テチ
 
『テチ』6
■登場人物
 男    :テチの飼い主。
 テチ   :母実装を交通事故で失った仔実装。旧名カトリーヌ。
 エリサベス:ピンクの実装服を着たテチの母親。車に轢かれて死亡。
 人形   :テチの母実装の形見であるピンク実装服を着込んだ人形。
 中年女  :姓は綾小路。テチの元飼い主。
 ポリアンナ:流産で仔を失った飼い実装。
■前回までのあらすじ
 街中に響いたブレーキ音。1匹の飼い実装石が交通事故で命を失う。
その飼い実装は、ピンクの実装服の1匹の仔を残した。その名は『テチ』。
天涯孤独のテチは、男に拾われ、新しい飼い実装の生活を始める。
母実装の形見の服を着込んだ人形を与えられたテチは、男の元で飼い実装
としての道を歩み始めた。しかし、元飼い主である綾小路という中年女に
テチは引き取られてしまう。人形を失ったテチは、中年女宅で、悶々と母を
求める日々が続いた。そんな矢先、テチに実の継母を宛がう案がもたらさせた。
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ポリアンナが大道寺家の飼い実装になったのは、つい数年前の事だ。
大道寺夫妻には、一人息子が居て、既に成人して家庭を持っている。
家を離れた一人息子の代わりに、寂しさを紛らわせるために、何となしに飼い始めたのがポリアンナだった。
ポリアンナは高級飼い実装として、実装ショップに売られていた血統書付き飼い実装だった。
そのため、仔実装の頃から大した躾も施すことなく、大道寺家の飼い実装として直ぐに馴染み、
息子代わりに大道寺夫妻の寵愛を浴びることになる。
ポリアンナも飼い実装としての場を弁え、増長することなく、飼い主の事を第一と考え、主人に仕えた。
そんなポリアンナに悩みがあった。
どうやら主人達は、ポリアンナに仔を望んでいるようなのである。
それは、大道寺夫妻が実装石を飼うことにより、この地域の愛護派のコミュニティに
必然的に加わる事になったのが切欠(きっかけ)だった。
コミュニティの場である公園に集まる飼い実装石達は、ポリアンナにも劣らぬ可愛い実装石ばかり。
特に、綾小路家のピンクの実装服に身を包んだ実装石は、目を覆わんほどの可愛さだった。
そして、その飼い実装石に共通であること。
それは、誰かしら仔を連れ、また目が緑であること。
彼女達は、愛くるしい姿で仔を育んでいるのである。
その姿に感化されたのか、大道寺夫妻もポリアンナに仔を宿すことを望んだ。
無論、ポリアンナもその期待に応えるべく、我が仔の誕生を	望んだ。
この世には、仔を望んでも厳しい野生生活、また飼い実装ですら家庭の事情で
望んでも、仔を産み育む機会を得ることは稀である。
望まれぬ生の末に生まれた仔実装達が、どのように不幸なものか。
聡明なポリアンナは、その事を理解していた。
それに比べて、我が身はなんと恵まれているのか。
ポリアンナは主人である大道寺夫妻に感謝しながら、感涙に咽び、仔作りに励んだ。
しかし、ポリアンナの苦悩はそこから始まる。
仔ができない。どうしでもできないのだ。
実装石は概して多産である。
それは激しい生存競争に生き残るための、実装石の特性である。
それ故、ひょんなことから直ぐ妊娠する。それが実装石だ。
しかし、ポリアンナはどんな仔作りをしても仔を設ける事ができなかった。
そのため、ポリアンナは主人に申し訳なく思う日々を募らせることとなる。
悶々とするそんなある日、ポリアンナは友人であるエリサベスから、
仔作りのためのアドバイスを受ける。
エリサベス曰く、妊娠というメカニズムは、自らの性的興奮とも密接に関係するという。
エリサベスの床技の数々を伝授されたポリアンナは、意気揚々と主人との散歩帰りで、
道咲く野花を摘んでは、家へと持ち帰った。
ポリアンナはエリサベスに学んだ通り、浴室に草花を持ち込んで仔作りを始めた。
脱衣所で実装服と下着を脱ぎ、白い涎掛けだけを首元に掛ける。
有り得ないアンバランスな姿態を鏡越しで見るだけで、何故かドキドキしてくる。
長さの足りない涎掛けを、必死に手で伸ばし、丸見えの股間を隠そうとする鏡の中のポリアンナ。
ポリアンナは耳を真っ赤にさせながら草花を持って浴室に踊り込んだ。
エリサベスから習った床技を思い出しながら、それを実行に移す。
ポリアンナは持ち込んだタオルで目隠しをする。そして、自らの靴の匂いを嗅ぎ始めた。
 デェ… デェェェ…
蒸れた靴底の匂いが、ポリアンナの鼻腔に叩きつけられる。
気がつくと、余った手は自然に自らの胸を揉み下していた。
 デェェ!! デデェェェスッ!!
激しい昂り。今日は行けるかもしれない。
激しく総排泄口に、菫、蒲公英、蓮華草などの草々を激しく擦り付ける。
 デェデェェ!! デェェェーースッ!!
閉ざされた視界。朦朧とする香しき芳香。
ポリアンナはますます興奮して行き、知らぬ間に自らの靴を咥えて首を激しく前後させていた。
30分後。
浴室のタイルの上には、べったりとポリアンナの愛液が水溜りを作っていた。
ポリアンナは両足をくの字に合わせて、横座りし、目隠しをしていたタオルで胸を隠しながら、
火照った体を沈めようと躍起だった。
タイルの上の愛液には、野花の残骸である茎や花びらが浮かんでいる。
ポリアンナは期待を込めて、鏡を覗いた。
そこには、両目が緑色のポリアンナが、羞恥で顔を赤らめながら微笑んでいた。
『仔☆実装 倶楽部』6月号 (実と装 編集部) \1,280
 ・流行の胎教の唄シリーズ
 ・授乳大全
  <5匹以上の仔実装にうまく授乳させる体位特集>
 ・オムツの替え方講座
 ・親子で踊ろう!実装ダンス!
ポリアンナは、嬉しそうに頬を赤らめ、お腹を擦りながら、雑誌を捲り、胎教の唄を歌っている。
 デッデロゲ〜ゥ♪ デッデロゲ〜ゥ♪
最近の流行の胎教の唄だ。
 デデッ!?
お腹の中の仔が動いたらしい。
 デス〜ン♪ デスデス〜ン♪
我が子の胎動を確かめる度に、両手を頬に当て、顔を赤らめ、腰をしならせるポリアンナ。
ポリアンナは次に仔実装の人形を取り出す。
そして、隣の袋から紙オムツを取り出し、オシメを替え始める。
生まれて来る我が子のための練習なのだろう。
ぎこちない所作で、不恰好な形のオムツを穿かされる人形。
そして、歪な大きさの紙オムツを穿いた人形を腕に抱き、ポリアンナは頬をピンク色に染めて唄う。
この世に生まれし命を祝福する唄を。我が仔と迎えるであろう逢瀬の幸せの刻を。
 ボエ〜♪ ボエ〜♪ デッデロゲ〜ゥ♪ デッデロゲ〜ゥ♪
 デッデロゲ〜ゥ♪ デッデロゲ〜ゥ♪
 …ロゲ〜ゥ♪
 ……
 …
 …
 ……
 …ロゲ〜ゥ♪
 デプ!! デププッ!! デッデロゲ〜ゥ♪
 デピャピャピャッ!! デピャピャピャッ!! デッデロゲ〜ゥ♪
「階段から落ちてから、ずっとああなのよ」
そう言うのは、ポリアンナの飼い主である大道寺婦人である。
テチの飼い主である中年女は、大道寺家のリビングで、大道寺婦人と顔を合わせていた。
中年女と囲むテーブルの下では、ポリアンナが胎教の唄を絶えず唄っている。
ポリアンナの手には、仔実装の人形。彼女はそれを抱いて、唄を歌いあやし続けていた。
ポリアンナは、階段からの落下という不慮の事故により、お腹の仔を流産していた。
その事件は、大道寺婦人の留守の時に起きたという。
大道寺婦人が大丸で買い物を済ませ、帰宅した時には、ポリアンナは玄関先に倒れていたと言う。
階段には、2階から転々と赤と緑の血が付着していた。
階段の最下段の廊下には、大きな血溜まりがあった。
ポリアンナは、落ちた時点には、まだ意識があったのだろうか。
その血溜まりからポリアンナが発見された玄関先まで、赤緑の線が廊下に引かれていた。
そして、その血溜まりには、まだ手足の揃わぬ数匹の蛆が、まだ歯の生え揃わぬ口を、
絶叫の形に大きく開けて絶命していたと言う。
中には、頭から齧られたのか。ポリアンナの歯型がついた蛆も数匹居たらしい。
その場のポリアンナの狂気が、その惨状から伺い知れる。
大道寺婦人は、すぐさま実装病院へポリアンナと既に冷たくなった仔達を連れて行ったが
子供達は既に手遅れだった。
 オロロ〜ンッ!! オロロ〜ンッ!!
ポリアンナは、冷たくなった我が仔たちの亡骸を抱いて、3日3晩泣き暮れた。
既に腐敗臭のする仔実装たちを、大道寺婦人が取り上げ処分をした後、
傷心のポリアンナは、その日から奇妙な行動を取るようになったと言う。
ポリアンナは、その日より胎教時代に購入した仔実装の人形を片身離さず手にとり、
ボエ〜♪ボエ〜♪と唄いながら、その人形をあやすようなそぶりを見せ始めた。
背に抱いては、上機嫌で部屋の中を目的もなく闊歩する。
そして、その人形をリビングの床に降ろしたかと思うと、ポリアンナは紙オムツを取り出し、
デププ!! デププ!!と、ニヤつくような笑みを浮かべてオムツを替えたりした。
ある時は、平たくなったお腹を押えて、デーと低く哀しげに鳴いていたかと思うと、
いきなり宙の一点を見つめて、デプッ!! デプププッ!!と笑い出す。
そして、デッデロゲ〜♪ デッデロゲ〜♪と、上機嫌で鼻を垂らしたまま、お腹を押えて唄い出すのだ。
飼い主である大道寺婦人は、そんな傷心のポリアンナを見るに耐えれなくなった。
そんな時に、実装医師より綾小路家の仔実装の話を聞きつけたのだ。
大道寺婦人は、溜まり溜まった胸の内を、涙ながらに中年女に打ち明けていた。
 デスー!! デスデスー!!
大道寺婦人と中年女がポリアンナの鳴き声に気がついた。
テーブルの下に居たはずのポリアンナが、いつの間にか部屋の隅に居て鳴いている。
 デスー!! デスデスー!!
何かを取ってくれと言わんばかりに、棚の上に向って手を大きく上に上げるポリアンナ。
「はいはい」
大道寺婦人はそう言って、中年女との会話を一時中断し、棚の上の花瓶に活けてある花を一輪、
ポリアンナに差し出した。
 デス〜ン♪ デス〜ン♪
花を奪うように手に取ったポリアンナは、嬌声を上げて下着を脱ぎ始めた。
「ごめんなさいね。また始まったわ…」
大道寺婦人がテーブルに戻り、溜息をつくようにして言う。
 デッデッデッデッ!!
「あらまぁ」
中年女は、ポリアンナの自慰行為もとい仔作りの場面に出くわし、顔を赤らめた。
ポリアンナは、元来仔が出来にくい体質だった。
そのポリアンナが、流産という精神的ショックのため、より仔が出来にくい体に
なってしまったらしい。流産後のポリアンナの濁った両目を見て、実装医師はそう診断した。
無論、その事はポリアンナには告げてはいない。
 デッデッデッデッ!! 
場所も時も弁えず、花の茎まで全て膣内に入れて嬌声をあげるポリアンナ。
大道寺夫人は、可愛いわが娘のようなポリアンナがこのような様になってしまった事に
ショックを隠しきれない様子だった。
出来ることなら何とかしてやりたい。
ポリアンナを連れて、病院に通って精神治療も行った。しかし、それも旨くいかない。
そして、藁にも縋る思いで、仔実装を与えてみる治療案に、大道寺婦人は賭けてみる事にした。
「可哀相ざます。ポリアンナちゃん。何とかしてやりたいざます」
底抜けの愛護派である中年女は、かつての聡明なポリアンナの姿を知っているだけに、
そのポリアンナを、死んだテチの母であるエリサベスの姿にダブらせて、ハンケチを目に宛がった。
「とりあえず、うちに引き取らせて頂くざます。きっとうまく行くざます」
「ええ。そう願いたいわ」
「そうと決まれば、準備ざます」
「あら、それは?」
大道寺夫人が、中年女が持ってきた紙袋に目をやった。
「これはエリサベスちゃんのご洋服ざます。きっとカトリーヌちゃんは喜ぶざます」
中年女が紙袋から取り出したのは、ピンクのカシミヤ製の実装服だった。
そんな会話がされているのも知らずに、ポリアンナは部屋の隅で、靴の匂いを嗅いで喘いでいた。
テチは部屋の隅で、玩具のスポンジボールを両手に持って遊んでいた。
テチが手を離すと重力に従って、スポンジボールが床を転がる。
 テチュ…
転がったスポンジボールを、テチはとてとてと追いかけて、また手に取る。
 テー…
また手を離すと、スポンジボールは転々と転がった。
テチはつまらなそうに、転々と転がるボールを惰性で追いかける。
テチはピンク色の実装服に身を包み、この家で何の不自由もなく暮らしていた。
元来、ここが飼い実装であるテチの居場所である。しかし、そのテチの表情は暗い。
絶えず繰り返す母への渇望から来る葛藤が、完全にテチの精神を疲弊させていた。
その疲弊から来る肉体への負担は、仔実装ながらも暗い相貌のテチの表情に確実に現れていた。
周囲にある玩具など手に取るが、そのテチの手の動きも、心なしか鈍い。
(ガチャ…)
後ろで扉で開いた音がした。
おそらく中年女だろう。またテチの興味を引くために、新しい服や玩具を持ってきたのか。
正直、テチはそれらに興味を失っていた。煌びやかな衣装や豪勢な料理をとっても、
母実装が居ないこの部屋に、テチも求める安穏はないのだから。
テチは、その扉の音を無視して、目の前のボールを手にした時であった。
 デスゥ〜?
テチの後ろでそれが鳴いた。
 …ッ!?
テチは振り返った。
 ッ… テ…?
テチは目を白黒させて、その鳴いた正体を凝視した。
 テェ!? テェェ!?
口から唾を飛ばし、動揺を隠し切れない様子だった。
何故なら、目の前にピンクのカシミヤ製の実装頭巾に実装服を着込んだ成体実装石が、
デスゥ〜?と、仔実装の人形を片手に抱き、残った手を口元に当て首を傾げながら、
虚ろな瞳でテチの事を見つめていたからだ。
 テェ…!? テェェェェッ!!
その姿は、夢にまで見た母の姿。
 チュアアァッ!! チュアァァッ!!
幼い物心つかない時に脳裏に焼きつかれたピンク色の母の姿。
 テチィィィィィィィィィィーーー!!!!
テチは、震えた手で持つスポンジボールを放り投げて、両手を上げて、その成体実装石に
向って駆けた。
驚いたのはポリアンナの方だった。
趣味でもないピンク色の実装服に身を通し、ケージに入れられ、見知らぬ家についたかと思うと
ある部屋に入れられたばかりである。
そして、そこには、小さなピンク色の物体が居る。
なんだろう?食べ物?
そんな事を朧気に思っていると、そのピンク色の物体が心に響く声で鳴いた。
そして、それはポリアンナの方に向って、どんどん駆けて来る。
動揺を隠せないポリアンナは、思わず口から鳴き声が漏れていた。
 テチィィ!! テチィィ!!
 
 デデッ!?
 
 …ッァ!! チュァ!! チュァ!!
 デッ!? デッ!?
 テェェェン!! テェェェェン!!
 デェェェェ……!!!
ポリアンナは認識した。
このピンク色の物体は、小さな小さな実装石。
しきりに自分のピンク色の実装服に顔をうずめ、涙の染みを作りながら叫んでいる言葉こそ、
(ママーーッ!! ママーーッ!!)
と、母親を求める声。
そう。この小さな実装石は、夢にまで見た仔実装であった。
ポリアンナの震える手から、仔実装の人形がポロリと落ちた。
ポリアンナは、その開いた手を、目の前の仔実装の頭巾の上に置く。
頭巾越しに感じるそれは、温かく、そして柔らかかった。
 チュアァ!! チュァァァッ!!
 テェェェン!! テェェェェン!!
 テチィィィ!! テチィィィィィィ!!!
泣き喚く仔実装。
涙は実装服に染み、鼻水は実装服と繋がり、涎はボロボロと絨毯の上に落ちる。
ポリアンナはその仔実装を両手で抱き、堪えきれぬ涙を、仔実装の頭巾の上に落とした。
(………デス)
(ママデス…)
(私がママデスッ!!)
ポリアンナはそう叫んでいた。
そして、ポリアンナは堰を切ったように、本能のまま咆えていた。
(ママッ!! ママッ!!)
(そうデス!! 私がママデスッ!!)
(ヒトリ イヤァ!! ヒトリ イヤァ!!)
(ママはここデス!! ママはずっと、ここデスッ!!)
(ママッ!! ママッ!! テェェェェン!! テエェェェェン!!)
(オロロ〜ン!! オロロ〜ン!! デェェェェン!! デエェェェェン!!)
扉の裏では、隙間からその光景を見て涙に咽ぶ中年女が2人。
ポリアンナは、テチを仔として迎え、テチはポリアンナを母親として認めた瞬間だった。
テチとポリアンナは相性が良かったと言える。
母の失ったテチの母への依存は、仔を求めるポリアンナの渇望が癒す形となった。
テチは、この家に来てから毎日のように続けていた癇癪が止み、夜鳴きも止まった。
ポリアンナがこの家に来てから、テチは絶えずポリアンナの傍らにいる事を望んだ。
ポリアンナも、絶えず傍らに必死についてまわるテチを愛おしく思った。
ポリアンナが移動する後を、テチが必死についてまわる。
その姿は、カルガモの親子などを連想するような光景であり、見ている中年女の頬も
自然と緩む光景だった。
 テェッ!! テェッ!!
成体実装石と仔実装の歩幅。少し距離が離れたようだ。
テチは、小さな悲鳴を押し殺せず、先を歩くポリアンナに向って己を不安を訴える。
 デス〜?
リビングに入ったところで、ポリアンナは後ろを振り返る。
テチが必死にポリアンナに追いつこうと、両手をバタつかせて廊下を走っているところだった。
 テェェ!? (コテン)
アンバランスな体躯のバランスが取れず、テチは廊下につんのめる様にして転んでしまった。
 テェェ… テェェェェン!! テェェェェン!!
余りの痛さに泣いてしまうテチ。
 デププ♪ デッス〜ン♪
ポリアンナは頬を赤らめて、転んだテチを抱擁するように抱き上げる。
 デップ〜ン♪ デップ〜ン♪
テチは、転んだ拍子に足を怪我したようだ。
ポリアンナはテチの足の怪我を見つけると、口を宛がい、その傷を執拗に舌でねぶった。
 レロ〜♪ レロレロ〜♪
ポリアンナは、テチをねぶる度に、デププ♪デププ♪とご満悦の様子だ。
ポリアンナに足をねぶられたテチは、ピタリに泣き止む。
そして、手を口元に沿え、頬を桜色に染めながら、猫なで声を上げ始める。
 テチュ〜ン♪ テチュ〜ン♪
ポリアンナの桜色の頬を両手で抱きかかえるように、頬擦りを始めるテチ。
 デプッ!! デプププッ!!
ポリアンナも、そんなテチの愛おしさに、嬉しさを堪えきれず、つい笑みが零れてしまう。
ポリアンナは、泣き止んだテチを高い高いして、桜色の頬を、より一層赤くさせた。
 テプッ!! テプププッ!!
高い高いをされてご満悦のテチ。
互いに見詰め合う瞳。
上気する互いの頬。
テチはいつでも、どこでもポリアンナと一緒だった。
テチとポリアンナの蜜月が始まった。


まずは、食事。
2匹は、いつも一緒に並んで高級実装フードを齧る。
ポリポリと口から滓を零しながら、両手で高級実装フードを掴み、咀嚼するポリアンナ。
 デプッ!! デプププッ!!
目を三日月状にさせたポリアンナは、高級実装フードの余りの美味しさからか、
口から嬌声とも思しき鳴き声が漏らしながら、音を立てながら実装フードを咀嚼していく。
その度に、唾液でべっとりと塗れた実装フードの喰い滓が、ボロボロとポリアンナの口から零れていく。
その唾液塗れの喰い滓が、傍らで両手で実装フードを口に運ぶテチの頭巾や顔の上に、容赦なく降り注ぐ。
 テチュ〜ン♪ テチュ〜ン♪
頭巾が汚れようが、顔にべったりと降り注ごうが、テチも目を三日月状にしながら、
ポリアンナを見上げ凝視し、頬を赤らめ、実装フードを口にする。
とてもとても幸せな親子の食事風景。
そして、お昼寝。
ハンドタオルを掛けられながら、仰向けに寝転がっているテチ。
それに添い寝をする形でポリアンナがテチに顔を近づけて、手でテチの前髪をゆっくりと撫でている。
撫でられるたびに、テチは鼻の穴を大きくさせ、興奮の鼻息をピスー!!ピスー!!と忙しなく吐き出しながら、
頬を吊り上げて、テピャ!! テピャピャ!!と、掛けられたハンドタオルの中で手足をバタつかせている。
 ボエ〜ゥ♪ ボエ〜ゥ♪
ポリアンナの美声にうっとりとするテチ。
テチは興奮に包まれながら、シルクの下着をべっとりと湿らせて眠りに落ちる。
 デプッ!! デプププッ!!
テチを寝かしつけたポリアンナは満足気に、テチを頭をゆっくりと撫でながら、子守唄を唄い続ける。
 ボエ〜ゥ♪ ボエ〜ゥ♪
 ボエ〜ゥ…
次は、お風呂。
ポリアンナは脱衣場で、デププと笑いながら、テチを万歳させる。
 テチュ〜ン♪
万歳状態で、ピンクの実装服を脱がされるテチ。
ピンクの頭巾、シルクの下着頭巾のテチは、ポリアンナと入る風呂に対して興奮気味だ。
 テ・チュ〜ン♪ テ・チュ〜ン♪
鏡に映るシルクの下着の仔実装の刺繍を見て、うっとりするテチは、ポリアンナが服を脱ぐ間、
鏡に向ってお尻を突き出すようにして、実装ダンスを踊り出す。
 デデッ!! デデデデェ!!!
余りのテチの愛おしさに目が眩むポリアンナ。
溢れる鼻血を我慢できず、上を向いて、届かぬ手で後頭部をトントンと叩く。
 
そして、浴室へ。
ヴィダルテチュ〜ンにパンコ〜ン。
1回の入浴で、新品容器を全て使い切り、泡踊りに興じる2匹。
 チュワッ!! チュワッ!!
 デスッ!! デデデッ!!
 デッ!! デッ!! デッ!! デッ!!
 テプププーーーッ!!! テプププーーーッ!!!
 デデンデ♪ デンデンデ♪ (テチュテ テチュテチュ♪)
 デデンデ♪ デンデンデ♪ (テェー テチュテチュ♪)
お風呂上りは玩具の時間。
就寝時間まで、実装部屋で玩具で遊ぶ2匹。
 デスー! デスデスー!!
テチテチ☆魔法スティックを、バンバンと床にぶつけて嬌声をあげる
ピンクのシースルーランジェリー姿のポリアンナ。
一方、ピンクのネグリジェ姿のテチは、仔実装の人形で、ままごと遊びに興じている。
その人形は、綾小路家に持ち込んだポリアンナの唯一の私物。
妊娠したポリアンナが、生まれてくる仔実装のために、オムツの替えの練習用として
飼い主から渡された仔実装の人形である。
 テチュ〜 テチュテチュ〜!!
その仔実装の人形を高い高いをしたりして、すっかりママ気分のテチ。
そんなテチを、デーと見つめる無表情のポリアンナがいきなり騒ぎ出す。
 デデッ!! デスデースッ!!
ポリアンナは、テチから仔実装の人形を奪うようにひったくると、頬を赤らめ
ボエ〜♪ ボエ〜♪と両手に抱いて子守唄を唄い出す。
 テェェ!! テチャァァァ!!! テチャァァァ!!!
人形を奪われたテチは、不満顔だ。
叫びながらポリアンナのランジェリーを掴んで、引張り続ける。
 ボエ〜♪ デッデロゲ〜ゥ♪
脇で泣き叫ぶテチを無視して、人形に頬擦りをしながら、唄い続けるポリアンナ。
 デッス〜ン♪
続いて仔実装の人形を床に置いて、紙オムツを取り替え始めた。
 テェ…? テチュ〜ン♪
何を思ったのか、仔実装のぬいぐるみの横に並んで寝転ぶテチ。
そして、自らの足を180度に近い形に横に広げ、鼻息も荒く、ポリアンナに向って
目で何かを訴える。
 デデデッ!! デッス〜ン!!!
ポリアンナは仔実装の人形の紙オムツをすばやく脱がせ、テチのシルクを破るように剥ぎ取り、
その震える手で紙オムツを穿かせていく。
不恰好な紙オムツを穿かされたテチは満更でもないようで、その大きな不恰好な紙オムツを
気に入ったようだ。
 テチュ〜ン♪ テチュテチュ〜ン♪
ネグリジェのスカートをわざとたくし上げ、お尻をポリアンナの突き出すような形で、
お尻を器用に右へ左へ8の字に振り続けるテチ。
 デーピャピャピャッ!! デーピャピャピャッ!!
赤ら顔で大興奮のポリアンナ。
 テ・チュ〜ン♪ テ・チュ〜ン♪
歪な形の不恰好な紙オムツを穿かされたお尻を振りながら、踊るテチ。
テチは幸せだった。
心の底から求めた母実装との蜜月。
そう。テチとポリアンナの蜜月は、まだ始まったばかりだった。
 
男が公園で、テチを中年女に引き渡してから2週間が経とうとしていた。
テチを拾った男の生活は、完全に元に戻っている。
テチが来た間は、慌しい日々であり、まさしく台風が来たような感覚であったが
今思えば、そんなに悪い日々ではなかったと、男は思っている。
既にテチが使っていた皿やトイレ、お徳用の実装フードなども押入れに押し込められ
テチという台風が通った痕跡を、男は意識的に目の前から取り除こうとしているようにも見えた。
しかし、リビングに一つ。
男がどうしても、片付けるのを躊躇われてしまう物がそこにあった。
それは実装石の人形だった。
一部綻び、胸元に血の黒ずんだ跡があるピンクの実装服を着た人形。
テチの母親代わりを成したその人形は、まだそのリビングの隅に座っていた。
テチの事を忘れようとしているのに、男は事ある毎に実装人形のスカートを捲ってしまう。
スカートを捲るも、テチが居るはずもない。
しかし、その人形がそこにいるだけで、そのスカート中から、器用に両手でスカートを捲り、
ぬっと頬を赤らめて、顔を出すテチの姿を連想してしまう。
嗚呼、夜鳴きはしていないか。
母親を求めて、寂しがっていないか。
ご飯はちゃんと食べてるか。
お腹を出して、寝ていないか。
俺の事を忘れてしまって…
そこまで考えて、男は頭をぶるぶると振る。
忘れようとしても、この人形を見てしまうと、テチの事を連想してしまうのだった。
正直、男もこの人形の処分を迷っていたところだった。
いつまでも、迷い込んだ仔実装の記憶に引き摺られるより、いっその事捨ててしまうか。
そうとも考えてもいた。
しかし、テチの事を考えると、この人形を捨ててしまうのも戸惑ってしまう。
もしかしたら毎晩、母親を求めて鳴いているかもしれない。
ならば、この人形も、きっとここにいるより、テチの元に居るべきじゃないか。
そう思う日々を悶々と送りながら、そのピンクの実装人形はそこにあった。
考えても仕方がない。折角の休みだ。少し遠出でもするか。
男は答えの出ない自問自答をするのを止め、車のキーを掴んで、玄関に向った。
「少し北に走らせてみるか」
そう思い、玄関を開けた時だった。
玄関を開けると同時に、チュァァァァァァァッッ!!!!と、叫ぶ声が足元を通過した。
「え…?」
男は思わず、呆気に取られ、仰け反りそうになった。
ピンク色の物体が足元を駆けて行くのも、うっすらと目に入る。
そのピンク色の物体は、靴も脱がずに玄関から廊下に上り、突き当たりのリビングに
向って駆けて行った。
目を擦り、疲れているのか俺は?と自問自答を繰り返す。
 チュアァァァ!!! …ァァァ!!!
目を擦ろうとも、眉間に皺を寄せようとも、リビングからは小さな叫び声が、
確かに絶えず聞こえてくる。
 …ゥゥゥス!!! デスゥゥゥゥ!!!
次は確実に、耳が捉えた。
男の家に面する道路に沿って走るピンク色の物体。
 デスゥゥゥゥ!!! デスデスゥゥゥゥ!!!
それは、ピンク色の実装服を着た成体実装石だった。
その実装石が、男が立っている家の玄関の開いた扉向って、大絶叫で駆けて来る。
男は、あんぐりと口を開けて見守るしかなかった。
その成体実装石は、男の家に無断に上がりこみ、同じように靴も脱がずに、
玄関から廊下に上り、突き当たりのリビングに向って駆けて行った。
「な… なんなんだ!!」
男が目を真ん丸にしていると、道路から聞きなれた声が、男に耳に届いた。
「…つざます!! 待つざます!! カトリーヌちゃん。ポリアンナちゃん!!」
手にお土産を持った派手な衣装の中年女が、男の家の前に座り込むようにして息を切らせていた。
「ご無沙汰しているざます。カトリーヌちゃんの件で、改めてお礼に来たざます。
 と、ところで、カトリーヌちゃんは、ここに来ているざます?」
「…………」
「近くまで来たら、リードを外して走り出してしまったざます。ポリアンナちゃんも
 興奮して追いかけてしま…」
「は…ははは」
男は中年女が途中から何を話していたかも記憶になかった。
テチだ。テチが帰って来たんだ!
そう思うと、車のキーを靴箱の上に放り投げて、リビングに向って駆け出していた。
(続く)