サクラの実装石

 

 

 

 『サクラの実装石』 6

 

■登場人物
 男  :仔実装のサクラを拾い育てる。サクラ親子の飼い主。
 サクラ:男に拾われた実装石。厳しく躾けられ、一人前の飼い実装となる。
 スモモ:サクラの長女。
 イチゴ:サクラの次女。
 メロン:サクラの三女。サクラの折檻で死亡。
 バナナ:サクラの四女。
■前回までのあらすじ
 「実装石の飼い方」
 書店で手に入れたその本で、初めて実装石の飼育に挑戦する男。そして、その
 仔実装の「サクラ」。男はサクラに適切な躾を施し、サクラは仔まで産む。
 サクラは、厳しい躾の末、三女「メロン」を殺してしまう。サクラは再び妊娠
 をするが、サクラは躾をすることを恐れてしまう。躾が止まったために、
 増長する他の仔実装達。仔実装達は、男に糞を投げつけ飼い実装としての禁忌
 を犯してしまう。身重のサクラは、仔実装達の躾を行うため、男の庇護のある
 生活との差を実感させるために、仔実装達と共に自ら公園の野良生活に身を落
 とした。野良生活に期待を広げる仔実装達。しかし、仔実装達には野良生活の
 厳しい現実が向けられていた。
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サクラは悩んでいた。
仔実装たちのために集めてきた食事。
それを「食事」として認識することもなく、無邪気に食事を要求してくる無垢な仔実装たち。
サクラは自分が取って来た「食事」が恥ずかしくなり、思わずそれを回収してしまった。
そして今、当てもなくダンボールハウスを後にし、公園の中を彷徨っている。
足が棒になるほど歩き続け、ようやく見つけたのが先程の「食事」だったのに。
公園を彷徨うサクラ。
「デスゥ・・」
緑の両目で鳴いた。
サクラはふと気付く。
公園のある一角に、野良実装石が集まっている一角があった。
それは一箇所ではない。等間隔に、何匹かが集まっている集団が、3つ〜4つ見られた。
サクラがよく目を凝らしてみれば、それぞれは公園のベンチの周りに集まっているように見える。
そのベンチには、それぞれ人間が座っている。
サクラは何か期待するものを胸に秘め、その集団の一つに近づいた。
「ほぉれ。喰え喰え」
サラリーマン風の男。
くたびれたスーツに、禿げ上がった頭。
営業周りのサラリーマンの昼食時だろうか。手にはサンドイッチやパックの牛乳が握られている。
男は、集まる実装石に向けて、暇そうにサンドイッチのかけらを投げたりしていた。
右にサンドイッチのパン屑を投げれば、野良実装たちが互いを押しのけるように
「デデデ・デスゥー」
「デスデース!」
「デヂァ!」
と掴み合いながら、口を大きく開け、そのパン屑を必死の形相で喰らいついている。
男は、この付近で訪問販売を営んでいる男だった。
今日も朝からノルマが達成できず、このまま帰れば部長の怒号を受けることはわかっていた。
そんなストレスの溜まる毎日。
男は、毎日の営業の帰りに、近くのコンビニで昼食を買い入れては、このベンチに座って
野良実装石を相手にすることを、一番のストレス発散としているようだ。
「ほぉれ!」
男がレタスのついたサンドイッチに一片を、今度は左の方へ放り投げる。
「デッ!!」
「デスデスッ!」
「デスゥエ!?」
レタスを目視したのか、男から向って右の一角に集まっていた実装石達は
地面におちたサンドイッチの一片を、殴り合いの様相で奪い合っている。
サンドイッチの一片は、奪い合いの最中、泥にまみれて原型を留めなくなっている。
しかし、その一片を手に入れることに成功した野良実装石は、泥と一緒にサンドイッチの
一片を口の中に入れ、
『ムッシャ…ムッシャ…ガリッ…ゴリッ…ムッシャ…ムッシャ… うまいデス〜』
と言って、頬を赤らめて咀嚼している。
「よ〜し。次は特別製だぞ〜」
男は、ベンチの脇に落ちてる犬の糞をみつけると、ポケットティッシュでそれを掴み
そして、それを放り投げた。
集まる野良実装石は、男の持つサンドイッチにしか、目が行っていない。
放り投げられたそれが、食べ物以外の物など、露とも疑ってはいなかった。
犬の糞は、放物線を描いて、野良実装たちの中心に放り投げられた。
口の両側が裂けんばかりに口を大きく開け、その落下地点に顔を寄せ合う実装石達。
「デァ〜〜〜ッ!!! デァ〜〜〜ッ!!!」
「デァッ! デァッ! デァッアゥ!」
「デェア゛〜! デッアァッァ〜〜ッ!」
口を大きく広げたままで、周りを威嚇しながら鳴くため、変な鳴き声で鳴く。
犬の糞は、1匹の野良実装の頭に跳ねて、大きく後ろにバウンドした。
『デェスァ! 』
『デギャー! 触るなデスッ! これは私の物デスッ!』
『肉デスッ! この黒い光沢は肉デスッ! デシャァァァァァァ!!!』
男が大声で笑い転げる中、一匹の野良実装が、泥まみれの糞を手に掴み、
『ウムゴム…ムッシャ…ムッシャ… 中々いけるデス〜 うまいデス〜 肉はやっぱり違うデス〜』
と、犬の糞を咀嚼し、ご満悦の表情で叫んでいる。
 デプププ。このニンゲン、私の可愛さにメロメロデス〜♪
 デシャァァァァァァ!!! 次は私に投げるデス! まだ一口も喰ってないデスッ!
 はやく投げるデス! もっと投げるデス!
デス〜デス〜と泣き喚く野良実装石たち。
「よ〜し。待ってろよ。次はもっと豪勢だぞ」
そう言って、鼻紙で鼻を咬みだす男。
サクラはその光景を見て、公園でのもう一つの餌の取り方のシステムに気付く。
この公園に点在するベンチに座る人間達。
皆、一様に群がる野良実装達に餌をあげたりしている。
そう。彼らは定期的にやってきては、実装石達に餌を与えているようだ。
それは、サクラが幼少の頃、時計の針が真ん中に来た時に、男から定期的に
餌を与えれたシステムに似ている。
そういったシステムが、この公園にも存在するのか!
きっと、そうだ。
おそらく、時計の針が12を差したときに、人間に餌を要求できるに違いない。
そして、3を差したときは、おやつだ。
そして、夕食は、2回目の7の数字。
見れば、公園の中央。
そこには、大きな時計がある。
時計の針は、12を差している。
そう。餌の時間だ。
サクラは仔実装時代を思い出した。
時間以外に、餌を要求した時には、厳しく躾けられた。
つまり今、餌を貰わない限り、針が7まで来ないと、次の餌を要求することはできないのだ。
サクラは焦る。
躾とは言え、仔実装たちをこの公園生活に陥れたのは、サクラ自身だ。
必要最低限の食事を手に入れるのは、母親としてのサクラの勤めだ。
サクラは、公園中央の時計を見ては焦り、急ぎ人間に向って食事の要求をし始めた。
サクラは、その群れの中に入る。
『デス〜。餌が欲しいのデス。子供が3匹も家で待っているデス〜』
その野良実装石の群れは、丁度、男が投げた鼻紙を奪い合っている最中であった。
『私のデスッ! 私のデスッ! デギァァァァァァァ!! 』
鼻紙をうまく両手でキャッチした野良実装が、周りから強奪の手を恐れ、威嚇を繰り返す。
力一杯鼻紙を掴んでいるため、その手から、にゅるりと青い物が垂れている。
「あははははははっっ!!!!」
男は腹を抱えて、野良実装の様を見ては、笑い転げていた。
この時間が男にとって、一番の至福の時間だった。
家に帰っても、結婚した時にはスリムだった妻が、三段腹でケツを掻きながら
屁をこいてテレビを見ているだけだ。子供も、憎たらしい妻の顔に似だしてきた。
会社に居ても、家に帰っても、気が滅入る毎日。
男の生きがいは、この日々の昼休み。この野良実装たちと過ごす、この一時なのだ。
最初は、些細な悪戯だった。
弁当の残りなどを与えると、面白いように喰らいつく野良実装たち。
面白半分に、道に落ちていた団栗(どんぐり)などを与えて見ると、ボリッポリッとうまそうに喰う。
その悪戯は、どんどんとエスカレートし、与える餌の間に、虫の死骸や、犬の糞などを
巧みに混ぜて、野良実装たちに与えては、楽しんできていた。
「あ〜、今日も楽しかった…」
男は時計を見ては、至福の時間が終わりに近づいた事を知る。
午後は、嫌な得意先を何件か回らないといけない。
そう思うと、この至福の時間から落とされた気がして、余計憂鬱になった。
男が投げた鼻紙は、最初にキャッチした野良実装が、口の中に含んで
レロレロと上機嫌で舐めているようだった。
「さて、仕事に戻るか…」
残ったサンドイッチを平らげようとした時に、急に男は激しい尿意を感じた。
「え〜と、便所便所はっ・・と」
西の方には公衆便所がある。そこに行くかと立ち上がろうとした時、男の脳裏に
途轍もない斬新なアイデアが浮かんだ。
「………(ゴクリ)」
生唾を飲み込む。
「………(やるか…)」
周りを見る。今日は幸いにして、人も少ない。
ファスナーを降ろす。野良実装石たちは、男が次に投げる餌のみを期待し、デ〜と
鳴きながら、男の一挙一動のみに注意を払っていた。
サクラも、その野良実装の中に混ざって、それを期待している。
男の一物が、ファスナーの中から現れた。
『に、肉デス! ソーセージ デスッ!』
『フランクフルト デスッ! ポークウィンナー デスッ!』
肉の登場に俄然やる気を出す野良実装たち。
大きな口を開けて、来るべき餌に備えて、口の中一杯に唾液を溜めている。
 じょぉぉぉぉぉぉぉ…
男の一物から、輝く一線が放物線を描き、放たれた。
「デ…デスァァァァァァ!!」
「デギュオアァァァ!!」
「デギャー!!!」
男の一線は、容赦なく口を開けた野良実装達の口や目を襲った。
叫ぶ野良実装石たち。鼻をつくアンモニア臭に、これは排尿だということを知る。
野良実装石も馬鹿ではない。
実装石は、自らの排泄物を他者に投げる事により、己の優位性を誇示する特質を持つ。
排尿を浴びせられるというのは、それに近い行為であり、侮蔑の意味と捉える事ができる。
必然的に怒りを覚えるのは、本能的な行為だ。
『何をしやがるデス、この糞ニンゲン! デシャァァァァァァ!!!』
『臭い物を引っかけられたデスッ! 目に染むデスッ! 鼻がひん曲がるデスッ!』
『ぶち殺してやるデスッ! ぶち殺してやるデスッ!』
男は意識的に排尿を止め、左手に残ったサンドイッチを高々と上げた。
左手で、ぐしゃりと潰し、手から溢れるサンドイッチの屑を大げさに落とす。
『! よ、よこすデスッ!』
『デギャー! 触るなデスッ! これは私の物デスッ!』
『退けデスッ! 私のデスッ! 私のデスッ! デギァァァァァァァ!! 』
そこへ排尿。
『ッゲボッ… これは私のデスッ! うまいデスゥ! ッゲボッ…』
『ウポッ… ケポッ…! ムグムグ… もっとよこ…ッ…すデスゥ〜 ウパッ…!』
『うまいデスゥ〜! ッゲボッ… うまいデスゥ〜! ッゲボッ…』
基本的に実装石は、2つ以上の事を平行に考えることはできない。
今は、男の手の中にあるサンドイッチのみに思考がロックされ、男から放たれる排尿が
顔や口の中に浴びせられる事は、まったく考慮に含まれていない。
手の中のサンドイッチがなくなった後でも、実装石たちは口を大きく開け。
滝のように浴びせられるそれを、息絶え絶えに受け止めていく。
『ッゲボッ…ガボッ… (ゴクン)… 次を…ッゲボッ… よこすデスゥ〜♪』
『デスゥ〜♪ 私の魅力にメロメロのガボッ… 糞ニンゲンデスゥ〜♪』
サクラは、その排尿の飛沫をかぶりながらも
野良実装の口から洩れた尿にまみれたパン屑を拾っては、ポケットに集めている。
男の排尿が終わった頃には、野良実装たちは、濡れ鼠の様だった。
頭巾や服は、男の排尿でしっとりと濡れ、体の醜いラインが透けるように体に張り付いている。
スカートの裾からは、服が吸い込んだ尿を、松の雫のようにポタポタと地面へ落としている。
前髪は額に張り付き、口から溢れる黄色の液体は、唾液か尿かわからぬ様だ。
男が大笑いで去った後には、アンモニア臭を漂わせた実装石の集団が残されたのみであった。
「デスッ!」
男が去った後、一匹の野良実装が叫んだ。
見れば、向かいのベンチ。
そこに座る老人は、この公園でも有名な愛護派の人間だ。
手には、大量の実装フードを持ち、2,3の野良実装に対して、餌を巻いているではないか。
「デスデスッ!」
「デスデース!」
出遅れた事を悔やむアンモニア集団。
そして、彼らは駆けた。飛沫を飛ばして。

 ウマイテチー! ウマイテチー! ウンコォ!! ウマイテチー!
野良仔実装たちは、そう叫んでいた。
『ウマイテチー! ウマイテチー! ママのウンコォ!! ウマイテチー!』
彼女らは、糞をうまそうに口に頬張り、咀嚼し、嚥下する。
空腹と飢餓感。昨日の夕飯から何も口に入れていないスモモらにとって
目の前で腹を満たす同属の姿を見ることは、限りなく苦痛に近かった。
スモモ達も、それに倣って、目の前の糞を手にとって口に頬張る。
しかし・・・
吐いた。
なんだ?この不味さは。
周りを見やる。
『ウマイテチー! ウマイテチー! ママのホカホカッ!! ウマイテチー!』
そう叫びながら、食糞を続ける野良仔実装たち。
もしかして、この丸い実装フードみたいのだけが、不味いのだろうか。
バナナがそう思い、緑のバナナ状の物に手をかけた。
口に入れる。
強烈な悪臭と舌先の痺れる味覚。
吐く。
当然だ。
そもそも生物の排泄物などは、栄養素を吸収したカスのようなものである。
加えて排泄物には、生体の中の毒素などの不要物も含んで、対外へ排出する。
そんなものがうまいわけがない。
イチゴが涙を流して吐き出す。
周囲の野良仔実装の喰い様を見て、少しは食べれる物かと期待した。
だが、なんだ。この不味さは。匂いは。この口の中に広がる不快な感覚は!
仔実装達は、飢餓感と目の前の糞の匂いと舌が痺れる味とで、涙を流して叫びそうになった。
手の中の糞を放り投げようとした。
しかし、それを止めたのは、実装石としての本能。
仔実装達は、頭に突き刺さるような、粘液質な視線を頭の上から感じていた。
「デェ〜〜…」
野良実装の親が、右手を口に当て、本日の昼食を喰らう子供達を見守っている。
 なんデス? 何かおかしいデス なんだろうデス。
 私の子供達の数が、どうも多いように感じるデス。
 1、2、3、4、5、?
 あれ、1、2、3、4、5・・・
 何か違うデス。何か違和感があるデス。
数字を5以上、数えられない野良実装の母は、食事をしている仔実装たちの数が
どうも多いように感じられて仕方がない。
「デ〜」と頭を右に捻り、左に捻り「デ〜デ〜」と繰り返している視線を
スモモ達、仔実装は感じている。
この野良親実装は、自らの糞を与えることで、子供たちの食事をまかなっている。
これだけの数の子供を養うためには、親実装自身、相当の量の食事をする必要がある。
人間が残した残飯はもちろんの事、自然界に生息する虫や小動物。野草や茸類など何でも摂取した。
それでも足りない時は、同属の仔までは、かどわかし、それを食料としていた。
そんな親実装石が、ふと気がついたことがある。
どうも仔実装たちの中で、服が綺麗な仔実装がいることに。
デ、デ、デ・・・
この野良実装石。数字の5までは数えることができた。
3匹。どうも、この3匹は周りの仔実装と違う動きをしているのではないか。
服の色もやけに艶やかな緑をしている。
見れば、食事をどうも取っている様子はない。
食事を口に糞を入れては吐き出し、入れては吐き出し、繰り返している様を見て思う。
 私の子供ではないのではないか。
 私の子供ではないのではないか。
その差すような視線を感じたのは、スモモである。
スモモの中にある仔実装としての本能。
仔食いの親から逃れるために、生まれながらに備わっている本能。
それが今、フル作動していた。
スモモは、赤と緑の両目を見開き、地面に落ちる糞を手に取る。
何故だか、わからないが、今はそうしないといけない気がした。
糞を口に入れる。
濃厚な糞の匂いが、スモモの鼻腔を襲う。
口に入れた糞を咀嚼する。
舌に広がる形容し難い味。卒倒しそうだった。
歯と歯の間や、歯石ポケットにも、糞が入り込む。
無意識のうちに、涙がこぼれた。
でもスモモは、
『ウマイテチィー! ママのホカホカウンコォ!! 最高テチィーーー!!!』
イチゴも、バナナもそれに倣う!
『オイシイテチ! 舌が痺れるほど、ウマイテチィ!!』
『ウンコォォォ!!! ウマーーー!!! ウンコォォォ!!! ウマーーー!!!』
目には涙。震えながら糞を口から溢れさせ、嘔吐しようとする胃の運動を
気力で抑えながら嚥下し、震えながら歓喜の声を上げた。
これも一種の媚だった。危険から身を逃れさせようとする媚。
生物学上、外敵から逃れるために行う擬態の一種を、この仔実装たちは
その場で適用しながら行ったと言える。
野良実装の親は、?な顔を続けて「デ〜」という声で鳴いた。
気のせいか。親実装は、スモモ達に向けていた視線を外し、全体を見渡す。
親実装の糞は、ひとかけら残らず野良仔実装達の腹に収まった。
野良仔実装たちは、満腹テチーと膨れたお腹を押さえて満足している。
『では、晩御飯の用意をしてくるデス』
『それまで大人しくしているデス』
と言い聞かせて、その場を去っていった。
『た・・助かったテチィ…』
口の中に溜まった糞を、その場で吐き出して、スモモはその場にへたり込んだ。
『ウゲェ… デロデロ…ピチャァッ!!』
余りの臭いに嘔吐を繰り返すイチゴ。
バナナはその場に座り込んで、震えながら呆けている。
しかし、仔実装たちに安息の時間は訪れない。
スモモ達の顔に、影がおおう。
『こいつ、誰テチか?』
野良仔実装の1匹が、スモモ達を見下ろしていた。
見知らぬ姉妹がいることに、野良仔実装たちは気がついたのだ。
『見知らぬ顔テチ』
『こいつら、勝手にママのウンコを食っていたテチ!』
『ッ!! なんて奴らテチ! 無銭飲食テチ!!』
『許せないテチ!おしおきするテチ・・・』
知らぬ間に、スモモたちは野良仔実装7匹に囲まれていた。
互いに抱き合い、震えるスモモら姉妹を、その野良仔実装7匹が囲む。
「テェェ……」とか細い声で鳴きながら、目を涙で潤ませ、小刻みに震えながら抱き合う姉妹。
その姿が、野良仔実装たちには滑稽に移った。嗜虐心をそそる格好の玩具だ。
この仔実装たちは、ママのウンコを勝手に食ったのだ。
私たちのママの愛の結晶を!許されるわけがない。許す事は許されない!
ママは、寛容で優しいので、この憐れな仔実装たちを見逃したのだろう。
しかし、ワタチたちは許さない。
『なんか、こいつら震えているテチ テプププ』
『泣いてるテチ 何テチ? 怖いんテチか?』
野良仔実装の1匹が、ちょんと、震えているバナナの足を軽く蹴った。
「ッ!! テチァァァァァァァァァ!!」
ちょっと触れられただけで、過剰反応するバナナ。
『テプッ! テププププッッ!!』
『プギャッ!! プギャギャギャッ!!』
テプテプと笑う野良仔実装たち。
ほんの軽く蹴っただけなのに、なんて反応。嬉しい玩具だ。
晩御飯は夕方。
頭の上の光が、あっちの木々に隠れて、色が変わるまで。
ママが帰ってくるまで、時間はたっぷりある。
今日は、こんな嬉しい玩具が舞い込んできた。
ずっと遊ぶテチ!ずっと遊ぶテチ!
野良仔実装の1匹が、スモモ達の前に立つ。
「テチュ〜ン♪」
スモモは、媚びて見た。
恐怖の中、必死に右手を口元に当てて、顔を横に傾けた。
「テチュ〜♪」
「テチィ♪」
イチゴもバナナもそれに倣った。
先程の食糞の時と同じ反応だ。
生き延びるために行う本能的な行動だ。
しかし、口元に残る糞まみれの顔。
汗と涙でぐちょぐちょになった表情で媚びるスモモ達。
その表情は、野良仔実装たちの嗜虐心に、一層の油を注ぐのは自明の理だった。
媚びるスモモに対して、チョッピング・ライト。
一閃。
スモモの顔がへこむ。
「デヂュアアアアアア!!!!」
スモモの体が後方に倒れ、他の姉妹たちを押しのけ、ニ回転、三回転と転げる。
それが、壮大なリンチの狼煙だった。
 怖いテチ! ママ! 助けてテチィ!
 テチィィィィィ!! 来るなテチ! 来るなテチ!
 痛いテチ! やめてテチ! お願いテチ! テギャァァァァァ!!!
野良仔実装たちは、馬乗りになり、仔実装の顔が2倍に腫れあがるまで殴る。
歯を折る。
髪を引っ張る。
腹を蹴る。
先程の糞が、胃からせりあがり、嘔吐する。
容赦はなかった。
「テチァ!! テチィィィィィィィィィィィ…」
「ヂュアア!! ヂャアアアアアア!!」
「デチチー!! テァ!! テチァ!! テチァァァァァ!!」
叫び声が一層、野良仔実装たちの嗜虐心を煽る。
楽しい。なんて声で鳴いてくれるんだろう。
全力で、殴ったり蹴ったりすれば、数分もすれば息があがる。
野良仔実装たちは、肩でハーハーと激しい呼吸を繰り返しながら、息をついた。
3匹の仔実装たちは、あらゆる所から血を出しながら、
赤と緑の両目から、血の涙を流し、
血が滲んだ歯茎(はぐき)をむき出しにし、
残った歯で、ガチガチと音を鳴らし、
ある者は舌を出し、
ある者は血を吐きながら、
糞と小便を漏らして震えている。
痛い。
とてつもなく痛い。
それは、躾どころの痛みでなかった。
 こ…怖いテチ 痛いテチ… 助けてテチィ…
 お家に帰りたいテチ… お家に帰りたいテチ…
 ママァ… 助けてェ… 何処ぉ… ママぁ…!!
恐怖。
今まで感じたことのない恐怖。
それが、今受けている痛みを倍増させる。
 もう嫌テチ。こんな事は嫌テチ。ママァ… ママァ…
 暖かい毛布ぅ… 美味しいおやつぅ… お家ぃ… 帰るのぉ…
 お家に帰って… ウンコするテチ… ウンコするテチ…
仔実装たちは、今の状況に絶望し、テェェン!テェエエン!と泣き始めた。
『テプ…』
『テププ…』
『テプッ!テプププッ!!』
腫れた顔。
折れた前歯。
パンコンした下着。
涙し、震え、媚びるように泣く小さな声。
その哀れな様が、より一層、野良仔実装たちの嗜虐心を煽る。
さて、次はどうしてくれようか!
息を整えた野良仔実装の1匹が、仔実装の1匹を指差す。
『次はコイツで遊ぶテチ』
指をさされたバナナが、!な顔をして、後ろずさるように、這って逃げる。
しかし、野良仔実装の一人に、後ろ髪を掴まれて、ずるずると引きづられる。
「テェッ! デチチー! チィー!」
大粒の涙を流し、姉達に助けを求めるバナナ。
『姉チャッ! 助けてテチィ!! 助けてテチィ!!』
しかし、スモモとイチゴは恐怖のあまり、互いに抱きついて震えるだけで、何もできなかった。
「テチァァァァァ!!」
『黙れテチ』(ガギッ!)
野良仔実装が、踵(かかと)をバナナの顔に振り下ろした。
「テェェ……」
 やけに大人しくなったテチ。
先程の叫ぶ様に比べて、いきなり大人しくなるバナナに、野良仔実装はそう思った。
躾。
そう躾だ。
その躾の痛み。
バナナを初めとした仔実装たちは、ここにいる野良仔実装たちよりも、
生まれてから、何倍もの痛みを体験してきている。
それは、サクラが仔実装たちが生まれてきてから、延々と繰り返してきた事。
それは、飼い実装石としての宿命と言えるものだ。
しかし、それが痛みに対して免疫がある、という理論には繋がらない。
痛みは、生けとし生きる万物の生物に対して、公平に与えられる特権であり義務だ。
そしてバナナ達は、その痛みに対して従順であり、そう有るべしと育てられた。
今、目の前にある「痛み」に対して不従順であれ、というのは無理な話である。
『許して欲しいテチか?』
痛みを与える当事者がそう問いかけた。
バナナが思いのかけない問いかけに、コクッコクッとすごい勢いで首を振る。
『じゃぁ、言うことを聞くテチ』
躾の原理と同じである。
痛いことは嫌だ。だから言う事を聞かないといけない。
バナナがその命令に逆らう術はない。
野良実装たちの命令は辛辣だった。
バナナは命令どおり、イチゴに馬乗りになり、その両手をイチゴの顔めがけて打ち抜く。
『テチァァァァァ!! バナナッ!! ヤメルテチィ!! ヤメルテチィ!!』
バナナに馬乗りにされ、叫ぶイチゴ。
『助かるテチィ! 助かるテチィ! これで、痛い事されなくなるテチィ!!!』
払いのけられても、なお馬乗りになり、イチゴを必要に殴り続けるバナナ。
それを見て、プギャァァァァ!!!と笑い転げる野良実装たち。
『やめるテチィィィィ!!! おまえ達ィィィィィィ!!!』
姉妹の骨肉の争いを止めようと叫び声を出し続けるスモモ。
「デチャア! テチァァァァァ!! デチャア! テチァァァァァ!!」
「デヂュアアアアアア!!!!」
「テチッテッチィィィ! テチッテッチィィィ!」
血の涙を流しながら、争うスモモたち三姉妹。
「テプッ! テプププッ!!」
「プギャッ! プギャッ! プギャーーーーーーーッッ!!!」
「テプププーーーッ!!! テプププーーーッ!!!」
「テキャァァ!! テププーーー!!!」
野良実装たちは、腹を抱えて笑い続ける。
イチゴに馬乗りになるバナナを止めようと、必死ですがり付くスモモ。
スモモは、心の底から叫んだ。
『もうイヤテチィィィ!!!! こんなのイヤテチィィィ!!!!
 助けてェェェェ!!!! ママァァァァ!!!! 助けてェ!!!! 助けてェ!!!! ニンゲェーーーンッ!!!!!』
天に向って、助けを求め、スモモは叫んだ。ママを。そして、男を。
しかし、天自身が助けを差し出す事はなかった。

その後、野良仔実装たちは、バナナに様々な命令を行った。
少しでも抵抗したスモモやイチゴには、容赦なく野良実装たちがリンチを行う。
そのリンチされた姉妹の様を見て、少しでも殴る事を躊躇をしたバナナに
野良実装たちが容赦なくリンチを加える。
仕方がなく、また姉妹たちの上に馬乗りになり、殴る、蹴るを繰り返すバナナ。
そして、言われた事を素直に実行すれば、痛い事をされない事に気付き始めたバナナ。
そのうちバナナは、「テチュ〜ン♪」と言いながら地面を這いずり回る姉妹に向って、
テププと笑い始めている。
『よし。おまえ。こいつらの髪の毛を引っこ抜くテチ』
「テチ〜♪」
 言う事を聞いていれば、痛いことはされなかった。
 痛いの嫌だ。言うことを聞いていれば、痛い事はない。
 それにしても何だ。いつも、テチテチと命令ばかりしていた姉達。
 今は、ワタチに恐れをなして、歯を鳴らして、慄き(おののき)恐れているではないか。
 テプププ。ワタチは選ばれたのだ。今まで、威張っていた姉達には、少しお仕置きが必要なのだ。
バナナは、前歯が抜けた血まみれの歯茎をむき出しにして、にやけた口元をして、
スモモ達に近づいた。
『バナナッ!! ヤメルテチィ!! ヤメルテチィ!!』
いつも懐いていた妹が、にやけた口元で暴力を振るうためにイチゴに近づいてくる。
『デチャアアア!!! 来るなテチィ!! 来るなテチィ!!』
まずイチゴの前髪を掴み、力を入れ引き抜いて行く。
 
 ブチッ…ブチブチチィ…
「デヂュアアアアアア!!!! ウポッ!! ウポッ!!」
イチゴは血の涙を流しながら、必死に自分の前髪を守るために、髪の根元を押さえる。
 ブチブチ…プチチチチチィィィィ!!!!
「ウポォォォォーーーーーーーッッ!!!」
前歯のない歯茎から、血と唾液の含まった体液を撒き散らしながら、イチゴは額を押さえて、転げまわる。
バナナの力では、全部までとはいかなかったが、イチゴの1/3ほどの前髪は、根元から引っこ抜かれた。
『ヤメルテチィィィ!!! バナナァァァァ!!!!』
スモモが体当たりで、バナナに抵抗する。
突き飛ばされたバナナは、抵抗する姉に対して怒りの仕草で地団駄を踏み、奇声を上げる。
「テキャアァァァァァァァァ!!!!!!」
そして、二人の取っ組み合いが始まる。
「テプッ! テプププッ!!」
「プギャッ! プギャッ! プギャーーーーーーーッッ!!!」
「テプププーーーッ!!! テプププーーーッ!!!」
「テキャァァ!! テププーーー!!!」
その様を、喜劇の一場面でも見るかのごとく、ある者は腹を抱え、ある者は涙を流し、
ある者は糞の匂いのする激しい口臭を撒き散らしながら、大声で笑っていた。
バナナが不利な場面になると、野良仔実装が一斉にスモモに容赦ないリンチを合わせる。
「テェエ……テェェ……」
リンチを喰らっている姉を見ては、テププ♪と口元に手当てて、笑みを浮かべるバナナ。
這いずり回って逃げるスモモの後ろから、バナナは馬乗りになり、後ろ髪を引っ張った。
仔実装の力では、髪は地肌を執拗に引っ張るだけで、抜ける事はない。
しかし、それが長く続けば続くほど、スモモには容赦のない痛みが襲っている。
「テチィィィィィィィィィィィ… テチィィィィィィィィィィィ〜〜〜!!!」
血涙を流し、前歯のない歯を食いしばりながら、必死に耐えるスモモ。
「テプッ! テプププッ!!」
「プギャッ! プギャッ! プギャーーーーーーーッッ!!!」
笑い転げる野良仔実装。
「テチッテッチィィィ!」
鬼の形相で髪を引っ張るバナナ。
まさしく阿鼻叫喚の地獄であった。
その場に、母であるサクラが居合わせたならば、瞬時に卒倒するであろう場面。
スモモの後ろ髪が、両者のベクトルに耐えられず、真ん中あたりでブチンと切れた後、
野良仔実装たちも、そろそろこの遊びに飽き始めてきた。
「テチィ♪テチュ〜ン♪」
一仕事を終え、パタパタと両手をバタつかせ、右手を口元に当て、醜い顔で媚びるバナナ。
さぁて。次の遊びは・・・と考えていようとしていた矢先、ある野良仔実装の1匹が言う。
『そういえば、こいつらの服。すごく綺麗テチ』
1匹の野良仔実装が呟いた。
改めて見るが、その野良実装の言う通りだった。
リンチの末、多少血と泥だらけになっているが、その生地自体の色からして違っていた。
野良仔実装の服は、生まれてから洗濯などをしたことがない。
母親である野良実装が、そこまで世話をしていないからだ。
7匹もいれば、その食事を賄うだけで、精一杯であるのは仕方がない。
だから、野良仔実装の服の色は、濃い緑。いや、黒に近いだろう。
服の繊維と繊維の間には、汗、垢、体液、そして糞や小便が染み込んでいる。
普通、風が吹けば、服は風を通す。
しかし、彼女らの服は、なめし皮のように風を通さない。
かつ、湿っているため、ずっしりと重い。
そんな服の素材で、頭からスカートまで覆われていた。
無論、臭いは強烈。
そして、不快な色をしていた。
比べて、スモモ達の服の色は、エメラルドグリーン。
毎日、サクラが洗剤で洗っているから、ふわふわぁのもっこもこぉ。
そのエメラルドグリーンの服を見ると、野良仔実装達は、ごくりと生唾を飲み込む。
『その服をよこすテチ』
『それは高貴なワタチが着た方がいいテチ』
『よこせテチ!よこせテチ!』
野良実装たちが、今まで命令に従順に従っていたバナナの服を剥ぎにかかる。
バナナは、?な顔をして、痛い事をされないように抵抗を始める。
 何故テチ? 言う事聞いたテチ?
 痛いことするテチ?
 嫌テチ! 言うこと聞くテチ! 言うこと聞くテチ!
殴る。蹴る。ひっぱたく。
野良仔実装たちは、バナナの髪を掴み、手足を押さえ、その輝くエメラルドグリーンの
服を剥がしに掛かる。
頭巾と服が剥がされた。バナナはパンコン状態の下着一枚の姿。
その奪われんとしている服を両手でしっかり掴み、「デチチー!!」と叫びながら、抵抗する。
『ヤメルテチー!! 服ゥ!! ワタチの服ゥ!!!』
テチーテチーと叫び、両手で服をひっぱるバナナ。
『よこせテチ!高貴なワタチにこそ、相応しい服テチ!』
所詮、7対1。力の差は歴然とした。
バナナの抵抗は虚しく、服を奪われてしまう。
その結果に悔しがり、手をばんばんと地面に叩き付けて、悔しがる。
一方、スモモとイチゴは、先程暴力を振るっていたバナナの悔しがる様を見ては、
テププッ♪ テプププ〜ッ♪と侮蔑の笑いを零している。
奪われたバナナの服は、次は野良仔実装たちの間で、奪い合いが始まった。
『ワタチのテチ!』
『何を言ってるテチ!』
『よこせテチ!よこせテチ!』
7つのベクトルの力に晒されるバナナの服。
そして、それは鈍い音とともに7つに裂けてしまった。
『テチィ・・・・』
『・・・・』
裂けてしまった服を見て、落胆する野良仔実装たち。
「ッ!! テェエエエエエン!」
バナナが裂けた自分の服を見ては、卒倒しそうになる。
しかし、傷ついた体で立ち上がり、野良実装たちの足元に転がる布着れを必死に集めてまわった。
「テチッテッチィィィ!」
布と布を必死に合わせて、修復しようとするバナナ。
不器用な両手で、布を必死に掴み、切れた端と切れた端を、震える手で合わせる。
合わせた後に、片手を離してみる。落ちる。合わせる。落ちる。当たり前だ。
「デチチー!!!!チィー!!!! テェェン! テェエエン! テェエエエエエエエエン!」
嘆くバナナ。しかし嘆こうが、現実は変わらない。
バナナの絶叫に気まずい雰囲気が流れた…が、現実はより一層厳しい。
『おまえのせいテチ!』
「テチァ!?」
破けてしまった結果に、逆切れする野良仔実装。
より一層のリンチが始まった。
馬乗りに殴る。蹴る。叩く。噛む。髪を引っ張る。
その暴行の中、下着一枚の裸仔実装姿のバナナに対して、野良仔実装の1匹が、その下着を見ては叫んだ。
『パンツテチ! こいつのパンツ! 白い部分が、まだこんなに残っているテチ!』
次は、バナナのパンツを見ては、驚愕する野良仔実装たち。
リンチを続ける野良仔実装のスカートから覗く下着は、緑色だった。
元の原色である白が残っている部分はない。
野良仔実装たちは、パンツをしばらく穿けば、前後逆にする。
またしばらくすれば、今度は裏表を逆にする。
そして、また前後逆にする。
その過程をまた繰り返す。
野良仔実装たちは、そういった処方を野良仔実装たちは母親から学んでいた。
その結果の末、下着の色は、このような色になっていた。
しかし、何だ。
こいつたちの穿いている下着の色は。
無論、パンコンしているところは緑だ。
しかし、それ以外の場所。
白。
遠い昔の記憶。
自分の下着も、そんな色をしていたような気がする。
空を見上げた時に映る雲の色。
それと同じ色をした下着。
『パンツを脱がせテチ! パンツを脱がせテチ!』
『両手を押さえるテチ! 足を広げるテチ!』
その様は、まさに輪姦だった。
両手両足を、一人ずつの野良仔実装に押さえつけられ、言いようにされるバナナ。
力の前には、仔実装などは無力だ。
『イヤァァァァァ!!!! パンツゥゥゥゥゥ!!!!! アソコォォォォォ!!!!!  ミエチャウゥゥゥゥゥゥ!!!!!』
頬を赤らめながら、場違いな叫び声をあげるバナナ。
バナナの下着が、ずるっ・・ずるっ・・と、糞を零しながら脱がされていく。
脱がされた下着は、また野良仔実装たち間で、醜い奪い合いが始まった。
『白いパンツは、純粋な私が似合うテチ!!』
『バージンロードは私の物テチ!私の物テチ!』
結局、今回は1匹の仔実装がそれを奪い、それを頭にかぶった。
糞が残る下着をかぶったために、糞が顔に流れ落ちるが、そんなことは無頓着に
『やったテチ〜 これは高貴なワタチに相応しい勝負パンツテチ〜』
と喜んでいる。
バナナは自らの股間を両手で押さえ、頬と耳まで赤くし、腰をくねらせながら
『オヨメッ! 行けないテチッ! オヨメッ! 行けないテチッ!』
と、目に涙を浮かべながら、静かに泣いている。
野良仔実装達は、裸仔実装のバナナに興味をなくし、エメラルドグリーンの服を
纏った(まとった)、震え上がっているスモモとイチゴに視線を向ける。
再び、略奪が始まった。
両手で奪われまいと、足を踏ん張り必死に抵抗するスモモ。
結局奪われてしまい、両手両足で地団駄を踏むイチゴ。
『ワタチの服ゥ! 返してテチ!! 返してテチ!!』
『テェエエエエエン! 服ゥゥゥゥゥ!!! ワタチの服ゥゥゥゥゥ!!!』
下着も奪われ、それも醜い奪い合いが始まる。
イチゴは破かれていく自分の服を見ては、デチチー!チィー!と叫び声をあげ、頭を地面に数回ぶつける。
しかし、スモモは冷静だった。
逃げるなら今である。
スモモは、虫の息のバナナの腕を掴み、悔しがるイチゴの腕を掴み、ゆっくりゆっくり
その場から後ろざる。
『ワタチの服テチッ! よこすテチッ!』
『白のパンツ!白のパンツ! 純粋なワタチにこそ相応しいテチ!!』
『やめるテチィ! プシャァァァァ!!! 破れるテチ! 手を離せテチィィ!!』
その争奪戦の最中、一匹の野良実装が叫ぶ。
『う、うまいテチ! こいつらのウンコォ、うまいテチィ!』
下着の奪い合いの中、飛び散る糞が口に入ったのか、その野良仔実装は叫んだ。
半信半疑で、もう1匹の野良実装が、奪い合っていた下着に付着していた糞を口に入れる。
『ほ、本当テチ!! 舌がとろけそうな程、甘いテチ!』
甘いというが、金平糖の甘さのそれではない。
言ってみれば、チョコレートと和菓子の甘さの差。
微妙にその味の感覚は、それに似ていた。
スモモ達は、生まれてから実装フードを中心に育てられてきた実装石である。
実装フードの成分は、糞の臭分を抑える効果のある素材などが加えられており
スモモ達の内蔵は、ほぼ清潔に保たれている。
今まで、親の糞しか味わったことのない野良仔実装にとっては、スモモ達の糞は
驚愕的に美味な物として、感じられたのだ。
『パンツ!ウンコついているテチ! ウンコ舐めさせるテチ!』
『このウンコは、ワタチの物デチ!』
『このウンコ最高テチ! このウンコ最高テチ!』
今だ!
スモモは立ち上がり、2匹の両手を引き、その場から駆けた。
走った。
闇雲に走った。
後ろから、あの野良仔実装たちが、追いかけてくるのではないか。
恐怖で、何度も後ろを振り向きそうだったが、妹たちの両手を引き、そして走った。
怖い! 怖い場所だ!
外は怖い! 家だ! 家は安心だ!
家。ダンボールハウス?
違う。男の家だ。ニンゲンの家だ。
ニンゲンはどこ?
ニンゲン・・・ニンゲンッ!
ニンゲンの家はどこ?
『ニンゲェェェーーーンッッ!!!! ニンゲェェェーーーンッッ!!!! ドコテチュゥーーーー!!! ニンゲェェェーーーンッッ!!!!』
気がつけば、スモモ達は、元のダンボールハウスの家の前に居た。
どこをどう駆けたかは忘れたが、帰巣本能というべき嗅覚でここまで戻って来た。
 テチュ〜
此処まで戻ってくれば、安心である。スモモ達は、安堵の息を吐いた。
しかし、互いの悲惨な姿を見合っては、テッスン…テッスン…と涙を流し泣く。
服と下着を奪わた裸仔実装の姿。
殴られて顔を数倍に膨れている。
その顔の至るところに糞と泥。
髪はぼろぼろ。完全に禿というわけではないが、所々が束で抜かれて禿となっている。
こんな姿で、公園をうろつくのは、死を意味するのも当然だ。
それは本能でわかっている事だ。
帰ろう。ダンボールハウスでもいい。
ママの帰りを待つんだ。
そして、ママに言おう。
ここは嫌だ。
この場所は危険だ。
帰ろう。
私たちの家へ。
ニンゲンも一緒でいい。
私たちがいるべきところは、あの家なのだ。
仔実装たちは、ダンボールハウスの中へと入った。
『金平糖デスか?』
「………」
上を見上げる裸姿のスモモ。
『金平糖デスか?』
「………」
ポカーンと口を開けて、上を見上げるスモモたち。
私たちの家のはずであるダンボールから出てきたもの。
『金平糖はまだデスか?』
それは昨晩、このダンボールを占拠していた先約実装石だった。