すると、茂みが揺れたかと思うと、「テッチー!テチテチー!」と7匹の野良仔実装が
野良実装石の周りに集まってきた。
野良実装石は、スモモ達がまざった仔実装の群れを見ては、
「デッ!デッ!デッ!デッ!デッ!デッ!」
と、数を数えるようにして、「デッ!」と続いて鳴く。
しかし、この野良実装は、数字の「5」以上の数を数えることはできなかった。
しばらく、?な顔をして再び顔を右へ捻り、左へ捻った後、自分で得心したのか
『おまえ達。ご飯デスゥ!みんなこっちへ来るデスゥ〜!!』
と叫んで、茂みの中へ入っていく。
今まで震え上がっていたスモモ達だが、「ご飯」という言葉を聴き、互いに顔を
見合わせ、テププと鳴きあった。
生まれてから、感じたことのないこの飢餓感から、ようやく脱出できる喜びであった。
スモモ達は、他の野良仔実装達にまぎれて、その野良実装の後を追いかける。
茂みの中は、少し広い空間になっていた。
そこに野良実装が立ち、仔実装達がその周りに立っている。
スモモ達もその輪の中に入った。
『今日の昼ご飯デス。たっぷりと食べるデスよ!!』
「テチュ〜♪」
野良仔実装達が、涎を流して、大声で鳴く。
スモモ達も、それに合わせて、大声で鳴く。
野良実装は、くるりと背中を向け、いきなりスカートをたくし上げる。
続いて、緑色に染まった下着を脱ぎ降ろし、少し中腰に屈んだと思うと
芝生の上に、ぶりぶりと排便をし始めた。
『みんな、仲良く食べるデス!』
周りの仔実装達は、その糞に群がるように飛びついた。
『ご飯テチー! ママのほかほかのご飯テチィ!!』
『はぐッ…もぐッ…うまいテチュー!!』
『最高テチュ!! ママのご飯 美味しいテチュー!!』
スモモ達は呆気に取られていた。
目の前で何が起こっているか、理解できない。
しかし、周りの仔実装達は、オイシイテチー! ウマイテチー! と叫びながら、我先と緑色の糞を
争って奪い合っている。
その喰らう様の表情。目の色は幸せに満ち、頬は紅潮をしている。
口から流れる涎のそれは、食欲に満ちた仔実装の欲望の現れであった。
もしかして、ウマイのではないか。
一瞬、そういった考えが頭をよぎる。
しかしどう見ても、野良仔実装が喰らっているのは、緑色をした糞そのもの。
スモモの腹がグゥ〜となった。
飢餓感に苛まれているスモモ達の目の前で、食欲を満たしつつある野良仔実装達。
時節、親実装は排便の合間にブヒィ!と黄色のガスを放屁する。
そのガスが出される度に、野良仔実装達は、両手に掴んだ糞を口に運ぶのを止め
両目を瞑って、顔を上に上げ、鼻腔をヒクヒクさせながら、うっとりとする。
『イイ匂いテチィー!!』
『ママの匂いは最高テチィ!!』
『食欲をそそる甘い匂いテチィ〜♪』
『第2弾、行くデス!』
頬を紅潮させ、鼻から荒い息を出しながら、力む親装石。
 ぶりっ・・ぶりりぃぃ!!
腸に詰まったガスと共に、親実装の肛門からは、新たな糞がひりだされている。
ひりだされた糞は様々だった。
下痢質の糞。
ゼリー状の糞。
バナナ型の糞。
そして、黒くて丸い形状の糞。
丸い形状の糞を見て、バナナが叫んだ。
『姉チャ! フードテチッ! フードテチッ!』
その糞の形状は、まさしく実装フードの形状に似ていた。
バナナがふらりと糞に近づく。
イチゴもそれに倣う。
スモモも、我慢できず、野良仔実装達の群れに加わった。
そして、それを、糞を、緑色の糞を、手に取り、スモモ達は口に入れた…。
 ウマイテチー! ウマイテチー! ウンコォ!! ウマイテチー!